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透明人間の俺だが、片思い中の同期のスケベが拝めない  作者: saba20


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3/15

3話:マドンナのうたた寝

手に入りそうで手に入らない

完璧な幻想に翻弄され

男は愚かな生物へと

成り下がっていくのかもしれない。


「……ん?嘘だろ......?」


あの日から数日。大型案件のプレゼンが

無事に終わったらしい営業部周辺は

どこか晴れやかな空気が漂っていた。

午後一時過ぎ。開発作業の区切りが遅くなり

俺はすっかり混雑の引いたガラガラの

社員食堂へと足を踏み入れた。

昼の喧騒が嘘のように静まり返った

広大な空間。食券を買い、席を探そうと

見渡した俺の視線が、奥の窓際の一角で

ピタリと止まった。


そこにいたのは、藤咲葵だった。

いつもの隙のないスーツ姿。だが、藤咲は

空になったトレーを脇に寄せ、両腕を

枕にしてテーブルに突っ伏していた。

そっと足音を殺して近づくと、規則正しい

小さな寝息が聞こえてくる。会社での

緊張感が完全に切れて無防備にすやすやと

うたた寝をしているのだ。光に透ける

柔らかな髪。無防備に晒された白いうなじ。

ほんのり桜色に染まった頬。普段の

高嶺の花としての面影を綺麗に脱ぎ捨てた

あまりにも無防備な寝顔。


(あんな無防備な顔、社内で見せるか……!?

高嶺の花の無警戒な寝顔なんて、俺しか

見てないだろこれ……!!)


「今夜こそ......!!この無防備なマドンナの

真の姿をこの目に焼き付けてみせる......!!」


そして夜。俺は自室の鏡の前で全裸になって

アプリで身体を透明化させていた。

狙うはいつものゴミ出しのわずかなタイミング。

隣のドアが開く音と同時に忍び込み

静まり返った藤咲の部屋で息を殺して待つ。

数十秒後、ゴミを捨て終えた藤咲が

部屋へと戻ってきた。


「はぁ……終わったぁ……」


疲れと解放感が混ざり合った甘い声で呟くと

彼女は吸い寄せられるようにソファへ向かい

そのままゴロンと横になった。薄手の

キャミソールが肌に張り付き、胸元の

生々しい起伏が露わになる。横たわったことで

ショートパンツの裾が大きく捲り上がり

太ももの付け根近くまで白い素肌が

剥き出しになっていた。さらに

小さく声を漏らし、抱き枕のように

ソファのクッションをギュッと抱きしめ

脚を無防備に絡めてスヤスヤと

眠りに落ち始めたのだ。


(ヤバいヤバいヤバい!!

社内でのうたた寝からの

自室での無警戒すぎるゴロ寝姿……!!)


昼間、食堂で独占したあの寝顔。そして今

目の前で無防備に晒されている柔らかそうな

太ももの肉感と艶っぽい胸元の隙間。

警戒心ゼロで身を委ねるその妖艶な様に

俺の脳内妄想は一瞬で上限値を突破して

全身の血流が激流となって脳裏を駆け巡った。

俺の鼓動は激しい警告音のように

暴走を始めた。その刹那


「ブーッ、ブーッ、心拍数が

規定値(120bpm)を超えました。

システムエラー。強制実体化を行います」


(……嘘だろ!?

横になっただけでこれかよ!!)


手に持ったスマホが破裂する勢いで

激しく振動する。画面には禍々しい赤文字が

点滅していた。デバイスの安全装置が

作動して、目の前にはうっすらと赤らんだ

俺の手足が実体化し始める。


(ヤバいヤバいヤバい!!

バレたら人生終了だ!!

落ち着け!脳を冷やせ!!)


脈が全身を内側から叩き割りそうなほど

狂い打ち、全身から冷や汗が噴き出す。

目と鼻の先では、藤咲が小さく寝返りを打ち

さらに太もものラインを露わにしている。

あと少しでも心拍数が上昇すれば、完璧に

俺の全裸が浮き彫りになってしまう。

まさに一触即発の危機。俺は血走る目を

天井に逸らし、狂ったように

脳内暗唱を開始した。


「サインの加法定理!!

咲いたコスモスコスモス咲いた!!

コサインの加法定理!!

コスモスコスモス咲いた咲いた!!」


緊急の脳内冷却処理によって、なんとか

心拍数が急速低下。空中へと溶け出し

始めていた身体がギリギリで透明化を

取り戻し、間一髪で危機を脱した。

当の藤咲は何も知らず、小さな寝息を

立てながら、幸せそうに夢の中を彷徨っている。

俺は命からがらベランダから自室へと

逃げ戻り、鏡の前でアプリを操作して

透明化を解除する。冷や汗で身体中に

びっしりと張り付いた脂汗をそのままに

全裸で冷たい床に膝をついた俺は

込み上げてくる圧倒的な虚無感の中で

静かに涙を流した。


今日、社員食堂で見せたあのうたた寝も

先ほどまで繰り広げられていた無警戒な

ゴロ寝も、過酷なプレゼンを全力で駆け抜けて

重責を果たした藤咲がようやく手に入れた

本当の休息だったのだろう。なのに俺は

彼女の無防備な寝姿と色香に身を焦がし

結局、何も拝むことができずに勝手に

自爆した。己の浅ましい煩悩との戦いに

打ち勝たない限り、俺は一生

藤咲のスケベを拝めないのかもしれない。

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