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ユウキサーガ ~ 悪を撃ち抜くCheckmate!~  作者: クレキュリオ
恋歌編

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第5話 一時の休息

 カフェ『リベリオン』に、ユウキは戻ってきた。

 傷は少ないが、消耗が激しい。

 残った体力を振り絞って、何とかカフェのドアを開ける。


「ヘイ、戻ったぜ」


 喉に力を入れて喋る。サムズアップで合図を送った。

 ニヤリと笑って、恋歌達を見るが。

 剣をつっかえ棒にして歩いているのが、バレている。


 カフェの席に腰を下ろす。一息ついて、落ち着いた。

 一連の動作を見た恋歌が、息を吐く。

 彼女はユウキのもとへ向かった。震えた腕で、彼の肩に手を置く。


「心配したんだよ……。無理しないで」


 掠れる様な声で、恋歌に言われる。

 再びサムズアップするつもりが。途中で腕が止まった。

 代わりに優しい笑顔を向ける。


「ごめん……。ただいま」


 穏やかな声でユウキは口にした。

 恋歌がようやく、安心した表情を見せた。

 お互い沈黙して、しばしの時が流れる。


「解析結果、喋って良いか?」


 柴葉がノートパソコンを持ってきた。

 施設から奪ったデータは、全て彼女のデバイスに保存された。

 ユウキが戻ってくるまで、彼女は解析を続けていた。


 普段軽妙な表情の柴葉が。真剣な目つきだった。

 ユウキも表情を仕事モードに戻す。


「ああ。何か重要な事実が、分かったのか?」

「重要なんてレベルじゃねえ。VA事件の全てが、保存されている」


 VA事件。元々その調査のために向かったものだ。

 ユウキは少し、二人から目線を逸らす。

 その事件の詳細は知らない。世間に明かされた情報にも疎い。


「VA事件は、新型AI。つまりNAIを作るために、引き起こされたんだ」

「どうやって、子供からAIを作るんだよ?」

「NAI達には私らの記憶が保存されている。事件前の私らのコピーみたいなもんだな」


 斎野敬の証言とも、一致している。

 NAIの護衛任務は、極秘に行われていた。

 更に担当者にも、ロクに情報が下りなかった。


 知られてはマズイ情報が、NAI自体にあったのだ。

 ユウキは俯きながら、口を閉ざす。


「気を使わなくて良い。お前には何があったか、知って欲しい」

「別に、気なんて使ってないよ」

「ユウは嘘下手だね。嫌な事思い出させないよう、聞くことを躊躇った癖に」


 ユウキの口角が少し下がった。二人に目線を向き直す。

 いつも慣れない。被害者から情報を得るのが、一番大きいのだが。

 傷を負った人に、話を聞くのは辛い。例え本人に覚悟があっても。


 差し出されたカップを握り絞める。

 二人に無言で頷く。


「十年間、誘拐された私らは。見知らぬ森で目が覚めた」

「私はそこが仮想空間。つまりVRゲームの様な世界だって、気づいた」


 ゲーム好きの恋歌は、当然VRゲームもプレイしていた。

 対象年齢に到達した時の。彼女の嬉しそうな顔を思い出す。

 

「でもそこはゲームなんかじゃねえ。体力もステータスねえ」

「襲い掛かって来るモンスターと。現実の様な痛み。寝る時間以外のサバイバルの強要」


 事件に巻き込まれた事を、思い出している。

 二人共顔を強張らせる。過呼吸になっている。

 それでも二人は、説明を止めない。


「私らにはそれぞれ。常にタッグを組む相棒が、存在した」

「相棒や他の被害者と協力して、勝ち続ける。死なない状況でね……」


 『相棒』と『他の被害者』を、恋歌は分けた。

 その意味と。二人が徐々に震えたのを察する。


「いつ終わるのか。終わりがあるのか。生きて帰れるのか。分からねえ状況だった」

「でも私達は、死にたくなかった。その生存本能が、目的だったみたい……」

「相棒に。NAIに人間の生存本能を、学習させていたのか……」


 ユウキは先回りして、結論を述べた。

 被害者の絶望が、想像できる。

 まだ七歳だった子供達が、味わった恐怖を。


 事件の詳細は、何も知らなかった。

 誰も教えてくれなかった。自分も知ろうとしなかった。

 ユウキは拳を握りしめて、瞳から感情が消えた。


 カップを見つめて。コーヒーに反射する自分を見る。

 真っ黒な中に映る、自分を虚無の瞳で捉えた。


「解放されて、事件が終わった。でも私らにとっては、なにも終わっていねえ」

「脳に焼き付けられた、あの時の記憶が。私達の中から消えないの」

「どんなカウンセリングを受けても、私らは普通に戻れねえ。せめて区切りをつけたいのさ」


 ユウキは二人の言葉を、静かに受け取った。

 復讐なんて言葉では、片付けられない。

 誰も助けてくれないから。自分達で解決する。


 柴葉はハッカーとして、グレーな手段を使っている。

 軍の人間としては、咎めるべきなのだろう。

 その裏にある感情を思えば。規則に従う事は出来ない。


 また問題児と言われるだろう。

 ユウキはコーヒーを飲み干した。

 

「その責任、僕も一緒に背負わせて欲しい」


 目つきを強くして、二人を見つめる。

 

「僕は被害者じゃないから。二人の絶望は分からないけど……」


 胸に向かう自分の手を止める。

 頬が強張ったまま。それでも笑顔を見せる。


「一緒に戦いたいって。そう思うよ」


 恋歌は一瞬だけ、目を開いた。

 その後直ぐに、頬が緩んでいる。


「ありがとう……。ユウ……」


 ユウキと恋歌は、再び見つめ合った。

 今度は気まずい沈黙ではなく。穏やかな静けさだった。

 代わりに柴葉が気まずそうにしたので。席を外した。


***


 ビジランテ社の社長室。スーツの男性が、席に着く。

 社員用の電話を切り、足を組む。

 顔は笑っている。だが彼が足を組むのは、機嫌が悪い時だ。


 呼び出された女性は熟知していた。

 目の前の相手の、機嫌を損ねるべきでないと。


「NAIは奪取され。研究所も破壊せざるお得なかった。やられたものだな?」


 透き通るような。それでいて威圧する力がある声。

 ビジランテ社代表。斎野修一の特徴だ。


「君に敬の監視を任せたのが。失敗と言うべきか? 花園君」

「申し訳ございません……。この失態は、必ず!」

「残るNAIの居場所を、突き止めたまえ。もし失敗した場合……」


 斎野修一は、グラスを手に持った。

 赤ワインを注ぎ。グラスを握りつぶす。


「君を処分しなければならない。それは避けてくれたまえよ」

「はっ! 必ずや。期待を裏切らぬよう……」

「信用残高を、ゼロにしないようにな」


 修一はわざと女性。花園の言葉を遮った。

 花園は思わず、背筋が伸びる。


「ま、まずは奪われてNAIを、回収いたします!」

「ほう。何か作戦でもあるのかね?」

「犯人は分かっています。冬木ユウキと、夏樹恋歌。ロボのカメラの残っていました」


 花園は会社員ではない。他の立場がある。

 それを利用すれば、顔から個人を特定できる。


「冬木の実力は、護衛の時に見た通りです!」

「ほう。それはつまり。自分は勝てなくても仕方ない。とでも言いたいのかね?」

「い、いいえ! 冬木に夏樹恋歌を、疑わせれば良いんです!」


 花園は携帯を取り出した。

 ある動画を、修一に見せる。


「冬木に偽りの情報は効き目がないですが。真実を素直に感じる、才能が有ります」

「上司として、部下を見ているではないか。感心したよ」

「少しお灸も据えますよ。個人の感情など、ルールの前では無力だとね」


 花園は作戦を伝えた。その後、お辞儀をして退室する。

 自信満々に伝えたが。修一の溜息深い。


「上手くいくとは思えないな。所詮コネで成り上がりの、限界か」


 何も居ない水槽へ。修一は石を入れた。


「人の繋がりを舐め過ぎている。あれで防衛軍の中間管理職とは」


 斎野修一。彼は人の心を良く知っている。

 人の強さを知っている。その源も、分かっている。

 だからこそ。人間の弱点を、理解することができる。


***


 ユウキはカフェで休憩していた。

 ビジランテ社を相手にするにも、まずは情報が必要だ。

 NAIの回収と合わせて。彼らへの対抗策を練る。


 そこで防衛軍専用の、デバイスが振動した。

 表示された名前を見て、ユウキは『うへぇ』っと口にする。


「ユウ、どうかしたの?」

「嫌な上司から連絡。流石に機密情報だから、見えないところで確認してくるよ」

「ああ……。そっか。ユウは防衛軍の仕事もあるもんね……」


 恋歌が申し訳なさそうな表情をする。

 慰めたいが、この上司は直ぐに反応しないと面倒だ。

 なにせ護衛任務で、犯人を捕まえられなかったと失敗扱いにするくらいだ。


 人の少ない、カフェの裏に向かう。

 流石に通話は出来ないが、来たのはメッセージだ。


「花園め……。今度はどんな嫌味を言ってくるんだ?」


 また行動を咎められると思った。

 気乗りしない中、メッセージを開く。

 ビジランテ社の社員が襲撃されたというメッセージと。


 犯人を捕まえろと言う、指示が入ってる。

 犯人に繋がる動画が、添付されていた。


「……」


 映像を見た瞬間。ユウキの瞳から、光が消えた。

 映っているのは、ビジランテ社の警備員だろう。

 彼らが鎌を持った少女に、襲撃されている。


 その少女は、恋歌と同じ姿だ。

 雰囲気も、口調も、性格も。全てがまるで違うが。

 間違いなく恋歌だと、ユウキは認識出来た。


 再会直後も、恋歌は今とは違う態度だった。

 握られた鎌も、NAI回収の時に見たことがある。

 

「っ!」


 ユウキは腕の震えが、止まらなくなる。

 メッセージを閉じて。デバイスを強く握りしめた。

 指令には彼女が犯人だと、示されている。


「お前……。だったのか……!」


 強く握られて、デバイスが音を上げる。

 瞳から、表情から、胸の中から。

 ありとあらゆる感情が、虚無に吸い込まれる。


「あの日……。彼女を引き離したのは……!」


 修一の言葉通り、花園は舐めていた。

 ユウキの恋歌への想いを。

 ユウキは深呼吸をして、表情を整える。


「…………」

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