必要とされていないもの同士、仲良くしましょう
人は、不平等だ。
生まれつきの才能だったり……
気づいたら異世界に転生して、輝かしい中学校生活が送れなかったりする。
さて、本題。
未知の、5mほどの魔物を目の前にして固まっている少女、クリステル。ただいまただ邪魔なだけの、足手まといだったりする。
「攻撃魔術が使えるものは前へ!」
「治癒魔術が使える人、負傷者はこっちだ!」
攻撃魔術は火属性、治癒魔術は光属性と土属性。クリステルはどちらも才能がない。
(えっ、どうしよう)
チラチラと周りの様子をうかがう。クレマンとヴァランティーヌを中心に、男子は攻撃、女子は治癒をやっている。
「邪魔です」
ぼけっと突っ立っているクリステルは、エリックの辛辣な一言で我に返った。
「何すればいいんでしょう? というか、緊急事態なのに、なんで先生たちは何もしないんですか?」
まくしたてるクリステルに、エリックは大きくため息をついた。
「何を言ってるんですか。実践授業です」
そう言うと、エリックは魔法陣を書き始めた。魔導書も見ずにやっている。クリステルには到底できないことだ。
「実践授業は、成績に直結します。ここで活躍できなかったら、あなたは200%退学します」
(パクリだ)
ふざけている場合ではなさそうだ。とはいっても、クリステルにできることはあまりない。
「水をぶつけまくったらなんとかなりますかね?」
無言でため息をつかれた。多分だめだということだと思う。本によると、水属性は魔力切れする可能性が高いらしい。
とりあえず、魔導書をめくる。
(時間、木、影、氷、雷──)
この世界には、意外に色々な属性がある。色々試してみたが、結局、クリステルに使うことができたのは、氷と幻惑とかいうよくわからないやつだけだった。
「氷であの魔物をブッ刺せば、いけますかね?」
「あなたのコントロール力じゃ、生徒の1人くらい死にますね」
と言うことで、生徒が密集している魔物に使うのは諦めた。
「女は引っ込んでろ!」
そんなことを言うけしからん奴はどこだ、と思いながら周りを見ると、みんなこちらを見ていた。目の前には、どこかで見たような男子生徒が立っている。
「お前だ、シャトラン!」
「私ですか」
はぁ、とため息をつくと、魔導書に目を戻す。
「無視するな、女風情が!」
そんなことを言うけしからん奴はどこだ、と思いながら周りを見ると、みんなこちらを見ていた。
「お前だ、シャトラン!」
「私ですか」
はぁ、と口を開けて間抜けな顔をしていると、頭から水をぶっかけられた。
「そんなところに突っ立っているからだ」
そう言った男子生徒は、名前こそ覚えていないものの、クラスメイトだった気がする。
そんなことを考えながら、クリステルはブルっと犬のように体を震わせた。流石に、か弱い令嬢に水をぶっかけるのはどうかと思う。
(でも、今の私は一味違う!)
クリステルが目をつぶって感覚を研ぎ澄ませる。その瞬間、風で水は吹き飛んだ。
「へへっ」
「ムカつくな、お前」
その後、男子は有る事無い事捲し立て、男はどれだけ素晴らしけ、女はどれだけ劣っているかを話し出した。
(うるさい。めんどい。忙しいってのに)
クリステルはもう一度大げさにため息をつくと、ぼそっと「嫌われますよ、そんなこと言ってる男は」と言った。
「申し訳ございませんでした」
全く反省の素振りを見せず、肩を竦める。
相手がどんな位かはしらないが、こっちにはエリックという公爵令息がついている。怖いことなんてない。
「なっ……ふざけるな!」
せめて土属性が得意だったら、沼に埋めるとかできるのに。わめき声を聞き流しながら、ページをめくっていく。
すると、不思議なページを見つけた。
【無属性】
[重力操作]重力を増減する。
[無敵化]すべての攻撃を無効化する。
[透視]障害物がある場合、透明化する。
[翻訳]文章を脳に直接伝える。
[魔力弾]魔力そのもので衝撃を与える。
他の属性は最低10ページはあるのに、無属性だけ1ページ。しかも、後半は空間属性に乗っ取られている。その上、詠唱も何も書いてない。
「エリック様、無属性って、どうやって使うんですか?」
「……感覚です」
エリックらしからぬ、微妙な答えが帰ってきた。
「エリック様、使えないんですか?」
また頭上から水が出てきてずぶ濡れになった。本当に、悪ふざけはよしてほしい。もうすでに魔物は大分弱ってきていて、早くしないと退学一直線だ。
(重力操作で浮いて、そのまま魔物に剣でもぶっ刺せばいけるんじゃ?)
ものは試し、早速、実行してみることにした。
氷で剣を作り、浮いている自分を想像する。重力の流れに逆らって──浮いたっ──あれ?
意識が遠くなってく。
(まだ1センチくらいしか浮いてないよ?)
「はぁ、あなたは馬鹿なんですか?」
気づくと、エリックに膝枕されていた。
「エリック様、一途な心を届けるんじゃなかったんですか?」
「そんな事は言ってません。それより、重力操作は操作する重力分、魔力を消費するんです。死ぬところでしたよ」
(怖っ)
周りを見回ると、校庭だった。なぜか、魔物がピンピンしている。
「おい、女は引っ込んでろ!」
(このセリフ、さっきも聞いたような)
「……どこかでお会いしました?」
「あのな、同じクラスだろ!」
(どういうこと……?)
さっきと、同じ位置。
同じ声。
同じ動き。
違うのは──
(私だけ、覚えてる)
理解できない。相変わらず、クレマンとヴァランティーヌが指揮を取っている。疲れた様子もない。
──つまり、時間が巻き戻った。私を残して。
「時間を巻き戻しました」
冷ややかな、エリックの声で、ファンタスティックな気分は打ち砕かれた。
「すみません、私だけ覚えてるとか、自惚れてました」
エリックを見ると、さっきまでエリックが書いていた魔法陣が消えていた。
「私のために?」
「違っ……そうとも言えます」
一瞬取り乱したようにも見えたが、気のせいだったのかもしれない。
「さあ、今度こそ、魔力切れしずに、目立ちましょう」
「どうやって?」
エリックはニヤッと笑うと、立ち上がった。
「エリック・タレーラン。時間属性を使うとは、面白い生徒ですね」
アンドレは、講師の魔術師の言葉に満足げな笑みを見せた。
「そのとおりです」
「それよりも、無属性魔法を使うとは珍しい!」
興奮しながらまくしたてる魔術師に、こういう人だったな、と思いながら、アンドレはエリックとクリステルに目を戻した。
無属性魔法は誰にでもできるものではない。でも、それは必要とされていないからとも言える。
「──彼女に魔術推薦を取らせるか、考えものですね」




