第9話 主謀者との対峙
ユウキは背後に吹き飛ばされた。
腹部に痛みが走る。痛みの軌跡を辿る。
蹴られた様な、感触だ。
頭は正常に動作しているが。理解が及ばない。
何が起きたのか、自分にも分からない。
「一体何が……?」
「プロの手品師はタネを明かさない。タネを見破られる前に、ネタを変える」
ユウキの目の前に、緑の光弾が出現。
修一が撃った気配を感じない。
突然目の前に、現れたと言う認識だ。
ユウキは防御が間に合わず直撃。
光弾の爆風に吹き飛ばされる。
「おいおい……。気配も予備動作もなかったぞ」
ユウキは剣を構えた。青い光を体に纏う。
柄を強く握りしめて。風を切り裂きながら走る。
風景が線に見える速度で、突撃した。
半分を過ぎたところで足を止める。
修一が姿を消した。ユウキが気配を探っていると。
背後から押し飛ばされる。また蹴られた様な感触だ。
振り返っても誰も居ない。
今度は身体に何かが触れた感触がある。
「風を感じない……。スピードじゃない……。突然現れて、消えているとしか……」
ユウキの前に、再び光弾が現れる。
咄嗟に姿勢を屈める。光弾が頭上を、通り抜けた。
姿勢を戻すと、光弾が眼前に現れる。
反応できる近さを超えていた。
ユウキは認識した直後に、光弾に当たった。
仰け反ると、背中にも同じ痛みが走る。
前後から衝撃を受けて、ユウキは膝をついた。
近くで恋歌と柴葉が、目頭を最大にしている。
「ゆ、ユウ……! 今、飛んでった光弾が……」
「戻って来やがった……! 巻き戻しでも見ているように……」
修一が姿を見せて、ユウキの視界を遮る。
近くで見て気づく。アーマーの甲に、銃口がある事に。
光弾はここから放たれているのだろうが。発射したところが見えない。
「瞬間移動でもないな。空間を移動している割に、気配がなさ過ぎる」
「流石はサイキッカー。その手の知識は詳しいな」
修一は"左足"を、背後に回した。
左の足に、オレンジ色の光が集まる。
光は徐々に強くなり、風圧を放つ。
「この技は花園を……。でも……」
花薗を始末した時。黒いアーマーの人物が同じ技を使った。
同じ技のはずなのに。ユウキは記憶と技が、微妙に一致しない。
首を振って、集中力を戻す。目の前の敵に集中する。
ユウキは瞬間移動をする。足が動かなくても、空間は移動できる。
青い線となって、指定した座標に移動する。
修一の背後が視界に入る。サイコガンを構えた。
その直後、見える光景が変化した。
周囲が歪んだりしてない。ドラマでカットが変わったかのように。
瞬間移動前の光景が、目に映る。
「……っ!?」
ユウキの脳が、情報を受け付けない。
思考が僅かに停止した瞬間。腹部の触覚が刺激される。
自分が吹き飛んだという認識に、時間がかかった。
自覚したころには、トンネルに叩きつけらている。
目の前に居た修一が、豆粒のように小さい。
「ガッ!」
ユウキは蹴られた箇所を抑えた。
痛みはそれほどでない。だが体に異変を感じる。
体が熱くなっていく。体にエネルギーが入り込む様な感触だ。
細胞の一つ一つに、エネルギーが溢れる。
直ぐ満タンになり、破裂していく。
そんなイメージが、脳を通り過ぎたあと。
爆音が耳を振動する。目の前が真っ白になる。
体が倒れた事と、生きていることは認識できる。
「完了したと確認する。そこまでが仕事だ」
斎野修一の声が聞こえる。また見えるものが変わっている。
蹴られる直前の場所に戻っている。
「トドメを刺すリスクは高いが。君が生きている方が、リスクが高そうだ」
ゆっくり近づく修一。ユウキは体に力が入らない。
いつもの軽口さえ、喉を通らない。
「ユウ!」
恋歌と柴葉が武器を持って、駆け寄って来る。
ユウキが叫ぶ力が、喉に押し込まれた。
かろうじで動く手を、二人に向けた。
「裁きの時は静粛に」
恋歌達を気に留めず、修一は近づいて来る。
もし自分が倒れたら。修一は残りの二人も始末するだろう。
二人の戦闘力では、到底太刀打ち出来ない。
自分が死ぬかもしれないことよりも。
二人の事に意識が向いていた。
「……っ! ……っ!」
目を開く力も消えた。言葉を思いつく思考も消えた。
頭に過るのは、一番嫌だった時の記憶。
恋歌が解放されてから。引っ越すまでの間の記憶だ。
あの時感じたものも、蘇って来る。
心を大きな針が貫通した様な感触。
それが抜けきった直後から。何も感じなくなった。
虚無感。ユウキはその表現しか、思い当たらない。
何も出来ない。何も意味がない。何も成し遂げない。
「もっと……! 力を……!」
力のルーツを思い出す。強い想いが蘇る。
目を開ける力が戻る。体は動かない。
「僕の力は恋歌を守る為に……! 今ここで負けたら……!」
ユウキは右手に、青い剣を召喚した。
弱まってた鼓動が、激しくなる。
「世界だろうが、社会だろうが、自分だろうがどうでも良い……! もっと力を……!」
再び体が熱くなっていく。感触は先ほどとは逆だ。
破裂した細胞が、再生するような感触。
エネルギーが溜まるのではなく、放出される。
ユウキは意識が現実に戻る。
周囲を見ると、恋歌も柴葉も。風も落ち葉も止まってる。
「……?」
声が出ない。いや、喉が動かない。
地球上なら感じるはずの、空気の流れがない。
時間が止まったような光景。だが空高くと飛ぶ鳥は動いている。
ユウキに近寄る斎野修一も歩いている。
自分達の周囲だけが、止まって見えた。
体からも痛みが消えている。傷がなかったかのように。
「っ!」
思考だけが動く。体内のエネルギーも操れる。
ユウキは放出される力を抑える。
限界まで細胞に溜まったエネルギーを、一気に放出した。
彼の周辺にだけ、青い光が放たれた。
同時に腕が。足が僅かに動くようになる。
「っ!?」
修一がユウキの動きに気づいた。
慌てて彼に駆け寄る。十分接近した直後。
ユウキは光の柱を放った。衝撃で襲撃が吹っ飛ぶ。
止まっていた空間が、ガラスの様に割れた。
風が動き。落ち葉も地面に接触。恋歌達も走り始めた。
「なるほど……。情報アドバンテージに拘る訳だ。この能力は」
ユウキは魔人を召喚した。普段なら背後に感じる気配。
今は間近に感じた。自分の手を覗いてみると。
光の魔人を自分が、纏っていることに気が付く。
「指定した空間の時間を操る。手品にしては、古いぜ!」
「古くて単純なものも。アイディア次第だ」
修一は指を鳴らした。時間が止まる気配はないが。
地面が振動を始めた。強力な衝撃が、空間に放たれる。
「戦闘で起きた衝撃を、全て巻き戻した。今までの攻撃が、一気に解き放たれる」
「No Problem! 空間に干渉できるのは、お前だけの特権じゃない!」
ユウキは両手の剣を、その場で振った。
右手の剣を右上から左下に。左手の剣を左上から右下に。
罰印を作る軌道を取り。最後に回転しながら、二つの剣を振り回した。
再び空間が割れる。揺れが収まり、静寂が戻る。
修一は視線を動かしながら、後ずさりをする。
「種明かしは終わった! ステージを下りな!」
ユウキは二本の剣を掲げた。双方の先端から、光線が飛ぶ。
光線は空中で交わり。一本の巨大な剣になった。
巨大剣の刃を修一に向ける。二本の柄を握りながら。
ユウキは突進した。剣が修一のアーマーに刺さる。
アーマーの隙間から、青い光が漏れる。
「セイヤァ!」
ユウキが気合を込めた叫びをあげる。
青い光がより強くなる。装甲を剝がしていく。
「くっ……!」
修一は指を鳴らした。最初の動作と全く同じ。
しかし何も起きない。
「お前に僕らの時間は……。止められない!」
「見積もりが甘かったか……、ヌアアアア!」
アーマーが爆発を上げる。破片が飛び散る。
ユウキは剣を仕舞った。息を切らし、膝をつく。
受けたはずのダメージが、何故か治っている。
その代償なのか、いつもより消耗が激しい。
体から力が抜けていく。
「まさか私の空間を、破壊するとは……」
修一はスーツがボロボロになってた。
足を引きずりながらも、立っている。
「だが君達は、ここに来た目的を忘れていないか?」
修一はニヤリとした笑みを見せる。
表情から負けた屈辱を感じない。
「私の目的は、敬の始末だ。理想でないが、時間稼ぎには成功した」
「しまった! 社長が出て来るもんだから、私ら乗っちまった!」
「ここは素直に負けを認めよう。だがいずれ、その力を……」
修一が先を言う前に。オレンジ色の光線が飛んできた。
光線は修一の体を貫き。腹部に穴をあける。
ローズと敬の隠れ家から、足音が聞こえる。
「私抜きで、そんなことができるとでも?」
小屋から音と共に。黒いアーマーの人物が出てくる。
ゆっくりと。姿勢良く歩き。修一に近寄る。
動きが花薗を始末した人物と、全く同じだ
「え? え? どうして……? 斎野修一はそこに……」
「そうか……! 花薗は"斎野さん"としか呼んでいない……! お前は……!」
黒いアーマーが、紫の光を放つ。
光は粒子に分解され、周囲に散っていく。
光が全て消え、その人物は姿を表わした。
「なっ! どういう事だ!?」
「どうして貴方が……?」
その人物は修一から、アーマー装置を奪った。
怪我で膝をついた修一を、蹴り飛ばす。
「ご苦労様でした、父さん。おかげで魔人召還の学習が出来ました」
「斎野……。敬!」
周囲の空気が凍り付く。ユウキ達だけでなく、修一も目を丸くしてる。
その場の全員をあざ笑う。邪悪な笑みを敬は向けた。
「なぜ貴様が……? 朝倉はどうした!?」
「彼女は……。私が先に雇っていました。先着順で仕事をしてくれるようです」
敬はゴミの様に、修一を踏みつけた。
「朝倉も花園も。貴方のコントロール外だったんですよ。斎野修一」
「待てよ! お前は何がしたいんだよ! 私らと同じ……。復讐なのか?」
柴葉が真っ先に、敬に問い詰めた。
彼女が被害者達に、強い仲間意識を持っていることをユウキは知っている。
柴葉の心配に。敬は見下す視線を返した。
「復讐などするものか。用済みだから消すだけだ」
敬の右腕が、オレンジに光る。
肘を引いて、拳を握る。
「VA事件は。NAIを作るために……」
「敬ぃ! 貴様ぁ!」
修一の威圧も、意味をなさない。
敬は容赦なく拳を振り下げた。
「私が発案したものだからだ」
巨大な爆発が発生した。
ユウキも、恋歌も、柴葉も吹き飛ばされる。
「冬木ユウキ。朝倉との契約だ。とびっきりの舞台で、君を待っている」




