第23話「阿鼻叫喚也」
「〇×△□◇!!」
「んん・・・うるせえなあ・・・・あ?」
深夜、八千代達は目が覚めた。テントの外は騒がしく、聞こえてくる声は足音や鐘を叩く音、怒号に因って掻き消されて具体的な内容が確認出来ていないのだが、兎に角何か問題が起こったのであろうと考えて八千代はテントから頭を出すと、森へと向かって走るハンター達の姿がそこにあった。
周りの様子を見まわすと、他にも八千代達と同じ様に騒ぎに気付いた者達が、テントから顔を覗かせて周りを見回していた。
状況をイマイチ把握出来ないで居ると、八千代のテントの直ぐ横をロイが仲間と共に走り抜けようとしている姿を目にし、慌てて声を掛ける。
「ロイさんっ!!何があったんすか?」
「トロールだっ!!集団で襲って来てる!お前等も早く準備して出撃しろ!」
ロイは立ち止まる事無くそう叫ぶと、そのまま振り返って現場へと走って行った。
「・・・チッ!魔物が襲撃とか、お約束かよ!?・・・ミュミュちん!カミュたん!トロー・・ル・・だ・・・・・」
八千代が振り返り、準備を急ぐ様に促そうとするが、八千代の目の前にはプルンプルンのプルンプルンが合計4つ目に映った。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ご主人様!?」
トロール襲撃と聞き、急いで出撃準備を済ませた二人が八千代の指示を受け様と顔を向けた瞬間、八千代の姿に気付いてジト目になった。二人はてっきり八千代も急いで準備をしているものだと思って見てみると、如意金箍棒をカッチカチにしたオッサンが何も準備をしないまま顔を赤くしていたのだ。
当の八千代は思わずその古来より伝わる楽園、黄金郷に目を奪われてしまっていただけなのだ・・・・彼の何がいけなかったと言うのだろうか?
二人に遅れながらも、急いで準備を済ませた八千代はテントの外へと飛び出し、二人を伴って戦場へと向かって走った。
森付近に設置した簡易の防護柵は倒され、テントに燃え移った火が燃え上がり、辺りを赤く照らしていた。トロールは柵等存在しないかの様に様々な場所から現れ、相対するハンター達を相手に暴れていた。
「チッ!もう無茶苦茶じゃねえか!手え付けらんねえぞこれ!」
八千代はその光景を睨みながら悪態を吐くと、進行方向で暴れているトロールを指さしてカミユに向かって指示を飛ばす。
「カミユたん!ボーガンで目を狙ってくれ!」
「ハイッ!」
カミユは立ち止まって膝を着き、狙いを絞ってトロールの目を射ち抜く。
「ウヴァア!!」
カミユの矢は見事トロールに突き刺さると、トロールは怯みながらも矢を引き抜く。
「ウニャ~!」
ミュミュはその隙に猛然と詰め寄るが、ミュミュよりも先にファイヤージャベリン10本がトロールに殺到し着弾する。トロールの全身は一瞬にして燃え上がり、その余りにもの熱さと炎で失われる酸素の消失現象に因って酸欠となり、苦しみ悶えてその場に倒れ転げ回る。
「ミュミュちん!トロールの数が多過ぎるから一気に魔法で仕留めた方が早い、ミュミュはカミユたんの援護に回ってくれ!」
「分かりましたニャ!」
八千代がそう指示している間も森の奥から次々とトロールが現れ、刻一刻と時間が経つにつれて、ハンター達の形勢は悪くなっていくばかりであった。
「クソがあ!!何匹居やがるんだよ!?」
「誰か手を貸してくれえ!!負傷者が出たぞ!!」
トロールの数は既に数百にまで広がり、1人、また一人と命を散らし負傷していく。ハンターの壁を突破されそうになった瞬間にサブマスターの声が戦場に響き渡る。
「一旦後退しろっ!!態勢を立て直す!!」
いつの間にか現場に駆けつけていたサブマスターのトーイが指示を出す。その合図を切っ掛けに魔法使い達が一斉に魔法の矢を放ってトロールの群れを足止めしている隙に、ハンター達は態勢を整え様と急いで後退していく。
トロールの群れからからおよそ50メートル以上離れた所で態勢を整え、魚鱗の陣の形になった所でサブマスターが再度指示を出す。
「良いかよく聞け!?この広い地形でトロールをまともに相手するのは不利だ!まずは弓矢と魔法を使える者がトロールを森に誘い込むんだ!この攻撃で仕留める必要はないから一匹に付き一発に留めろ!森に誘い込んでからは各個撃破で確実に仕留める!良いか?固まるんじゃ無いぞ?奴等の動きは鈍い、攪乱しながら攻撃するんだ!分かったな!?」
「「「「「おうっ!!!」」」」」
「負傷した者はあちらの奥に来い、救護班が準備して待機している。人手が必要なら空中に光の矢を放て、それが合図だ。森の中では決して火の魔法は使うなよ?では行動開始だ!」
ハンター達はそれぞれのチームに別れて魔法や矢を射ちながら森に移動する。サブマスターの思惑は成功し、攻撃を受けたトロール達はハンター達を追いかけてきて、見事森の中に誘い込む事に成功するのだが、ここで計算外の出来事が起こる。
その計算外の出来事とは、攻撃を受けていない筈のトロール達が一斉にハンター達に向かい襲い掛かって来たのだ。
「何っ!?そんな馬鹿な!?」
サブマスターの見立てでは、トロール達はハンター達の食料を狙って襲い掛かってきているものだと考えていた。トロールという種族は食欲に対して非常に貪欲であり、村を襲った場合でも食料を諦めて一旦避難さえして居れば、ある程度の食欲が満たさるとその場を離れて行き、それ以上は無理して人間を襲う事は今まで無かったのであった。
それらの事例を知っているトーイはそれを踏まえ、食料に夢中になって漁っているトロールを攻撃しておびき寄せれば一体ずつ討伐出来ると判断し、作戦を立案したのだがその思惑は外れ、トロールはテントを襲う事や食料を漁る事も無く、ハンター達に猛然と押し寄せるのであった。
いずれにせよトロールを分断できなかった事は失敗ではあったが、トロールの巨体では広い場所に比べて機動力は落ち、攻撃を受ける被害率は下がったのだが、思惑が外れた事に対するハンター達の動揺は決して小さくは無かったのである。
その結果、落ち着いて行動すれば決して受ける事の無かったダメージを受ける者達が続出し、戦局は一気に動く。
誘導する為に前に出ていた魔法使い達は逃げ遅れ、そしてその魔法使いを助けようと前に出た前衛の者達はトロールの集団の前に一気に詰め寄られて命を散らしていった。
八千代も誘導する側にいた為に、トロールの集団に目の前まで詰め寄られるが・・・・・
「・・・・うぜえんだよ!!クソデブ共があ!!よしお出てこいやっ!!」
どこかのプロレス団体の総統の様な声を上げると同時に空間の歪みからキマイラであるよしおが飛び出して一気にトロールを蹴散らしていく。
「ガアアアアアアアアアアッ!!!」
よしおの一振りでトロールの頭は豆腐の様に簡単に砕けて飛び散っていく、その圧倒的なまでの暴力の化身に対して、トロールは声を上げる事も出来ずに死体を積み上げていくのであった。
「ワハハハハハハッ!良いぞ!よしお!その調子で薙ぎ払え!俺が許す!」
その光景はまるで人ゴミの中に放たれた野生のライオンの様であった。数の上で有利である筈のトロール達が我を忘れて逃げるその背を追いかけ、次々とトロール達を血祭りに上げていくその光景は地獄絵図の一言に尽きるのであった。
「ヒャッハー!!お前の恨みを!その身に秘めたる怒りを!解き放つが良ぃいい!」
よしおの恨みやその身に秘めたる怒りの原因は全て八千代のせいであるのだが、圧倒的な殺戮劇に良い気になって調子乗る八千代は、決してその事実に気付く事は無かった。
「よしおちゃん!他の人達も助けてあげて!?」
カミユは一向に他のハンター達を助ける指示を出さない八千代を無視し、よしおにお願いする。
「ガウ?・・・・・ガアアア!!」
自身を八千代の魔の手から救ってくれた真の主人の命を受け、劣勢であったハンター達の窮地を次々と救って行く。
そうしてトロールの軍勢に傾いていた戦局がよしおの出現に因って一気に傾いていった。
「な!?な、何でキマイラがここに!?」
有り得ない光景が目の前で繰り広げられている事にトーイは戦慄していた。自身の采配が窮地を呼び、このまま全滅する前に撤退の命令を出そうとした時、突如としてキマイラが現れたのだ。
「・・・・・だ、駄目だ・・・・もう終わった・・・・・ス、スマナイ皆、俺のせいで・・・・」
トーイは生存出来る可能性を完全に捨て去った。キマイラ(よしお)は元々人類の支配域を超えたイールトン大森林の奥地や古代のダンジョンに生息している魔獣である。討伐レベルに関しても、4つ星以上のパーティーで漸く討伐出来るか否かと云った存在であり、ヴィエナの街に所属する最高位のパーティーでさえも3つ星レベルしかいないのだ。
突如として現れて殺戮劇を繰り広げるキマイラに絶望したハンター達は、キマイラの手に因って自身達の身が助けられた事実には全く気付く事は無く、泣き叫びながら逃げ回りトーイの前を走り抜けて行く。トーイは自分の誤った采配に因って全滅の憂き目に遭っているハンター達を眺め、ただ涙しながら懺悔する事しか出来無かったのであった。
「ヒャッハー!や~れや~れ~い、亡き者にしてやれ~い!」
「ご、ご主人様、落ち着いてくださいニャ!」
戦場にトロールとハンター達の泣き叫ぶ声が鳴り響く中、死神の笑い声だけが木霊していたと云う。




