勇者と愉快な仲間達と少女、初めての自己紹介
「それで、話とは?」
「……その前に一つ聞くことがある」
「何だ、まだ何かあるのか」
「ああ、おい女」
「……わ、私?」
「お前、一体何者だ」
「……」
「ラン、気持ちは分からないでも無いが少女に対して向ける目では無いだろ」
その助けてくれた恩もあると言うのに、まるで親の仇のように睨んでいる。
少女も何故、自分がそんな目を向けられなければならないのか分からずに困惑している。
「答えろ、場合によっちゃ助けてくれた恩を仇で返すことになる」
ランは、あの悪徳貴族が誰かの指示で動いていたのは確かだと言う。
そして狙われているのは自分達ではなく、この少女にあるとも話した。
確かに悪党を必要以上に甚振るランが狙われる理由は多くあるが、やはり少女の回復魔法を見て驚かなかった様子が頭の中を掻き乱す。
どう考えても、悪徳貴族が少女を知っているとしか思えない。
不可解な部分はあるが、明らかに何かの意思があって狙っていた。
ただの他所から来た少女、最初のランの認識はそうだった。
だが今は、見えない程の強大な黒い何かに狙われる理由のある少女にしか思えないのだ。
助けてくれたのだから悪意を持っているとも思えないが、それ故に怪し過ぎる。
(こいつは一体、何者なんだ…?)
「…ロロン・ディッセンバー、私は魔王の娘です」
「なっ!?」
「娘だと!?」
少女の口から正に”答え”と、呼べるものが返ってきた。
これには流石に、驚かざるを得ない。
倒した魔王の娘が、今目の前にいると言う事実。
(そうか、だからランを嫌っていたのか…!)
自分の父を倒した勇者を嫌うのは当然のこと、レンはすぐさまに身構える。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!私には戦う意思は無いんです!」
「……レン、剣を降ろせ」
「信じるのか!?」
「信じるも何も、お前にはこいつが俺を殺そうとしている輩に見えるのか?」
「…っ!」
目の前にいる少女は、敵意を向けられて怯えている。
演技でもハッタリでも無く、純粋に怖がっている様子。
「安心しろ、俺が考えていた謎は解けた。こいつは人に危害を加えるような奴じゃねぇよ」
「……そうだな、少し早まり過ぎた」
「ほっ…」
「にしても、魔王の娘か…」
「ああ、しかも僕達を仇だと思っていないのも不思議だ」
「…?」
かなり困った様子を見せる2人、何かを話そうとしているが何も話さない。
身振り手振りをしながら、唸り声のようなものを上げながら何かを悩んでいる。
「なぁロロン」
「はい、何ですか」
「お前、どこまで知ってる…?」
「どこまで、とは…?」
「……マジかよ」
「そうなると大分、話が変わってくるな…」
またしても2人は頭を悩ませる様子を見せる。と言うか、先よりも悩みの種が増えた顔をしている。
「ど、どういうことですか…?」
「魔王、お前の親父から何か聞いてねぇか?」
「い、いえ、父に会ったのは何年も前なので…」
「あんの野郎、何で自分の娘に何も話してねぇんだよ…」
「えっ、あの…?」
「仕方があるまい、漏洩させるには危険な情報だ。自分の娘だろうと話す訳にもいかないだろ」
「えっと、その…」
「だとしてもだろ!?こういうのは、さり気なく察せられる察せられないような言葉を残すもんじゃねぇのか!?」
「自分が会いに行って、娘が殺されるような事態になれば意味が無いだろ」
「けどよぉ…!」
「あの、お二人は一体何の話をしているんですか…?」
「「………」」
「何も無しですか!?」
「…いや、話すか」
「駄目だ、魔王がそう判断したのなら俺達もそれに従うべきだ」
「いいや、こいつが狙われているってことは既に手遅れだ」
「…!」
「全部話して、俺達が守るしか道は無い筈だ」
「……そうだな、もうこうなってしまった以上は仕方があるまいか」
「えっと…?」
「ロロン、落ち着いて聞いてくれ」
「は、はい…?」
「魔王は、お前の親父は―――」
『レン様、ラン様、至急お知らせしなくてはならないことがあります!』
「ブーカか、悪いが今は取り込み中なんだ。後にしてくれないか」
『申し訳ありませんが、これ以上の緊急事態は無いと思い連絡させて頂きます』
「…?」
『西から魔王軍を名乗る魔物達が、攻めて来ました!』
「…!」
「おいおい、何でだよ…!」
(何でって、だって魔王は)
魔物の王、通称”魔王”。
争いを好み、血を浴び、肉を糧とする獰猛で狂暴な生物こそが魔物。
それらを束ねる存在こそが、魔王であり人類の敵。
だが魔王は、ラン達が倒したことで魔物も鳴りを潜め数年もの間、人を襲うことをしなかった。
にも関わらず、どうだろうか。ブーカが言った言葉が真実ならば、魔王は復活を果たし再度人類の敵として、人類に立ち向かって来ている。
「これは一体、どういうことだ…?」
「本当にこれは、お前の仕業なのか…!魔王…!」
(何で、何でこの人達は困惑してるの…?)
ラン達、勇者からすれば異常事態。
しかし魔王の娘であるロロンからすれば、これを伝えに来た。可笑しなことなど何も無い。




