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第24話「ひっそりと也」

 「ソドゴ伯爵領にキマイラが現れただと!?」



 王都シャルガンのキナ湖上空に浮かぶ島、天空島の一角に位置する防衛省の一室で男は声を上げた。


 男の名はジルバ・エルテ・ガレシア、テロ対策班の総責任者である。


 ジルバは、先々月に起きた奴隷解放戦線に因る、国立劇場襲撃テロの際に活躍した前代未聞の謎の魔法使い別称、未知(ストレンジャー)の男を重要人物であると捉え、各都市に指名手配していた。


 男(ストレンジャー)が使用した魔法は、魔法省や宮廷魔導士、研究者等に照会してみたのだが、誰もその魔法の正体について知る者が居らず、検討が付かないでいた。


 指名手配をしてから2ヶ月が経った現在も男の行方は分かって居らず、また実行犯である奴隷解放戦線のメンバーも捕まえれていない為、捜査は一向に進まないでいたのである。


 

 「はい、ヴィエナの街の西に位置する大森林で多数のトロールを目撃との情報から、ヴィエナ支部のギルドが大勢の調査隊を編成して派遣したらしいのですが、調査中にトロールの群れに因る大規模な襲撃に遭ったところにキマイラが突如として現れたそうです」


 「それはいつの話だ!?」


 「調査自体は一昨日の早朝からだそうですが、キマイラが現れたのは同日の深夜だそうです」


 「・・・・そのキマイラが先の事件と関係が無いとは思えんな・・・・そうそう現れる様な魔物では無い・・・・で?そのキマイラはその後どうなった?」


 「トロールの群れを全滅させた後、いつの間にか姿を消して行方を掴めていないそうです」


 「・・・やはりな、まさかとは思ったが恐らくは・・・・ホーク・トマーソンをヴィエナの街に向かわせる。ホークを大至急、私の執務室に来る様に言ってくれ」


 「ハッ!失礼します」


 

 ジルバは部下が敬礼して部屋を出て行くのを見送ると、椅子に座り眉間に皺を寄せながらも笑みを浮かべて呟いた。



 「私の勘が狂っていなければ、その街に奴(ストレンジャー)が居る筈だ・・・今度は逃さん」



 ジルバはキマイラが一瞬の内に消えたのは消滅では無く消失であると考えた。男(ストレンジャー)が何等かの魔法を使った事は確かなのだが、キマイラを消滅させる程の攻撃魔法を放った形跡は無く、また証言内容にも攻撃したという話は無い。

 

 通常、魔道具や魔法を発動した際には必ず現場には魔力の残滓が漂い、それを感知する事が出来るのだが、八千代の使った魔法は一切の痕跡が認められない。では一体何なのか?その答えは終ぞ得られなかったが、今回のキマイラ出没の件はテロ事件当日のキマイラと同一の魔獣だとジルバは考察した。それ故にキマイラは消滅したのでは無く、何等かの手段を用いて消失させたのだと確信する。



 (恐らく、男(ストレンジャー)はキマイラを討伐した訳では無いのだろう。隠蔽とも考えられるが、キマイラの姿をただ見えなくしたと言うのはいささか無理がある。何等かの手段を以って保管・・・・イヤ、格納?と言えば良いのか判らんが、自在に出し入れが可能と考えれば一応、辻褄は合う・・・か)



 被害者の証言から、ストレンジャーが奴隷解放戦線との関係は一切見られなかった。キマイラを一瞬にして消しされる力を持った者が奴隷解放戦線と敵対しているならば、協力者として引き込めれば大きな力となる事は間違い無い。仮に奴隷解放戦線とストレンジャーが仲間であったと仮定するならば、仲間割れした可能性が高く、いずれにせよストレンジャーを捕らえる事が出来れば、今後の活動に大きな進展が見込まれる・・・そうジルバは考えたのであった。



 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 現在、八千代を含む調査隊はトロールの死骸を手分けして回収していた。大量の死骸を放っておけば、他の魔獣を引き寄せる原因になったり、肉が腐って疫病が発生する恐れもある為、焼却して処分していたのだが、余りにもの大きいサイズと大量の死骸の為に作業は難航し、2日経った現在も処理作業に掛かっていたのであった。



 「いやー、やり過ぎちったかな~」


 「全滅はやり過ぎですニャ、最後ニョ方ニャんて笑って遠くまで逃げたトロールを追いかけ回してたですニャ」


 「よしおちゃん活き活きしてましたね~」



 トロールの数が3分の1以下まで減った頃には既に、背を見せて敗走していたのであったのだが、圧倒的な殺戮劇にハイになった八千代は、これまた日頃の鬱憤を晴らしてハイになっているよしおに、殲滅の指示を出した為に収拾が着かなくなっていた。


 八千代が横で白目になって気絶しているスキンヘッドの先輩ハンター、ロイ・キールに気付き、慌ててよしおを回収したのであった。



 「ブハハッ!あのオッサン立ったまま気絶して泡吹いてたな」


 「笑い事じゃニャいですニャ」


 「・・・・他のハンターの皆さん、泣いてましたね・・・・」



 今も死んだ目をしたハンター達が死体の回収作業を行っており、そのハンター達の中には「・・・俺、ハンターに向いてねえわ・・・この作業が終わったら田舎に帰って畑でも耕すよ・・・・」等と言い出す者も現れ始め、その呟きを聞いて何とも言えない罪悪感を抱く八千代ガールズの二人であった。



 全ての死骸の処分が終わると調査初日の時とは打って変わり、誰が何を言い出す訳でも無く自然と隊列を組んで帰り、そのままギルドで解散となった。



 「報酬が後日って何だよ、聞いてねえけど?」


 「サブマスターさんが最初にそう説明されてましたけど・・・・」


 「ご主人様はちゃんと説明を聞いてくださいニャ」


 

 ミュミュに注意されつつ帰宅したヤチヨーズは、今日一日は休日にする事に決め、部屋で本を読んだり喋ったりしてゴロゴロとしていた。会話している内に何となく自然と一昨日の反省会になり、八千代は先日の失態を反省するのであった。



 「よしおを出したのはちょっとまずったな~、多分見られてないと思うけど心配になってきたわ・・・アイテムボックスの事バレなきゃ良いけど・・・・」



 八千代がそう言って不安気な表情を浮かべてそう言うと、カミユがその言葉に対して疑問に思う。



 「ご主人様は何でそんなにオリジナル魔法(アイテムボックス)の事を隠したがるんですか?凄いと思うんですけど・・・」


 「そうですニャ、そんニャ魔法は聞いた事も見た事もニャいですニャ」



 二人は八千代の秘匿する理由が不思議でならなかった。八千代のアイテムボックスの有用さは、それこそ考え出せば幾らでもある。この町で危険な目に遭ってまでハンターを続けなくてもその有用性が認められれば、王都の商人や貴族に召し抱えられる事も夢では無い。自分達の立場だったならば必死にアピールしている、そう考えていた。



 「うん、前も言ったと思うんだけど、俺の一族の固有魔法だから秘密にしておきたいんだよ。確かにその気になればお金も稼げるんだけどさ、この魔法の秘密を調べたがる奴も一杯居ると思うんだよね・・・下手したら命も狙われちゃうかも知れ無いしさ・・・」


 「い、命って、そんな大事になっちゃうんですか?」



 まさか八千代の秘密が生死に関わってくるとは夢にも思わなかったカミユは、予想外の言葉に驚いて問い返す。



 「この魔法の一番のメリットは何かって言ったら、何でも入れれる収納力なんだよ。もし俺が闇組織の人間だったら、攫って無理矢理言う事聞かせて利用するわ」


 「どうしてですかニャ?確かに便利ですけど、そこまでして必要ニャ魔法だとは思わニャいですニャ」


 「何でも入れれるって事は、死体も入れれるし、誘拐して閉じ込める事も出来るじゃん?麻薬とかも運び放題だし、兎に角悪事に使おうって思えば幾らでも出来るんだよ」


 「それだったら国に仕えれば、手出し出来ニャいんじゃニャいんですニャ?」


 「その国のお偉いさんが悪人じゃ無いって保証はどこにも無いっしょ?結局、どちらにしても誰かにバレたらずっと利用される事になっちゃうんだよ・・・そしてこの魔法の秘密を調べようとする奴も現れ始める事になる」


 「「・・・・・・」」


 「まあ、言いたい事は分かるけどね・・・リスクを考えると割に合わないんだよ。高い報酬を貰って監視されたりして不自由な生活を送るか、自分でコツコツ稼いでひっそりと自由に生きるか・・・2人だったらどっちが良い?」



 「「・・・・・・」」



 八千代は敢えてネガティブな方向に話を誘導した。確かに今言った事も事実であり、決して嘘では無いのだが、八千代は誰にも仕える気は無い。よくラノベでチート能力者が貴族や王族に仕えたりする転生モノはあるが、八千代に言わせると甘いと言わざるを得ない。


 ホイホイと自分の能力をひけらかして好き勝手に生きれば、さぞかし楽しい人生だろう・・・最強の力を以って敵を蹂躙し、秀でた頭脳や進んだ知識で文化を大きく変革させて巨万の富を手にしていく・・・だがしかし、その行動に因って不利益を被る人間は悪人も善人も関係無く必ず存在し、それまでの人生が良くも悪くも大きく変わるのだ。悪人だけが被害を受けるのなら良いかもしれない・・・だがそんな都合の良い事は決して無いのだ。


 そんな事は知った事では無いし、自分には関係無い・・・そう言えるなら大したものだろう、だがしかし、それに因って恨みを抱える人間は必ず生まれ、目に見えない形で巧妙に危害を加えられる可能性もあるのだ。


 いくら強大な力や秀でた頭脳や知識を以ってしても、全部を対応しきれる訳が無い。仮に自分が対応出来たとしても自分の知り合いや友人、家族や恋人、自分を取り巻く全ての人間に対してその恨みや悪意を以って危害を加えられる事もあるのだが、その危害に対応出来ると言うのだろうか? 


 八千代自身、ラノベは好きで読んだりしているが、物語の主人公の様に上手く対応出来るとは決して思えない。自分の都合の良いタイミングで、敵が目に見えた危害を加えて来るとはとても思えないのだ。


 ではどうすれば良いのか?・・・それは目立たない様にするのが一番なのだ。この世界に魔王が居たとして世界を滅ぼそうとしていたとしても、ギリギリまで動くつもりは無いし、動くなら自分の正体がばれない様に行動する。


 とは言ってもひっそりと自分でコツコツどころか、ブルードラゴンの鱗を拾ってガッツリ大金をせしめて、若くて可愛い奴隷を2人もゲットした件でやたら目立っている人間が、目立たない様に生きるとはどう云う了見で言っているのだろうか?



 「まあ、要は目を付けられない程度に上手くやっていけばOKっしょ?」



 既に国の機関に八千代(ストレンジャー)として目を付けられている男は呑気に構えるのであった。

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