エステリーゼ
一応言っておくと、新キャラの事情に主人公が首をつっこんだりとかはないです。
また、新キャラ押しになるわけでもないのでご安心を。
「ちょっと貴方、いいかしら?」
「ん?僕?」
「そうよ。一人称を僕にして、女の子なのに僕!僕なのに女の子!そのギャップで『なんかドキがムネムネする~』という類の関心を周りから買って、学園の人気者になろうとする、あざとい貴方。そう!
貴方のことよっ!!」
ふと声をかけられたので、振り向くと金髪長髪のいかにもなお嬢様がいた。エルフみたいな長い耳が特徴的である。
服はフリフリゴスロリドレス(赤色)。
そしてその発想はなかった、とだけ言っておこう。
あと、ビシッと踏ん反り帰りながらこちらを指差すのもどうにかならないだろうか。
はしたないですのことよ、お嬢様。
「えと・・・」
「私の名前はエステリーゼ・フォル・マルマインよ。本来ならば貴方から名乗るところ、私から名乗るなんて行為、まず無いのだから。ありがたく思って拝聴なさい。」
マルマインと聞くと、こちらを上回る速さと大爆発でこちらの手持ちが開幕落とされるポ○モンの○マインを思い出す。
「えと、その・・・マルマインさん?が僕になにかようですか?」
「・・・。」
ズダンと地面を踏み鳴らす。
「あの?」
またもやズダンと。
顔を見ると非常に不満げだ。
「・・・えっと・・・斬新なダンス、ですね?」
「違うわよっ!?
脚をただ地面に叩きつけるだけのダンスなんてあるわけがないでしょうっ!?」
「僕の故郷では普通にあったんです・・・貴族様にはわからないかもしれませんが。」
「あ、あら?そう。それは悪かったわ。」
あ、やっぱり貴族だったのね。
「嘘ですけど。」
「う、うそっ!?
・・・あ、あああ、あ、」
「あ?」
「貴方っ!嘘つきは泥棒の始まりですわよ!?」
ごめんなさい、泥棒してました。
「ま、まぁいいわ。私は寛大なのでその程度のちゃちな嘘で怒るようなことはしません。それよりも・・・」
ひくひく顔が引きつってるのは怒りを我慢しているというわけではないらしい。
つり目気味の美人が台無しであるから、もう少し自然な笑顔を心がけたらどうだろうか?
「よ、余計なお世話ですっ!」
さいですか。
「それよりもこちらが名乗ったのですから・・・」
「ああ、なるほど。アルトと言います。」
「では、アルトさん。」
「あ、えと、なんでしょうか?」
彼女の背後の男の子が返事をした。
「あら?
どうしてあなたが返事をするのです?私は彼女と話しているのですが・・・」
「あ、いえ・・・でも、名前・・・よびませんでしたか?」
「・・・?
私はアルトさんと言ったのですが。」
「そ、それ俺の名前なんですけど・・・」
「そ、それは失礼しましたわ。同名の方なのですね。」
「・・・?
この授業を受けてる人間で、アルトという名前は俺しかいませんよ。」
「・・・え?・・・はっ!?
あ、貴方っ!?
図りましたわねっ・・・って、すでにいないっ!?」
「・・・えと、彼女の名前はタコって先生に言われていたような。」
「・・・ま、またもや嘘を・・・あ、あのボクっ娘め・・・あ、貴方、わざわざ教えていただいてありがとうございます。」
「あ、いえ・・・」
ぺこぺこしあう二人を尻目に僕はとっとと教室を出る。
彼女には悪いことをしたと思うが、そのへんの人をかまってる暇はないのだ。
貴族のようだがこの世界の貴族はいい人が多い。
ならばそのいい人という部分につけこんで撒かせてもらう。権力を笠に着た人相手ではできなかっただろう。彼女の人柄に感謝である。
何を思って僕に話しかけたのかは不明だが、少なくとも僕は見ず知らずの人に話しかけられるようなことをした覚えはない。悪いことをした覚えもない。
今日の予定はやまいの修練として調合する薬の材料集めに、意外と高い学費二人分と飼育場のザーボンの場所代と餌代を稼がなくてはならない。やまいには薬作りのみに集中して欲しいし、僕も魔法陣の勉強が必要である。
卒業するまでここにいる気は当然なく、やまいが卒業するまでここに居て、それまでに回復魔法は会得しておきたいのだ。
適性はあるものの、低いので、薬剤科卒業間近のやまいが卒業するまでに会得できるかは微妙なところ。
友達を作るなら他の子にしてくれと思う。
時間的猶予はあまりないのだ。
☆ ☆ ☆
と思っていたのだが。
「ちょっとタコさん!無視しないでくださいっ!!」
で始まり。
やまいと昼ごはんを学園のテラスで食べている時までも(残念ながら給食制ではなかった)絡んでくる。
「今日はこんなところにいましたか。でも、ここを選ぶセンスだけは褒めてあげ・・・や、やまいさん!?」
二人の食事を邪魔されたのをムカついたのだろうか。
やまいが睨む。
「し、失礼しましたわ。」
そのままそそくさと去っていった。
やまいが怖かったのだろうか?
「だれ?」
やまいが憮然とした、いや、そうと見えるように努めて言う。
「えっと・・・エステリ・・・なんちゃらマルマインさん。マルマインさんって呼べばいいと思う。」
「・・・・・・タコ、今日のごはんはなに?」
その辺の人よりも晩御飯の方が気になるらしい。
「今日は・・・そうだな。しゃぶしゃぶにしようか。」
「しゃぶしゃぶ?」
「晩御飯の時間のお楽しみだよ。」
ちなみに今食べているのはサバの味噌煮定食。魚の名前がちゃんとあるらしいのだが、サバっぽいので勝手にサバと呼んでいる。
この噛み締めたときに舌全体で感じるサバの旨みと味噌の軽い酸味が絶妙にあって、どうして味噌煮ってこんなにおいしいのか?というどうしようもないことを考えさせられるほど。
米はあっても主食として流通するほどではないので、定食と言ったものの、パンと一緒に食べている。
それが少し残念である。
ご飯と食べたかったら自分で用意するしかないのだが、米を炊くための飯盒は鍛冶屋に行ってオーダーメイドするもの。
なんだかんだですでに学園に入学して3週間は経っているのだが、オーダーメイドしたのはついこの前。
まだ時間はかかる。
何はともあれ、今日のしゃぶしゃぶの用意だけしっかりしておこう。
お肉は・・・牛肉と豚肉に・・・蛇肉がいいか?
となりのお国というだけあって、隣国のポリプス騎士街からフルアーマースネークのお肉が輸入されている。かなり高価なのでそう量は用意できないが、ちょっと奮発してフルアーマースネークのしゃぶしゃぶも美味しそうだ。
じゅるり。想像するだけでよだれが出てきた。
肉屋で見たとき思ったんだ。
まるで綺麗な桜色のお肉の上に深々と降り積もる雪のようなサシの入り具合。
あのサシは火にかけると溶けだすと言うし、ちょっと厚めに切って・・・サシの溶けた湯は良いダシになる。あ、そうなると他の肉のアクが邪魔になるし、もひとつ小さい鍋も用意しておくか。
それとティキも誘おうかな。
しゃぶしゃぶパーティといこうじゃないか。
やまいと仲良くなってくれるかもしれない。
「それじゃ、またあとで。ちょっと僕はティキに会ってくるから。」
「あのオカッパの人?」
「そう、そう。おかっぱの人。」
「ん。」
軽く頷くやまい。
「まずはティキに話をして、そのあとにお肉と・・・野菜も買うか。あとは豆腐はなかったな。」
それぞれの都市において売っている食べ物には多少の違いがある。
農作物を主食としている村などでは植物性たんぱく質が多い大豆製品が多く豆腐などもあるのだが、こうした街では規模の大きい設備が必要だったり、鉱石が必要な食べ物がよく売っている。
鉱石が必要とは、作るための道具に鉱石が必要という意味。つまり、釜などを使う料理や食品である。
やまいと別れ、しゃぶしゃぶに入れるお肉の他に軽く茹でたら美味しそうな野菜も物色していく。
いやはやどれも美味しそうな食材ばかりが並んでいる。
「む、無視を・・・無視をするんじゃありませんっ!!
どうしてそんなに無視をするのですかっ!?私がそんなにうっとおしいのですかっ!?」
「・・・また君かい。えと・・・マルマインさん。君もめげないね。」
「マルマインという苗字は好きではありません。名前で呼ぶことを許します。」
「・・・えっと・・・」
ぶっちゃけ覚えてない。
というかこの子に会ってしまうとは不幸である。
せっかくいい気分で食材選びをしていたのに。
「アルトさん?」
「それは貴方の席の後ろにいた少年の名前でしょうっ!?」
「えっと・・・わかった、今度から名前で呼ぶよ。」
「いえ、今呼べば良いではないですか。・・・忘れたのです?」
「そ、そんなこと・・・あったりするかもしれないかな~と。」
「・・・あ、貴方、どこまで私をコケにすれば気が済むのですかぁっ!」
顔を真っ赤にして怒る彼女。
「ご、ごめんね。悪気はないんだけど・・・」
「なお悪いですよっ!?」
「ごめんなさい。それじゃ、これで。」
「くっ、分かりました。過ぎたことを言ってもしょうがないです。
それは許します。私の名前はエステリーゼです。長くて呼びにくいならエステルという愛称で呼んでいただいても結構ですわ。」
「それならマルマインでよかったじゃないの。マルマインさん。」
「その苗字は嫌いなのです。」
「どうして?」
「か、可愛くないからですよ。」
そうか。
どうでもいいです。
・・・いっそのことこの子も誘っちゃうか。
いい加減僕に絡んでくる理由も気になるし、はっきりさせてから拒絶するのが一番だろう。
始めからこうすれば良かった。
ここまでしつこいとは思わなんだ。
何やらやまいと面識もあるようだし、友達候補としても・・・いけるかな?
「よし、そこまで言うならいいだろう。しゃぶしゃぶパーティにご参加あれ。」
「はっ?」
でもって。
ティキを迎えるべく、冒険者組合にやってきた。
ボロ宿の方に行っても、いないようなので。
そう都合良くはいないが、確認がてら受付の人に聞いてみると案の定、依頼中。
ここで待つことにして、その間、時間があるし魔法陣の勉強の復習をする。
文字が読めないので、僕が自分で授業中の話を日本語でまとめたお手製教科書を開く。
すべて教師の話を聞くという形の授業だから助かる。
教科書必須だったらまずどうにもならなかったに違いない。
「・・・。」
「・・・あら?あれは・・・」
ここをこうした方がより効果が高いだろうか?
魔力ラインを書き直す。
魔力ラインで魔法陣を書く点で一番難しいとされるのは、見えないラインであるため、書いてる際は、常に微弱な魔力を指先に送り続けて魔法陣の書き終えた部分を反応させて光らせる必要がある。
一つの指先に魔力ラインを書くための魔力と、光らせるための魔力とを別々に一緒の指で込めなくてはできないので、右手と左手で同時に文章を書くような難解さがあるのだ。
タコの脳みそか、構造かになにか秘密があるのか、僕にとってそれはさほど難しいことではなかった。
「・・・。」
「・・・おお。ここが・・・」
送り込む魔力が多すぎると陣を掘る素材に穴を開けたり、未完成の魔法が発動したりで危なく、かといって少なすぎると物に刻めるほどの力が出ない。
その微妙な魔力コントロールの難しさもまた理由の一端である。気配を、具体的には自身の魔力の扱いは気配を消して狩りをする必要のある僕にとっては必須技能。
その程度のコントロール技術はとうの昔にクリアしている。
「・・・ここをこうして・・・」
「さっきから何をしているんです?
こ、これは魔法陣ですか?見事なものですね。」
ベテランの魔法使い―この場における魔法使いとは、魔法陣を扱う職人のこと―にもなると人体に刻むこともできるとか。
当然、人体に刻んだ魔法陣は日々、人の体型が変わったり、表皮が垢としてこすり落ちた際に魔法陣が消えたり、歪になったりする。
普通の人、それこそかじった程度の僕が自分の体に回復魔法の陣をよしんば刻み込めたとしてもいずれ機能しなくなるのが分かりきっている。
しかして、プロである魔法使いと呼ばれる人達は人体の成長に負けないような魔法陣が、もとい消えないように書き上げるらしい。
少しでもかじった今だからわかる。
化物としか思えない難易度だ。
どこの世界でも職人というのはすごい。
これはさしものハイスペックタコボディでも先が遠そうだ。
「綺麗な魔法陣・・・これは・・・回復魔法のものですか?」
「ちょっと・・・さっきからうるさいんだけど。」
「ご、ごめんなさい。薬剤科の私には少し興味深かったので。」
「・・・どういうこと?」
とりあえずの話題としてそう聞くと、エステルは少し伏し目がちに。
「私にとって人を癒す方法は魔法薬しかなかったものですから。それしかなかったゆえ、焦って失敗したこともあります。」
その一言ではすべてを察するなんてことは当然できないけれど。
ただ、重みを感じた。感情がたっぷりとこもってる。そういう重みだ。
ちょっとした話題のつもりでこんな重く返されても、こちらとしては困ってしまう。
「失礼しました。いらぬ気を遣わせましたね。」
「いや・・・使ってなかったけれど。」
「・・・貴方のそういう着飾らないところ、好きですわ。」
今までのこの子の性格からするに、ここは騒ぎ立てるところなのだが。
本気でなんかスイッチ入ったみたいだ。
見ないふりをした。
少年漫画の主人公じゃあるまいし、ティキと違って僕はわざわざ他人の懐に潜り込む真似はしたくない。
「ふぅん。」
とだけ。
それ以外なんて言えばよかったのか。
結局、その日のしゃぶしゃぶパーティにエステルだけは来なかったのだった。




