お疲れ狼はうるちゃん・3
「緩んだ空気の裏で蠢くヤツが出てくんだよ。その芽を見つけるために、ぴぃも俺も走り回ってる。あ、ぴぃは『飛び回ってる』だな」
うごめくヤツって何だろう。具体的には分からないながらも背筋がぞわっとする。クリスティナは固く拳を握った。
「それで……なんか見つけたの?」
肉と水で生気を取り戻した狼がさらりと告げる。
「武装蜂起を目論む一団」
「大変! ルウェリン城が危ない!?」
色めき立つクリスティナとは対照的に、はうるちゃんはのんびりとしている。もっと危機感を持つべきだと思う。
「俺んとこも含まれるが、大半はぴぃんとこだな。狙いは城砦の奪還だから」
「私の城砦?」
「おいおい『私の』って気が早くねえか、クリスティナ。まあそうだ、マクギリスの城砦だ」
ちょっとちょっと。こんなところで伸びてないで、もっと働いて欲しいですよ、はうるちゃん。
「ぴぃちゃんだけで、大丈夫かな。はうるちゃんも行ってきて」
「そんな心配すんな。まだ、なんも始まっちゃねえよ」
「でも、鉄は熱いうちに打てって言うじゃない」
「ちいと違わねえか、芽は早いうちに摘め、だろ」
そうでした、間違えたのが恥ずかしい。こほんっと咳ばらいなどして、誤魔化すためにはうるちゃんの体を両手で揺さぶる。
「ねえねえ、ぴぃちゃんのお手伝いしてあげて。はうるちゃん」
「お、気持ちいいなそれ。疲れにきくぜ、もっと揺すれ」
狼が目を細めて体の力を抜く。そんなことはいいから、ぴぃちゃんを助けてくれと何度言ったら伝わるのか。クリスティナの目は三角になりそう。
「蜂起しそうな奴等とレイは知った仲らしいから、話つくんじゃね?」
「うん?」
「『オヤジ』と呼ばれる髭面を頭にしたマクギリスの残党で、レイは一時そいつらと暮らしてたらしいぜ。散らばってたのが密かに集結し始めたって話だ」
それ、私のよく知ってるオヤジみたい。集結してるのはバラバラになってた野郎どもだ。顔が思い浮かび、クリスティナの手がぴたりと止まった。
「いや、いいねえ。少数精鋭部隊が決死の覚悟で奇襲かけて。犠牲を出しながらも、なんとか城砦で翻るウィストン旗を降ろしてマクギリス旗を掲げて奪還成功! すげえ滾る、俺そういうの好きだわ」
高みの見物なら、物語のなかなら、手に汗握る展開でいいのだろうけれど。
お姉さんの部屋には存在しない焦げた匂いや血の匂い、しなびた野菜の匂いなどが鼻の中に一気に押し寄せて、クリスティナを黙らせる。
「でも、昔から散々見て飽きてるっちゃ飽きてる。うちのラングはそういうの古くさいと思うわけだ。んで、俺も今風にいきたいわけよ」
「……なにが言いたいの? はうるちゃん」
「クリスティナの城砦に血の匂いは似合わねえだろ。伯爵になって堂々と乗り込むなら、ピンクやオレンジの花で馬車を盛り盛りに飾って、沿道に詰めかけた領民にお手振りなんぞしながら――」
ほれ振ってみろと促されて、つい、手をひらひらと振ってしまう。誰もいないのに。
「歓声が響く雲ひとつない青空をぴぃが飛んで。そんな景色が見てみてえな、と」
はうるちゃん。ひょっとしていい狼なの?
私のこと泣かせにきてる?




