養父は娘が伯爵令嬢と知る・3
マイルスに事実確認の聞き取り調査が入る。クリスティナの実父については砦内でも伏せられていたくらいだ、マイルスも初耳だろう。
知らざる事実をいきなり突きつけられ、納得するはずもない。
突然出てきた跡取り娘に焦り、探ろうとするのは当然だ。
深く頷いたレイに対し、幼児が尊大な態度をとる。
「よしなにはからえ」
「おい、ダー。右から左に忘れたくせに偉そうに言うな」
もういいです、守護様。話が長くなるので庇ってくださらなくとも結構です、とレイは心のうちで呟く。
舌をちろりと出し挑発する幼児に、牙を見せて威嚇する狼。
尊敬の気持ちが削がれるので、できるだけ目を逸らすことにする。そろそろ帰ってくれないかと思うけれど、まさか顔に出すわけにもいかず、ひたすら念じていると。
「狼、デカい子に用はもうない。もとひにお帰りのご挨拶しに行くよ」
「んなら、遅くなんねえうちにさっさと行くか」
幼児の姿は瞬く間に消え、狼がこちらへ向け顎をしゃくる。
「うまくやっとけ、クリスティナのオヤジのことは。聖王は狭量だぜ、小さな綻びこそ気にする質だ」
言うが早いか姿が見えなくなった。聖王の器が小さいとは、レイは思わないが、大事の前の小事を気にしない者と小事を徹底する者は性格の差。
経験上、後者の方が他者に求めるものは厳しいと知っている。
守護様の言葉は意味深い。
「――ご忠告痛み入ります」
レイはなにもない空間に目礼した。
会場にオヤジの姿を見つけた。目につくよう行動してくれたのだろう。
山賊だった頃、クリスに「チクチクするからくっつかないで」と嫌われていたむさ苦しい髭は整ったお洒落髭となり、渋みのある男に見える。
その昔マクギリス兵団の切り込み隊長と呼ばれていたのも納得だ。
この場で話すつもりだったが、守護様からマイルスの件を聞いた後だ、もう少し慎重に振る舞うべきだと感じる。
展示会が終わってから、近くにある酒場へ向かおう。打ち合わせなくても察してオヤジは後から来るだろう。
「レイさん、次が本日最後の出番です」
声を掛けてきた係員の手には長槍。頭部の重いタイプは、レイの不得手なものである。
しかし売り上げ上位の販売員としては、魅力的に見せることが何より大事。
今どきこんなものは実用性に欠け、屋敷の飾りにしかならないのだとしても。
荒くれ者のなかではオヤジは話の通じる男だ。しかし、ウィストンとハートリーにされたことを思えば、マクギリス武闘派の念を背負って立つオヤジが不戦に対し両手をあげて賛成してくれる様子は、想像できない。
それをうまくやるのが俺の仕事と言われればそうなのだが。
レイは長槍を受け取りながら、足取りも重く踏み出した。




