幼馴染が厨二病になりました
※現代が舞台の番外編です。
幼馴染が、事故った。
死んだわけじゃない。
でも、戻ってきた楠りさこは別人で、あの先生への言い訳を「やったけど家に忘れました」にするか「丸つけが終わってないので明日提出してもいいですか」にするか迷っていたアイツとは似ても似つかなかった。
家が隣だから小さい頃はよく遊んでいた。
でもいつのまにかアイツはクラスの中心の輪に入っていて、段々と遊ばなくなった。
それでもケンカしたわけではないし、教科書や体育着を貸し借りしたり、何かと関わりは続いていた。
そんなある日。
「えっ、さくらちゃん、フラれたの?」
「うん……」
「は? 誰に? サイテーじゃん」
正直、関わりたくないタイプの子達だ。何かあの子達にとって不正解なのことを言えば、全てこっちが悪いみたいな空気になるから。
でも、クラスの中心はあの子達で、クラスはもうお通夜みたいに暗かった。だから、男子が先生についてケラケラ笑っていたら、さくらの周りの子が「さくらちゃん悲しんでんだよ?」と黙らせる。
笑ってはいけない。騒いではいけない。
息が詰まりそうだ。
「さくらを慰めるために、カラオケ行こうよ」
「うん。それにさ、きっともっといい奴が見つかるよ」
「そうそう。りさこもそう思うでしょ?」
その子達と同じグループに入っていたりさこ。考えればわかることだ。「先生が呼んでる」とでも言って、連れ出せばよかった。
「あっ、うん」
アイツが、気の利いたことを言えるわけがない。
「でも、今日は塾あるから行けない」
一瞬だった。
アイツが不登校になるまで。
噂だが、密かにいじめられていたらしい。
「伊藤さん、図書室行かない?」
「あっ、うん」
中学校で久しぶりに会ったりさこは、にこりともしない。記憶喪失だという。
そして、気持ち悪いぐらいに勉強ができる。ただし、社会を除いて。この前は聖徳太子の前で固まっていた。
「あっ、そうだ楠さん。LINE追加しといてくれた?」
「ごめんなさい。スマホ?の開き方がわからなくて」
ちなみに、めっちゃ機械音痴だ。
「そうだ、この前言ってたヴ……ヴェ……ヴァランティーヌ様の話してよ」
「いいけど……」
ついでに、厨二病だ。
自分は実はクリステルという女で、この世界とは違う世界に住んでいた、と言っていた。怖い。
「……どうせ信じないんでしょ?」
「信じないけど、聞いてて面白いよ」
りさこが話すのはヨーロッパのような世界で、結構面白い。
「ヴァランティーヌ様はかなりのバカね。お父様の不正をバラすって脅すと、すぐに金をくれるの。そんなこと、子爵令嬢の私がいくら喚いたって耳を貸しもしないだろうに」
ヴァランティーヌの話をするときはこうなのだが、自分の家族の話をするときには、口元が緩む。
「お母様は勉強に関しては厳しいけど、優しい人よ」
この前話していたアドリアンという弟はとても可愛いと言っていたし、つい本当なのではと信じてしまいそうになる。
(……でも、もし本当なら可哀想だな)
「楠さんは元の世界に戻りたいと思うの?」
「ええ」
思わず胸が痛くなる。
妄想だとしても、本気でそう信じているのだろう。もし本当に家族がいるのなら、二度と会えないなんて酷すぎる。あんまりだ。
「でも、あと少しで戻れる」
「何でそう言い切れるの?」
りさこは少し考えるように目を伏せた。結局答えずに、「そしたら──」と話を続ける。
「あの人達ももう迷惑をかけずに済む。娘がいなくなって、寂しいでしょうね。特にまだこんなにも幼いし。あと少し経つと口も聞かなくなるから、今は大切な時期なのに」
りさこはまるで他人事のように言うと、図書室のドアを開けた。
「ああ、なぜあと少しで帰れるかと言うと──」
本のバーコードを読む音にも、図書委員の雑談の声にも負けず、はっきりとりさこの声が聞こえてくる。
「──お兄様は天才だから」
嘘だと思った。アホだとも思った。
だけど、りさこは本気だった。




