養父は娘が伯爵令嬢と知る・1
王都で開かれる武器の見本市。業者限定とは言うものの、同伴者入場可なので実質誰でも来られる。
開催三日間を通して実演と模擬試合を頼まれたレイ・マードックは、仕事をこなしながらひとりの男を探していた。
山賊の頭だった男。現在はロジャーと名乗り、鍛冶屋と組んで万能剣などという、斬って良し叩いてなお良し突いても良しの剣の開発に取り組んでいる。
さすがにそれは無理だろうとレイは思う。オヤジがどこまで本気なのかは不明。
これまでにもこういった場で顔を合わせたことはあるが、誰が見ているとも知れない。そこは互いに理解して一言二言交わすのみだった。
さて、クリス経由で聞いたルウェリンの守護様の話によれば、オヤジは元の配下に集合をかけているらしい。目的は城砦の奪還。
以前なら、いよいよかと昂ったところだが、今のレイは正直「まずい」としか思わない。無血での平和的な明け渡しを目指しているからだ。
野郎達が「おっかさん」と呼ぶジェシカさんは、クリスティナが伯爵の娘だと薄々知っていて黙っていたのではないか。
先日フレイヤさんが口にした推察に、クリスも同意した。
『ぴぃちゃんのことは誰にも言わないほうがいいって、ジェシカ母さんに言われた。珍しい鳥さんだから欲しがる人がいるかもしれないって』
英断だ。ジェシカさんはクリスの産みの母メイジーと顔見知りだと言っていた。
それで察するところがあったのだろうが、子供の言うことと切り捨てなかったのはさすがだと思う。
オヤジに伝えなかった理由は定かではないものの、あの夫婦らしいとも感じる。
オヤジの行動についてどうすべきか、聖王からの指示はない。取るに足らぬ事とお考えか、あるいは「その程度は一任する」というおつもりか。
頭を働かせながら物陰で汗をぬぐっていると、不意に視線を感じた。
迸る敵意は刺さんばかりの強さ、反射的に目を向けてしまう。そしてぎょっとした。
「守護様」
「うふふっ。こんにちは、デカい子。ダーだよ」
壁から左半身をのぞかせた姿は、驚くに値すると思う。言葉では説明し難い怖さだ。
この上なく可愛い容姿をした油断ならない守護様は、大の男を驚かせたことがよほど嬉しかったのだろう。上機嫌で宙返りした。
初めての「デカい子」呼びは受け流し、ひと呼吸おいて黙礼する。
聖王家の守護様は、行きたい場所のどこにでも行かれるのだったか。
「狼! ダーの側を離れるのは禁止なのよ」
「見えるところにいりゃいいだろ、面倒くせえ」
唇を尖らせる幼児の後ろから、のそりと影が出た。堂々たる体躯の狼だ。
「王がお供につけたのだから、狼はダーのいうことをきくのよ」
「はあ? 俺の仕事はレイまでの案内と監視だろ」
幼児の目がにんまりと三日月の形になる。
「狼、お背中に乗るよ?」
「すんませんでした、なんも言ってません」
力関係がまるわかり。目眩がするようだった。




