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澄斬姫 ―神殺しの男に背負わされた、復讐の妖刀―  作者: 白杜深月
第一部

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第三十四章 迷い人の宿り木(第二話)

「引き受けちまったなぁ、清志郎」


新太の声に、清志郎は振り向いた。


「なんだよ、悪ぃのかよ」


二人は、風間医院の門前にいた。


「別に。ただよ、風間先生は、お前なら大丈夫だと言っていたが、危険がねぇわけじゃねぇぞ。今の面子だけじゃ危険だと判断したから、見送ってきた案件なんだからな」


「わかってるよ。楽な仕事で十両も貰えるなんて思ってねぇよ。なんだ、新太。もしかして俺の身を案じてくれてんのか?」


清志郎は、ニヤリと笑ってみせる。


「そんなんじゃねぇよ。お前がどうなろうと知ったことか!」


新太は強く否定するが、明らかに照れ隠しをしている。

そんな様子が、面白くて憎めない。


「へぇ。じゃ、詳細が決まったら、連絡くれよ。俺はあの寺にいるからよ」


「……なぁ、清志郎」


新太の声が一段、低くなった。


「ん?」


清志郎は、そんな新太を前に調子を崩さない。


「お前、会いに行く気なのか?」


「ああ。確かめねぇと気が済まねぇからな。すんなり会ってくれりゃあ、いいんだけど」


「気をつけろよ。相手は神だぞ」


新太の目は真剣だ。


「ああ。仕事受けといて、風間先生やお前には悪いけどよ、もし……もし、千凪村から俺の姿が消えたら、そのときは……」


清志郎は軽くポンと新太の肩を叩き、背を向ける。


「殺られちまったと思ってくれ」


新太は、遠ざかっていく清志郎の背中をしばらく黙って見送っていた。

清志郎は、新太と歩いた道ではなく、退院の日に巳山が案内してくれた別の道を進んだ。



同じ頃、澄斬姫の神殿では、眷属たちの間で蒼耀の話題が絶えなかった。


「ねぇ、玲牙。やっぱり、姫様の真名(まな)を、強引にでも蒼耀様にお聞きするべきだったんじゃないの?」


「儂もそう思うぞ。お前、そもそも影から様子を伺っていることを勘づかれていたのであろう。視線を合わせられただけで、怖じ気づきおって。やはり、俺が行くべきであったな」


燕羽と白羅は、玲牙に非難の声を浴びせた。

普段は一丸となって、澄斬姫のために協力し合う彼らだったが、主を想うあまり、口論になることもしばしばだった。


「ちょっと、もうやめなさい二人とも。特に白羅、あなたの言ってることは、玲牙の言ってたことと、少しずれてきているわ。彼に失礼よ」


雪音が二人をなだめる。


玲牙は昨晩、道安寺での清志郎と蒼耀の会話を、本来の白蛇の姿で暗闇に紛れて盗み聞きしていた。

だが、蒼耀には気付かれていたのだ。


清志郎が眠りに落ちてしまった後、蒼耀は玲牙に冷たい視線を送ってきた。

蒼耀の目を見た途端、心臓がドクンと跳ね、そのまま氷のように固まってしまったような錯覚に陥った。

全身の血の流れが滞り、寒気がした。


それでも、彼は人の姿になり、蒼耀の前に跪き、懇願したのだ。

澄斬姫が会いたがっている、会ってくれと。

だが、蒼耀から返ってきた言葉は、一言だけだった。


『気が向いたらね』


なんとも素っ気ない返事だった。

前世の蒼耀は、あのような目を自分に向けたことは一度もなかった。

もちろん、澄斬姫にも。


彼女を疎ましく思っている様子など微塵もなく、慕っているように見受けられた。

澄斬姫とのたまの逢瀬は、いたって穏やかな空気に包まれていた。


「気が向いたら会うって仰ったんでしょ? なんか、冷たくない? 人になって、おかしくなっちゃったのかしら」


「こ、これ、燕羽。滅多なことを言わないの! 今は人の身であられても、蒼耀様は蒼耀様よ。姫様の弟君よ」


雪音は立場上、燕羽を窘めはしたが、実のところ、雪音も同じ気持ちであった。

雪音だけではない、玲牙と白羅もそうだった。


「おい、玲牙。姫様に蒼耀様のお言葉をそのまま伝えるようなことはしていないのだろうな?」


「何度も言わせるな。そのままなど、言えるわけないだろう。姫様には、蒼耀様は人としてお生まれ変わりになったものの、前世の記憶を持っておられること。そして、清守に殺された理由を知りたがっているが、当の清志郎は殺したことは思い出しても、肝心の理由を思い出せていないということ……それだけしか報告しておらん」


「……」


白羅は黙るしかなかった。

雪音が静かに玲牙に問う。


「蒼耀様は、清志郎を恨んでいないと仰ったのよね」


「ああ……」


「どうして? 自分を殺した相手なのに。裏切られたのに」


燕羽の疑問は、皆の疑問だった。

誰一人として、蒼耀の気持ちを理解できなかった。

静まり返った部屋の外から、侍女の声がした。


「あのう、よろしいでしょうか?」


すかさず、雪音が返事をする。


「ええ、どうしたの?」


「姫様が、お一人で下界へ出ようとされております。なんでも、清志郎が来るとか……」


「なに! 姫様をお一人で行かせられるか!」


そう言うと、白羅は襖を勢いよく開け、あっという間に部屋を出ていってしまった。


「私たちも行こうよ!」


「え、ええ」


燕羽と雪音も、白羅に続く。


(自ら姿を現すとは、蒼耀様もご一緒なのか? それとも単身で? 蒼耀様もご一緒となると厄介だ。榊清志郎――清守。どんな男だったか。数百年前、何度か顔を合わせる程度はしていたが。もう少し深く、関わっておくべきだったな)


後悔をしても、もう遅い。

玲牙も、澄斬姫の元へ歩みを早めた。



清志郎は鳥居をくぐり、澄斬神社にやってきた。

何をするでもなく、拝殿の前に黙って立ち続けていた。

こうしていれば現れる。

何故だか、確信めいたものがあった。


突然、強風が周りの木々を激しくざわつかせた。

けたたましく鴉たちが鳴いて飛び立って行ったが、清志郎は微動だにしなかった。

静寂が戻ったとき、背後から懐かしさすら覚える女の声がした。


「清志郎さん」


清志郎は、ゆっくりと振り返る。


「……澄さん」


清志郎の前には、風間医院で甲斐甲斐しく世話をしてくれたときと変わらない、美しい若い女の姿があった。

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白杜 深月(小説)/ココロの迷宮(YouTube)

@shiramori_lab

和風ダークファンタジー小説『澄斬姫 ―女神の妖刀―』を執筆中。

江戸の闇と人の情、そして神の祟りを描く物語。

カクヨム・なろう・Nolaで連載。

YouTube「ココロの迷宮」では心理と恐怖をテーマにしたショート動画を制作。

静かに語る物語を、静かに愛してくださる方へ。

※画像と動画はAIを使用しています。

※フォローしていただけると嬉しいです。

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