勇者と愉快な仲間達、少女の救出に向かう
ラン達が少女の探索を続けている時、少女は檻の中にへと入れられていた。
「ちょっと、ここから出してよ!」
「嫌だね、お前は大事な商品だ。逃がす訳ねぇだろ」
如何にも小悪党な彼らは
「ケチ!」
「ケチで結構、そういう商売だ」
「にしても、こんなガキが売れるんですかね」
「まぁ見てくれさえ良ければ買うだろ、それよりもお客様はまだか?」
「それがまだ…」
「……はぁ、まぁ良い。その内来るだろ」
「へい、すいません…」
「謝んな、お前は何も悪くねぇよ」
「て言うか、ここはどこなんですか」
「まさかここまでされて、まだ俺達が何だか分かってねぇのか」
「無理もないですよ、こんな格好しているんですから貧乏人なんでしょう」
「うっ」
「ぎゃははは!図星らしいですぜ兄貴」
「どおりで簡単に捕まってくれたわけだ、しかし今時奴隷商人を知らないなんて世間知らずも良いとこだが…まぁいいか、おい!」
「へい、今!」
「私に何する気よ」
「俺は何もしねぇよ、ただ今から来る金持ちの爺さんが何かするかもな」
「何かって……まさか!」
ニヤニヤと笑う姿にきっと何かとてつもなく嫌な事をされると流石の少女も理解したようだ。
「お察しの通りだ」
「そ、そんな美味しい物を目の前に食べられない拷問をされるの…?」
「ちっげぇよ!?それ拷問でも何でもねぇだろ、じゃなくてお前はこれから爺さんの慰め者にされんだよ可哀想によぉ」
「な、慰め者……それって美味しいの?」
「てめぇの頭は食い物しかねぇのか!?」
「兄貴こいつ相当…」
「ああ、まさかだとは思ったがどうやら教育が必要らしいな」
「へ?」
商人達は今ハッキリとこの少女がどれだけ馬鹿なのかを理解し、短い間だがこれからされることを教える為の教育をすることにした。
「いいか?お前が今からされるのは人としての尊厳つまり、道具扱いされるってことだ。決して食い物の話じゃねぇ」
「そうなんだ…」
「相手は貴族だ、マナーは大事だ。相手に嫌な気持ちにさせないことも大事だ」
「……」
「一度でも嫌な気持ちにさせてみろ?貴族は容赦なく、お前を捨てる。そうなれば食べ物どころじゃない」
驚く事に彼らは暴力と言う名の教育ではなく、文字通りの教育をし始めた。
彼らはこの仕事で生活しているが、万が一にでも相手を不快にさせれば自分達の身の安全も保証されない。
故に彼らは真摯に仕事に向き合うことで、貴族から信頼を得ることを何よりも大切にしている。
言わば、”プロ”なのだ。
だがしかし、少女の頭の悪さは商人達が思っていた以上で、こんな風に思われてしまう。
「ちょっと何言っているか……」
とても申し訳なさそうな顔で目を逸らしていたので、悪気がないのは一目で分かった。
「あ、兄貴……」
「……終わった」
これでは取引相手の貴族への商品が用意出来ずに怒鳴られ職を失うか、商品であるこの少女を引き渡しまともな商品を用意出来ていないと怒りを買い職を失うかの実質一択となった。
自業自得と言えばそれまでだが、先程も言った通り彼らは彼らなりの信念があり、それに基づき仕事をしている。職だけでなく曲がりなりにも大切にしていた心も失う。
それは詰まる所、死そのものと言えよう兄貴と呼ばれている男は錯乱し暴挙に出る。
「お前が、お前がいなければ…!」
「兄貴、ダメですそれは!」
「ヒィッ!?」
近くにあった剣を少女に向け突き刺す。どの道もう真っ当な人生は歩めない、ならばいっそ堕ちる所まで堕ちて死ねば良い。
男にはかつて妻がおり幸せな毎日を送れていた、と思っていた。
ある日、仕事が早めに終わり帰宅すると妻は他の男と裸でベッドに横たわり満たされた表情で見つめ合っていたのだ。
怒りに感情を任せた男は妻だった女と、その場にいた男を貴族に売りつけた。
これが、彼が奴隷商人となったきっかけだ。
もう何もかもどうでも良く、今更誰かを殺した所で自分の罪は変わらない。
「あ、兄貴…」
「これで俺の人生は本当に終わりだ、ははっ、はははっ…!」
おかしくなったように男は笑い始めるが、少女は死んでいない。
「ちょっと危ないじゃないですか!」
「……へ?」
「お、お前!素手で、剣を…!」
商人とは言え売っているのは人間、男もそれなりに鍛えている。
普通の人間を片手で押し退ける程度の力はある。だが少女は、そんな男が振るった剣を当たり前のように受け止めていた。
「……は?」
「よく分からないけど、人を襲うのはダメです!」
「剣を受け止め、え?」
「こいつ、もしかしてとんでもなくヤバい奴なんじゃ…」
「お、おお落ち着け偶然だ、こんなガキが俺の剣を素手で止められる訳が」
「こんな危ない物は、こうです!」
「ま、待て、まさか…!」
バキンッ!と音を鳴らし剣は折れた。
「「「ええええええ!?」」」
「はぁ、何で今日はこんな荒っぽい人ばかりに会うんだろう…」
「いやいや、俺が殴り飛ばした奴がそれを言うか?」
「いえあれは不可抗力です、大体あの人が私の話を聞か―――うええええっ!?」
「間に合ったみたいね、大丈夫?怪我は無い?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
少女は檻の端で縮こまり泣き始めた。
「て、てめぇら一体何者だ」
「俺達はエグゼステンスから来た、ここで大人しく引き渡すならお前達をボコボコにするだけで勘弁してやる」
「誰がお前の言うことを聞—――」
「兄貴ダメだ!こいつらの言う事は聞こう!じゃないと俺達の命がねぇ!」
「何を慌ててんだよ、こんな奴ら敵じゃねぇ!」
「違うよ兄貴!隣の奴の顔に見覚えあるだろ!?」
「隣の奴?見覚えって、俺はこんな奴ら知らな―――っ!?」
男はレンの顔を見て絶句しダラダラと掻いた汗で握った剣が滑り落ちる。
「おい、これじゃ殴れねぇだろ!」
「黙れ単細胞、奴隷商人とは言え他国の人間を殴ったら国際問題だ」
「ラン、ここは大人しくしてくれ。私達の目的はこいつらを懲らしめる事じゃないだろ?」
「…仕方がねぇ、今回は暴れねぇでおいてやるよ」
「貴様等、その少女を僕達に明け渡す気は?」
「……悪いが、こんなおっかないガキでも買い手が見つかってるんだ」
「そうか引き渡す気は無い、と」
「金をくれるなら、渡してやっても良いがな」
一時の感情で殺めそうになったが、まだ買い手の貴族が来れば商人達が助かる見込みがある。
それを信じ、断ったが商人達はすぐに後悔することとなる。
「仕方があるまい、おい!」
「あ?何だよ」
「ここで決闘をしないか?」
「…は?頭でも壊れたのか…?」
「僕は至って正常だ、ただ僕達が争って周囲の誰かが巻き込まれたのなら…」
「なら?」
「事故、と呼べるだろ?」
殴ると言って殴るのなら法に触れるが、腕を振りかざした時に背後に人が居ても暴行罪にはならない。
ならば、それを理由に広範囲の魔法を使えば良い、とレンは言っているのだ。
「…!」
「あ、あんた達、まさか…!」
「ははっ、確かに!こいつらは勝手に巻き込まれただけ、俺達に非はねぇよな!?」
「おい、こいつら…!」
「えっ何、何しようとしてるの…?」
そして、それが分からぬのは少女だけ。
もし言われても、表向きとは言えここは奴隷の売買を禁止しているコクリーン。
ここが何か、この者達が何をしているか問い質されて困るのはラン達ではない。
「豪海雨水!」
「「「ぎゃあああああっ!?」」」
滝のように降り注ぐ雨は、一滴一滴が全身をタコ殴りにしてくる。
思わぬ痛みに、悲鳴を上げる小悪党達だが攻撃は、もう一回残っている。
「早く離れねぇと、死んじまうかもな!」
「いや、やめてく―――」
「轟雷衝音!」
今度は雷が飛んで来た。
多量の水を浴びた後に来る雷は、小悪党達の体に強い電撃を流し込む。
流石に調整はしているものの、それでも人が気を失うには充分過ぎる威力だった。
「ふっ、スッキリしたぜ!」
まるで一仕事を終えて、ビールを飲み干す社会人のような爽やかな表情を浮かべるラン。
やっていることは悪魔だが。
「危険な目に遭わせてごめんね、今助け―――あれ?」
その隙にリンが少女を助けようとしたが、どこにもいないどころか檻は開けられていた。
「おい、何で居ねぇんだよ!」
「気を失っている奴らに聞いても、何も返ってこんだろ」
「じゃあ誰に聞けば良いんだよ」
「探すしか無いだろ、僕はそっちを探すからランはあっちを」
「ったく、しゃあねぇな」
(にしても、あのガキどこかで見た記憶が…)
未だ、自分を殴り飛ばした少女だとは知らずに探索している時。
「グヒ、グヒヒッ!」
「誰だ、てめぇ」
気色悪い上に不愉快で汚い笑い声のする方向には、ふくよかな見た目と高価な物ばかり身に着けている貴族がいた。
そして、ラン達が探していた少女を拘束している。
(あの少女!)
(まさか、あの隙に捕まえられていたの!?)
驚くべきは、ランとレンの魔法を掻い潜り少女を攫っていたことだ。
「……てめぇ、そのガキを離しやがれ」
手加減をしていたとは言え、そんなことを出来る者は早々いない。
3人の気が一気に引き締まる。
「嫌なこった、こいつは僕ちんの奴隷だ」
「ぼ、僕ちん?」
「うっわ…」
「奴はどうやら貴族のようだな」
奴隷商人とは訳が違う。貴族を殴れば、国際問題に発展してしまう。
今までコクリーンとの争いを出来るだけ回避してきたと言うのに、これでは手が出せない。
しかし、だからと言って何もしなければ少女が奴隷にされてしまう。
その2つの狭間で揺れ動くレンとリン。
「おい、ラン。言っておくが、手は出すなよ」
念の為にと、先に注意をしようと話し掛ける。
「……ん?いな―――」
隣にいたはずのランはいつの間にか姿を消しており、レンは状況を察してしまい汗をダラダラと掻き始める。
「ガキを離せって、言ってんだろ!雷撃直閃!」
止まることを知らない雷が、貴族に直撃する。




