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お疲れ狼はうるちゃん・1

「なんか、ぐてっとしてるね。はうるちゃん」

「誰のせいだと思う」

「自分のせい?」

「んなわけ、あるか」



 遊びに来た狼はうるちゃんは、でろりんと床に寝そべって盛大にため息をついた。

他の人を気にしない態度が、オヤジっぽい。


 お疲れの理由が自分のせいでないとするなら、次に思い当たるのは。


「ダー君?」

「おいっ、不用意に名を出すんじゃねえ」


焦って金色の目玉をぐるりとさせる。器用だ。



 クリスティナはひとりでお留守番中。フレイヤお姉さんは市場へお買い物へ、レイは荷物持ちについて行った。



「ぴぃは?」

「さっき呼んだけど、珍しくいなかった」



 いつも側にいるぴぃちゃんは最近時々お出掛けして不在。理由を尋ねたら「ぴぃは飛び回っています。大変お役に立つ鳥です。褒めてください」と言っていたような気がする。


 ダンスがいくら上手でも、意思の疎通には限界がある。「もう一回」と二度踊ってもらったのに「ごめん分かりにくい」とは言えず、クリスティナは「さすが、ぴぃちゃん」と褒めたのだった。



 飛び回っているらしいことを伝えると、はうるちゃんが「はいはいはいはい」と歯を鳴らす。



「俺が縄張りを走り回ったみてえに、ぴぃも飛び回ってんだろ」

「なんで?」


 もったいぶらないで、分かるように教えて欲しいのに、ぐでぐでして目を閉じてしまう。やる気の欠片もない。貢ぎ物がいるのかな。



 クリスティナは、フレイヤお姉さんが忘れて棚に置きっぱなしにしたせいでカチカチになってしまった燻製肉を持ってきた。はうるちゃんの歯は丈夫そうだから、きっと食べられる。



「はうるちゃん、カチカチ肉食べる?」


 んあ? 限りなく面倒そうに口が開く。

入れろってことですか。


 並んだ歯は見るからに頑丈で鋭い凶器のよう。ひとつひとつが大きい。

クリスティナは思わず燻製肉を後ろ手に遠ざけてしまった。



 待っても来ない肉にしびれをきらしたらしい。はうるちゃんがギロリと目を光らせた。



「『お預け』しやがるのか、クリスティナ」


そうじゃないけど。


「お肉をきっかけに野生を取り戻したら嫌だと思って」



 ヨダレを飛び散らして噛み音を響かせながら一心不乱に肉を食らうオヤジ狼を見たら、怖くて泣いちゃうかもしれない……は嘘だけど、がっつく姿はちょっと嫌。


 ぴぃちゃんを頭からがぶりとされた時の衝撃は忘れがたく、今でも鮮明な記憶。

悪夢のような光景再び、になったらどうしよう。



「俺を理性のない獣扱いすんな。いいから、そのカチカチ肉を寄越せ。お上品に食ってやる」


 狼は獣でしょ。違うの? 違うのか。はうるちゃんは人語を使うから獣ではないのか。


「これ、お高いんだって。惜しんでたら食べ忘れたってお姉さん言ってた」



 古くなったからスープに入れるのもちょっと怖いとも言っていたけれど、はうるちゃんならお腹も丈夫そうだ。


「いいな、高級肉か」

「気を付けてね、ヨダレ。床汚すの禁止」


 クリスティナは念を押して、カチカチ肉を狼の口に入れた。



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