第25話「容疑者候補探し也」
王都から馬車を飛ばして数日経ったある日、テロ対策班の捜査官であるホーク・トマーソンは窓から流れる景色を眺め、憂鬱だと云った面持ちで小さな溜息を吐いていた。
(・・・全く、ジルバ卿も無理を言ってくれる・・・・)
ホークは、自分の直属の上司であるジルバに命を受けた日の事を思い出し、苦笑いを浮かべる。
『奴は恐らくヴィエナに居る。何としても見つけ出して連れて来てくれ・・・・良いか?失敗は許されんぞ?』
失敗は許されない・・・確かに御尤もな命令ではあるのだが、その命令を受けた時、ホークはそれを無茶だと考えた。
上司が何故、ヴィエナの街にストレンジャーが居ると判断したのかその根拠は聞いた。成程、そう言われてみれば納得出来る理由であったし、恐らくジルバの考えで合っているのだろうと思う、だがしかし、キマイラを簡単にあしらう男に対してどう接すれば良いと考えているのだろうか?そう考えずにはいられなかった。
そもそも、この計画の前提にはストレンジャーがどんな人間か考慮されていないのだ。どう扱えば良いのか判らない、まさしく未知の男なのだ。
性格や思想等と云った情報は一切分かっていないし、国に対する忠誠心があるのかどうかでさえ分かっていない。それどころかジルバの話では、奴隷解放戦線とも繋がりが有ったのかも知れないのだ。ならば仲間割れをしたと言っても敵の敵は味方等と云う事は無く、此方に対して敵対心を持たれている可能性があり、無理矢理連れて行こうものなら強く抵抗される可能性もあるのだ。
上からの命令は絶対である・・・だがしかしホークは思う。命令するだけしておいて作戦や手段は部下任せと云うのは如何なものかと。これで失敗は許さないと言うのだから恐れ入るとしか言い様が無い。
貴族とはかくありきと云ったところなのだろうか?ホークは妙なところで感心してしまうのであった。
上司の無茶振りに痛む頭を押さえながらも、漸くヴィエナの街に辿り着いたホーク率いるテロ対策班は、入場の手続きを終えるとまずは宿泊先を探す事にした。 ホークは王都を出発する前、ストレンジャーが奴隷解放戦線のメンバーであった可能性も考え、この街の兵舎に出入りする事は好ましく無いであろうと考えた。
それ故に国から支給された鎧では無く、冒険者の格好に扮装して宿屋を利用する事に決めたのであった。
ホークは部下達に宿屋を手分けして探すように指示し、ギルドでトロールの調査隊の情報を仕入れながら待つ事にした。
やがて部下達が戻ってくるのだが、7人分の部屋が空いている宿屋は見つからず、条件が合う宿屋が無いか受付嬢に尋ねてみると、獣人が経営している宿屋なら空いている可能性が高いと聞き、礼を言ってギルドを後にする。
「宿屋はここか・・・メイン通りから離れてはいるが中々良い宿じゃないか」
ホークは宿屋を一目見てそう呟き、中に入って受付カウンターに向かう。カウンターの上には手押しのベルが置いてあったので2回叩いて宿の人間を呼び出した。
そうして暫くすると、宿の奥から男が現れて手続きする事になったのだが・・・・
「い、い、いらっしゃいませ。ほ、本日はごご利用いた、頂きまして、あありがとうご、ございます」
接客が致命的な宿の従業員が現れた。
そんな店主を見てホークは、(ここ大丈夫か?)等と色々と不安はあったのだが、背に腹は変えられ無いと考え直して手続を済ませるのであった。
部屋を4つ借りる事に決めて料金を支払った後、早速部屋に移動して今後の捜査方針を部下に伝える。
「良いか?確証は無いがこの街に恐らくストレンジャーが居る筈だ。まずはギルドで登録して様子を見る。これも確証の無い話になってしまうが、奴は恐らく獣人でソロハンターとして活動していると思われる。該当する者が居ても焦らず様子を見る事を徹底しろ。絶対に我々の素性を悟られる様な真似はするんじゃないぞ?・・・質問はあるか?」
「一つお聞きしたい事があります。ストレンジャーがソロで活動していると云うお考えは、どこからきたんでしょうか?」
「ジルバ卿のお考えでは奴は奴隷解放戦線の元メンバーだった可能性がある。何等かの理由で反目しあっている可能性があると仰っていた・・・・元々関係が無いと云う可能性もあるのだが、この場合だと獣人のソロハンターの可能性が低くなってしまう・・・予断は禁物だが如何せん情報が全くと言って良い程無い。あくまで頭の隅に置いておく程度に留めといてくれ」
「まずは容疑者候補を探す・・・と考えれば宜しいですか?」
「そうだ。まずは獣人のソロハンターの様子を見ていく。暫くの間はこちらからトロールの調査隊の話は振るな。勝手に話を言ってくる分には構わないが突っ込んで聞くなよ?ストレンジャーが奴隷解放戦線の元メンバーであった際には相当警戒してくる筈だ。他に質問は?・・・無いなら以上だ」
ホークは部下に様子を見させる事を徹底させた。ハンターや傭兵等と云った者達は独自のルートを介して情報を収集する者が多く、また横の繋がりも大きい。見知らぬ新参者の人間が嗅ぎ回っている事が知られれば、周り回ってストレンジャーの耳に入る可能性が高い。最早この街にいる事さえ怪しいのだが、自分達が直接探していると云う情報を漏らす訳にはいかないのだ。
手配書が回っている事はストレンジャーも知っている筈であり、この時点で出頭して来ないと云う事は男が国から身を隠していると可能性が高い。ジルバは協力者としてこちらの陣営に引き入れようと目論んでいるみたいなのだが、ホークの考えは少し違う。
(さて、どうしたものか・・・・仮に奴が見つかったとしても、交渉決裂した場合には戦闘になる可能性が高い。対ストレンジャー戦を想定して対抗策を練っておいた方が良いだろうな・・・・)
暫くの間は部下達を一般のハンターとして行動させ様子を見る事に決め、ハンター登録をする様に指示を出し、まずはこの宿の主人にトロール戦の話を聞いてみようと部屋を出る。
「いや、これは違うんだって。たまには俺が洗濯しようかなって思って・・・ほら、いつも二人にやって貰うのもアレじゃん?」
「お気持ちは嬉しいですニャ・・・でもニャんで下着だけ掴んで見てたんですかニャ?」
「そそ、それはあれっすよ、尻尾の部分ってどうなってるのかな~?て云うあくまで興味本位っすよ」
「ニャんで急に敬語ニャんですかニャ?それだったらズボンでも判る事ですニャ」
「・・・・ご主人様」
ホークが自分の部屋から出た途端、扉の向かい側の部屋から不穏な遣り取りが聞こえてきた。扉は開いており、中には正座をしている人間の男が1人と獣人の少女2人が立っていた。
一瞬、男を警備兵に突き出そうかとも考えたが、どうやら男は少女二人の主人であるらしく、余計な事で目立つのを嫌ってそのまま通り過ぎる事にした。
宿の主人に話を聞こうと一階に降りてみると、少女が食堂のテーブルを拭きながら声を掛けてきた。
「あっ、暫くお泊りになるお客さんですよね?この宿の娘のルナです。何かあったら私に言って下さいね?ほらミーちゃん、お客さんに御挨拶は?」
「こんにちあ~」
「はっは!お嬢ちゃんはミーちゃんと言うのか?私はホークだ。宜しくな」
ホークは食堂の椅子に座ってコーヒーを頼み、ルナからトロールの調査隊の話を聞こうと世間話をしつつ、トロール調査隊の情報を聞き出した。
「・・・そう言えば、最近この街で大掛かりなトロールの調査が有ったと云う話を聞いたが、どうなったのかな?」
「やっぱり他の街でも噂になってるんですか?」
「一般人は分からんが、この付近のハンターの間では割と有名な話だな。何でもキマイラが現れたとか何とかって聞いたが・・・・その話は本当なのか?」
ホークはこの街に向かう道中、宿泊先の村や町でトロールの調査隊の情報を集めていた。
「本当らしいですよ?だから最近、街全体がピリピリしてるんです・・・よくは判らないんですけど、キマイラって云う魔物はそんなに恐ろしいんですか?」
「ああ、この国ではまず見られない魔物だな。これを聞いてピンとくるかどうか判らんが、4つ星のハンターでさえ討伐出来るかどうか半々だ」
「へえ~、怖い魔物なんですね・・・」
期待はしていなかったが結局、ルナとの会話は特に目新しい情報を得る事も無く話は終わり、道具屋へ外出したりしながらこの街の情報を集めた。夕方頃になって宿に戻ると食事の用意がなされており、そこには昼間見た八千代達が食事をしていた。ホークは自分も食事にしようとルナに声を掛けて席に着く。
「この国って麺類の料理無えの?こんな暑っちいと冷やし中華とか食いたくなってくるわ~」
「冷やし中華・・・ですか?その料理ってどんな料理なのですか?」
「口で説明するの難しんだけど・・・こう何ていうか、ちょっと酸っぱいスープに刻んだ生野菜とハムを乗せた冷たい麺料理なんだよ」
「ニャんかそれ、美味しそうですニャ・・・でも聞いた事ニャい料理ですニャ」
「御主人様の国の料理なのですか?」
「・・・・あれ?どうなんだろ?多分、元々違う国が発祥した料理なんだけど、俺の生まれた国がアレンジした料理じゃねえかなあ」
「麺料理はありますけど、冷やして食べる方法は聞いた事無いですね・・・一度食べてみたいです」
「多分、あるとしたらパスタだろうな。ルナちゃんに頼んで、冷やしても美味そうな麺料理を作って貰ってみるか」
八千代の達の会話を横で聞いていたホークは、八千代が異国から来た人間である事に注目した。
(・・・異国の人間か、確かにこの国の人間とは顔の作りが違うな。ストレンジャーが使う魔法も異国の魔法の可能性がある・・・この男、もしやすると・・・・)
ホークは八千代がストレンジャーなのでは?と思った・・・とは言っても獣人を引き連れている異国の人間と云うだけなのだが、情報が今のところゼロである以上は十分に疑う余地はある・・・・のだが、昼間の八千代達の遣り取りを聞いていたホークは一瞬にしてその考えを捨て去った。
(フッ、まさかな・・・少女の下着を漁る様な変態がストレンジャーだとは思えん)
ホークは小さく笑みを浮かべ、スープを飲むのであった。
すみませんです。明日は私用で更新できませんです。(´ ・ω・`)




