表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390/435

マイルス・マクギリスの焦り 1

 アンディは自室にいる。宿題を広げたものの、まったく集中できない。



「私の物には触れないよう言ってあっただろうが!」

「そうは言われましても、お掃除はしませんと……」


 下の階で「父」マイルスと母の言い争いが続いている。

いや「言い争い」は違う、争ってはいない。マイルスの怒りを、母は困惑しつつ受け止めてやんわりと自己弁護している。



「掃除と処分は別だ。私の物を勝手に捨てるなど」

「お言葉ですが、旦那様の物を私の判断で捨てたことはありません。置き場所のお記憶違いということはございませんか。お探しのものは、なんですの?」



 母がおっとりとした人でよかった。これが「おっかさん」クリスのジェシカ母さんだったら大変だ。


「自分のもんを自分で管理できないなら、持つな! その度に『ないない』と騒がれちゃ、こっちはいい迷惑だ。だいたい無くて困るモンなんて、お前さんにあるのかい」


 オヤジに向かって勢い良くたたみかけるジェシカ母さんの手には、火かき棒か鉄鍋があるはずだ。



 マイルス、この母でありがたいと思えよ。心のうちで毒づく。



 宿題を放りだし聞き耳を立てていると、部屋の扉が遠慮がちに軋んだ。

反射的に振り返った視線の先にいたのは、シャーメインだった。


「お兄ちゃん」


把手を両手で握り、弱りきった顔をする。



 マイルスはいつも穏やかな雰囲気をたたえている。それが素なのかどうかは分からないが、シャーメインには今の父親が別人に思えることだろう。怖がっているのかもしれない。



「うん、下が大変なことになっているね」


 おいで、とすると、大人しく隣まで来たので、久しぶりに膝にのせてみる。

いつの間にか重くなっていて、持ち上げる時に「んっしょ」と声が出てしまった。



 シャーメインは、ほうっと安心したように兄のお腹を背もたれにして机に向かう。大きさと温かさは、昔のクリスを思い出させた。



「お兄ちゃん、お母さん大丈夫?」


心から心配そうに言う。


「大丈夫。好きで結婚した人なんだから、自分でなんとかするよ」

「でも、お父さん怖い顔をしてた。私にも箱を触ってないかって聞いた」

「箱?」

「なかに大事なお手紙があったのにないんだって」


 シャーメインが腕でそれらしい大きさを作り、重大な秘密を打ち明けるように小声で説明する。



「お手紙か。いかにもなくなりそうなものだね。紛れて捨ててしまったかもしれないし。探しても見つからないよ」


 アンディの頬の緩みにつられてシャーメインの緊張が和らぐ。


 妹を落ち着かせようと笑ったわけではない。お探しの「大事な手紙」なら僕が持ち出したから見つかるわけがない、と思ったら笑いが漏れただけ。



 伯爵夫人からの手紙。初めは欲しい二通を模写して、本物はクリスへ写しはキャビネットの文箱へ入れた。


 そこから日にちが経っても気がつく様子がなかったので、写しも抜き取り、学校の焼却炉へと投げ込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ