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伯爵令嬢オヤジに腹を立てる・1

 クリスティナが目覚めた時、家のどこかで物音がしていた。部屋は暗い、まだ夜中のようだ。


 隣の寝台ではフレイヤお姉さんがよく眠っている。

ダー君とはうるちゃんがひとしきり遊んでいったから疲れたのだろう、少し頭が痛いと言っていつもより早めに寝ることにした。


 ぴぃちゃんが「頭痛いのわかる、ぴぃにはわかります」のダンスをしていたのが可愛かったです。



 喉が乾いてお水が欲しい。音がするということはレイが帰ってきてまだ寝ていないってこと。

お水をもらおうと決めて、クリスティナは静かに寝台から降りた。






 思った通り、キッチンにはレイがいた。ロウソクの明かりに照らされて腕の陰影がいい、とてもいい。クリスティナはルウェリン兄弟の肉付きを高く評価しているのだ。



「夜中にお掃除?」


 濡らした雑巾を両手で持っている。拭き掃除なら埃の見やすい日中にすればいいのにと思う。

レイが顔をこちらへ向けた。


「クリスか。どうかしたか」

「喉が乾いたの」



 お水を入れてもらおうと思ったけれど、お掃除中なら自分でします。零さないよう注意して水差しからコップに水を注ぐ。レイの分もついでに。


「はい、どうぞ」

「悪い、ありがとう」

「どういたしまして。飲んだ後は喉が乾くんでしょ。同じお水なのにねえ」



 酒と煙草の匂いがする。煙草だけなら展示会だろうけれど、酒は帰りに仲間と一杯やってきたのだろう。オヤジや野郎の言う「一杯」は「たくさん」の意味だと、クリスティナは知っている。



 お酒と水を同じに扱ったことにレイが笑う気配がして、一気にコップが空いた。


「おかわりいる?」

「いや、いい」



 コップを置いたレイはまた雑巾を持つ。よく見れば、左手の甲にのせている。掃除には不自然な動き、手を冷やしているのか。



「ぶったの?」

「そんなところだ」


 雑巾からはみ出た指が軽く曲げ伸ばしされる。可動域を確かめる動きだ。


「剣があたったの? 下手な人と試合した?」


質問にレイがはっとしたのが伝わった。



「ダー君とはうるちゃんが来て、レイが男くさいとこにいたって。だから展示会かと思ったけど違った?」



 はうるちゃんが言うには、うちに遊びに来る前に「レイなにしてっかな」と寄ってみたらしい。


 むさ苦しい男ばっか集まって武器と防具を嬉しそうに触るつまんねえ集まり、これははうるちゃん。

 デカい子が同じようなお友達と遊んでた、これはダー君。



「そんなことまで話していったのか……フレイヤさんは訳が分からなかっただろう」


どうしてレイが焦るのか不思議だ。


「お姉さん、知ってたよ。ダー君達に教えてあげてたもん。イヴリンさんが紹介したお仕事なんでしょ。レイ人気者らしいね」



 ちなみに私も結構前から知ってるよ。言い添えたクリスティナの眼前で、レイが天を仰ぐ。

 

 あれ、知らんぷりして欲しかったのかな。だったらごめん。クリスティナは気まずくなって水を飲んだ。



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