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透明人間の俺だが、片思い中の同期のスケベが拝めない  作者: saba20


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2/15

2話:マドンナの歩幅

女性が見せる弱みや隙は

男の独占欲と妄想を

異常なまでに加速させるらしい。


「あれは……」


先日の失態から数日経ったある日

俺は会社の廊下を歩いていた。

向かい側から歩いてきた人物と

目が合い、俺は足を止めた。

営業部のマドンナ、藤咲葵だ。

いつも通り無駄のないシルエットの

スーツを美しく着こなしているが

どこかいつもと雰囲気が違う。


小耳に挟んだ話だが、藤咲のチームは

現在、大型案件のプレゼン直前で

一日中ヒールで外回りを駆け回るほど

多忙を極めているらしい。


普段は完璧な姿勢で颯爽と歩く藤咲だが

今日はほんのわずかに歩幅が狭く、足元を

かばうような重さが歩調に混ざっていた。

部署が違う俺と藤咲は、社員食堂で顔を

合わせたら軽い会釈を交わす程度の関係だ。

今日もいつものように軽く首を傾けて

通り過ぎようとすると、すれ違いざま

藤咲はどこか疲れの混じった、けれど静かで

丁寧な会釈を返してくれた。


「あんなに人間らしい一面を見せられたら

余計に愛おしくてたまらなくなるだろ……!

今夜こそ……今夜こそ拝めるはずだ!! 」


そして夜。俺は自室の鏡の前で全裸に

なっていた。スマホでアプリを起動し

全身を透明化させる。狙うは前回と同じ

藤咲がゴミ捨てのために部屋の鍵を開ける

わずかな隙だ。静まり返った廊下で

息を殺して待つと、ガチャリと

隣のドアが開いた。ゴミ袋を持った藤咲が

出ていくのを確認して、足音を殺して

彼女の部屋へと忍び込んだ。室内には

昼間すれ違った時に香った上品な

香水の匂いがかすかに漂っている。

ソファの裏に身を潜めて待つこと数十秒

ゴミを捨て終えた藤咲が戻ってきた。

すでに風呂上がりなのだろう。

ゆったりとしたショートパンツ姿の

部屋着に身を包み

濡れた髪にタオルを巻いている。


「んー……も、限界……」


藤咲は小さく呟くと、ドサッとソファに深く

腰掛けた。ショートパンツの裾から

いつものストッキング越しではない

白く素肌のままスラリと伸びる

しなやかな脚が露わになる。

ソファの上に投げ出すように引っ張り

上げると、小さく息を吐きながら、

両手で指先を深く沈め、ふくらはぎから

太ももの内側にかけてぎゅーっと

揉みほぐし始めたのだ。


「うぅ……パンパン……

あぁ、ここ効く......んっ......」


(ヤバいヤバいヤバい!!

一日中歩き回ってたマドンナの無防備すぎる

生脚マッサージ……!!)


昼間、廊下で見かけた微かな歩き方の重さ。

そしてソファ越しで繰り広げられる

あまりにも生々しく妖艶な脚のラインと

艶っぽい小さな喘ぎ声。普段の凜とした

姿からは想像もつかない、その過剰なまでの

色香に、俺の脳内妄想は一瞬で許容量を

振り切り、全身の血液が沸騰したかのように

沸き立った。その刹那


「ブーッ、ブーッ、心拍数が

規定値(120bpm)を超えました。

システムエラー。強制実体化を行います」


(……嘘だろ!? まだマッサージが

始まったばかりだぞ!!)


手にしたスマホがけたたましく振動して

画面に血のような赤い文字で警告が

表示される。過熱したデバイスの

安全装置が作動し、赤らめた手足が

うっすらと浮かび上がり始めた。


(ヤバいヤバいヤバい!!

バレたら人生終了だ!!

落ち着け!脳を冷やせ!!)


心臓がドクドクと肋骨を内側から

叩き割りそうなほど脈打ち、冷や汗が

全身から噴き出す。藤咲はこちらに

一切気づかず、顔をしかめながら

ふくらはぎを押し込んでいる。

俺は血走りする目を必死に逸らし

全速力の脳内暗唱を開始した。


「解の公式!! エックスイコール

にーエーぶんの、マイナスビー

プラスマイナスルート、ビーにじょう

マイナスよんエーシー……!!」


決死の脳内冷却処理により、なんとか

心拍数が低下。実体化しかけていた身体が

ギリギリのところで持ちこたえ

再び透明に溶け込み、危機を脱した。


当の藤咲は何事もなかったかのように

脚を下ろし、ゆったりとした足取りで

奥の寝室へと消えていく。

俺は胸をなでおろしながら這うように

ベランダへ向かい、窓の鍵を解錠して

自室へと命からがら逃げ戻った。

鏡の前で透明化を解除して

冷や汗だらけの全裸で膝をついた俺は

虚無感の中で静かに涙を流した。


今日、社内ですれ違った藤咲は本当に

忙しそうだった。俺に見せてくれたあの会釈は

多忙な中のほんのひと息だったのかも

しれない。なのに俺は、藤咲の無防備な一言と

脚を揉む仕草に勝手に興奮して、結局何も

拝むことができずに自爆した。己の浅ましい

煩悩との戦いに打ち勝たない限り、俺は一生

藤咲のスケベを拝めないのかもしれない。


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