お疲れ狼はうるちゃん・4
ここで鼻をすすったら、はうるちゃんに色々バレちゃう。それはなんだか悔しいと言いますか。
クリスティナは深呼吸を装ってこっそりと涙などなど抑え込んだ。
手の動きは止めずに硬い毛の体を揺すっているので、はうるちゃんは気持ちよさそうに目を閉じている。
よかった。気がついてからかわれるのは嫌だもん。
「なあ、ここだけの話。本当にあの城欲しいのか?」
はうるちゃん、変なことを言い出した。
ここだけの話がすぐにみんなの知る話になるのは、クリスティナも理解している。お返事は慎重にしないと。
「『本当に』って、本当じゃない欲しいがあるの?」
狼が鼻から息を抜く。
「育て親なんだろ? あの髭面。恩を感じて親孝行のつもりで、いらねえ古い小汚え城を欲しがってんじゃねえか、クリスティナ」
「ちょっと。私のお城をなんてこと言うの」
小汚いは聞き捨てなりません。クリスティナの不満を、いっそ心地よさげに聞き流す狼は目すら開けない。
「俺の城は、ずっとルウェリンが手入れしてっから古さがいい感じだけども、取り取られのマクギリスの城は荒れてる。どんだけ金かけたって、ここんちみたいに綺麗にならねえぞ」
お姉さんのお家は、良い趣味で統一された素敵なお家でクリスティナの憧れ。
それにしてもお金の価値まで知っているなんて、はうるちゃんは実に知的な狼だ。
「なあ、クリスティナ。城砦に戻んなくても、街で綺麗な服着て、ずうっと女優さんしてちゃどうだ」
試しているの? と疑った。でも笑うわけでもなく常より淡々としているくらいだ。クリスティナは返事に窮した。
「聖王やラングの理想はそりゃ立派さ。でもな、クリスティナが無理して付き合うことはねえぜ。やり用は他にもあるんだから」
「はうるちゃん……」
クリスティナは目敏い。はうるちゃんが「ぐふん」としたことから、ぴんと来た。
今「ちょっといいこと言ったぜ、俺」って思ったよね、絶対。
「城砦は本当の本当に私が欲しいの。でも他のやり用って、例えばどんな?」
「どんなって……そりゃ、色々だよ。色々」
考えてないんじゃない、はうるちゃん。うっすらと開けた目蓋の隙間からクリスティナの様子を窺っているのが可笑しい。
疲れるほど走り回ってくれたのに、それ言っちゃう?
余計なことぐるぐる考え出した私がやる気をなくしたら、ぴぃちゃんと走り回ったのが無駄足になるかもしれないんだよ。
それでもいいと思ってくれたんだ、きっと。
「はうるちゃん、本当はいい狼だったんだね」
「はああ!? 今さら何言ってやがる、俺は前っから女子供には優しい孤高の男前一匹狼だっ」
狼が頭をもたげて叫ぶ。
はうるちゃん、ありがとう。これからもきっと伝えないけれど、まあまあ好きだよ。
自分で言う褒め言葉がびっくりするくらい長くてもね。




