お疲れ狼はうるちゃん・2
結論から言えば、クリスティナの心配した事態にはならなかった。
目をつぶり味わうように噛み噛み。さすがカチカチ肉、ごつい歯のはうるちゃんにも歯応えがあったようでまた噛み噛みし、飲み込む。
ヨダレ一滴でも垂らしたら許さないと目を皿のようにして見ていた床は無事。
「おっほっ。実に味わい深いお肉でございますう。もうおひとついただきたい」
「それ一個しかないよ」
高級なお肉って言ったでしょ、味わって食べて欲しい。ちょっと古いけど。
尻尾で床を叩くことで落胆を表現するオヤジ狼に「お水のむ?」と尋ねる。
「水かあ。ま、くれるっつうなら、いただきますかね」
「もう普通の話し方にして」
どこがどうとは難しいけれど、はうるちゃんの上品と私の上品が違うみたい。
聞いていると、なぜかうっすら腹立たしくなる。
「――食い足りねえ。ちいと食うともっと食いたくなる」
「わかる、それ。わかるよ、はうるちゃん」
キャンディをひとつだけと思って食べると、もっとしっかりクッキーやビスケットを食べたくなるもの。
今日はフレイヤお姉さん達が帰るまで我慢我慢。
水を置いた隣にクリスティナも座る。
「で、はうるちゃんが走り回ってたのはどうして?」
「おお」
お水いらないようなこと言ったのに美味しそうに飲むね。
思っても、指摘したことでへそを曲げちゃうといけないので、黙っておく。
「アガラスが隠し玉出してきたろ」
隠し玉? 小首を傾げたクリスティナに、はうるちゃんが目を細める。
「シンシア。正統な跡取りをうちが保護してましたってな」
「え!? 今になってどうして?」
私が伯爵になろうとしていることを、どこからか聞いたのか。むむっと唸る。
すぐに失踪七年ルールを思い出した。
紛争地まで出向く命知らずのお役人がいなかったせいで、伯爵様は王国の死亡診断を受けていない。
死亡はあくまでも「死亡と推定される」どまりで、襲爵を望む親族がいた場合、当主と認められるには失踪七年ルールが適用される。
クリスティナもそこを狙ったのだった……うっかり頭から抜け落ちていたけれど。
あと一年。自分の準備は整っても、これから必要な書類や証言を集める人にはギリギリの、絶妙な期間だ。
「聖王国内がうわついてんだよな。マクギリスがハートリーにやられてから初めて、うちでは祝い事があったし、アガラスの息子は結婚話が持ち上がってるだろ。ウィストンでは本当にマクギリスの娘が生きてるなら、ハートリーの息子と結婚させりゃいいんじゃないかって話も出てるらしいぜ」
ちょっと待ってください。難しくて理解がついていかないよ私。
「マクギリスの娘とハートリーの息子っていったら、私とウォードじゃない?! え、私はいいよ。ウォードと結婚いいと思う!ウィストンは知らないし悪印象を持っているけれど、そこだけは意見が合う」
興奮して早口になるクリスティナに、はうるちゃんが舌を出す。
「聞いてたか、ちゃんと。この話の流れでマクギリスの娘っつったら、クリスティナじゃなくてシンシアのほうだろうよ」
「あ、そっか。私がいるって誰も知らないもんね」
うっかり。まず私という存在を世に知らしめて「妹ではなく私どうですか」とお尋ねしなくては。
そんなことより。
「なんでぴぃちゃんが忙しいの?」




