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養父は娘が伯爵令嬢と知る・2

 

 凛とした立ち姿と射抜くような鋭い光を放つ金眼を持つ誇り高き存在。

 ルウェリンの守護様は孤高の狼だ、そのように信念を持つ人となれ、と教えられてレイとラングは育った。


しかし。


「ダーのお馬さんにしてもらえて嬉しいね、狼。『ありがたき幸せ』と震えて喜ぶのよ」

「はああ!? 耳掴んでやりたい放題のガキ背中にのせて喜ぶ狼がどこにいるんだ!? 震えるっつうなら、喜んでんじゃなくて腹立つせいに決まってんだろ!」



 宙に浮き人差し指を立てて主張する幼児に向かい、目を剥いて言い返す狼。

こんなことを申し上げてはなんだが……大人げない。


幼児がゆるゆると頭を横に振る。



「狼がひねくれててもゆるすよ。ダーは良い子だから」

「『良い子』がなんたるか、分かってねえな。はっきり言ってやるぜ、ダーは悪い子だっ」

「狼のうそつき。王はダーのこと『いい子だ』って言うよ」

「相手するのが面倒で適当なこと言ってんだ、聖王は。それを真に受けて信じるなんて可哀想なこった」

「むううう」



 言い合ううちにキスでもしそうなほど顔が近づいているが、お二方は気がついていないようだ。

そろそろ割って入ってもいいだろうか。



「このような騒がしい所までお越しくださり感謝いたします。お取り込み中とは存じますが、ご用向きをお伺いしてもよろしいでしょうか」


 やり取りを見た後では、ここまでの敬語は不要に思えるが、ひょんなことで気分を害されないとも限らない。穏便に進めたい身として、へりくだるレイ。



「そうだった。うむ、デカい子に王からお言葉がある。心して聞くがよいぞよ」


 ふんぞり返る幼児に頭を下げるのは、形式を重んじたため。

しかし待っても続きがない。様子を窺いつつ顔を上げれば、幼児の真顔が正面にあった。


 それで続きは?

急かすわけにもいかず、見つめ合っていると狼が「あっ」と声をあげた。



「ダー、さては言いつけを忘れたろ?」


 なんのことかと、幼児が小首を傾げる。忘れてしまって誤魔化しているのだと、レイにもピンとくるような角度。


「違う。狼に言わせてあげるのよ」

「嘘つけ。絶対忘れただろ。そんなことじゃねえかと思ったんだよな。聞いといて良かったぜ」



 ああ、また不毛な言い合いが始まってしまった。これは長くなる。話が聞けるのはいつになるだろうか。

こんな時にクリスがいてくれたら。レイはクリスティナの有能性に思いを馳せる。


 何度かの言い合いの後、ぷいっとした幼児に嘆息した狼が、こちらへ視線を投げた。



「仕方ねえ、俺が話す。役所に出してたクリスティナの届出書が正式に受理された。マイルスのところにも確認がいく、今いる住所がマイルスに知られる。クリスティナの周辺を嗅ぎ回る輩が出てくるかもしれねえ、充分に気をつけろっつうお達しだ。分かったな」



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