第4話 闇を操る者
「あ~、朝倉さん? そのキュートな紫、結構怖いんだけど?」
「結構なら、まだ怖くないじゃないかぁ。良かったなぁ?」
朝倉が地面に放った、紫の液体。
そこから球状の物体が、周囲に飛び散った。
狙いもなく、ランダムに物体が壁や床に付着する。
付着した場所から、紫のナイフが飛び出す。
複数のナイフが、一斉にユウキに向かって動き出した。
「うわぁ! キュートでも結構でもなぁい!」
ユウキは分身剣を生成して、ナイフに対抗した。
強度が違うのか、ナイフを止められず剣が粉砕される。
「切り身は勘弁だな!」
ユウキは瞬間移動して、ナイフを回避する。
施設内なら転移可能だ。ユウキは剣で防御したまま、出現する。
出現位置に朝倉の剣が、回転しながら飛んできた。
防御に成功して、ユウキは少し飛ばされただけで済む。
弾かれた剣を、朝倉がキャッチ。刃をユウキに向ける。
「いいねぇ~。硬い男は好きだよ。心躍る」
朝倉は二本の剣を、合体させた。
一本になった剣を腕に装着すると。
彼女の腕が、紫の光を纏った鎌に包まれる。
どこまでが武器の力なのか、異能力の力なのか。
こういう探り合う戦いは、随分と久しぶりだ。
読心術を使えば、直ぐに分かるのだが……。ユウキは首を振る。
「さぁ……。お前の心を、解放しな……」
朝倉は鎌を構えて、ユウキに突撃してきた。
普段ならあまり感じない、恐怖心が強まる。
決断が鈍ると仮定して、先に決めておく。
どの攻撃を受け止めて、どれを避けるのかを。
振り回された鎌を、ユウキは剣で受け止めた。
「腕力はさほどでもないんだな?」
「怖いくせに冷静だねぇ。でもぉ……」
朝倉は開いている片腕から、光を放った。
その瞬間、ユウキは胸が掴まれた感触に襲われる。
恐怖、不快感、絶望。あらゆる負の感情が、胸をよぎる。
感覚が消えた直後、朝倉は光った腕に紫の液体が集まっている。
鎌で拘束したまま、ユウキに液体を放出した。
ユウキも右腕に装備された、サイコガントレットで攻撃を受け止める。
「なんだぁ? 随分情けねぇ、心の闇だなぁ?」
「なんだ、今のは? 心の闇?」
「感じただろ? 心を掴まれる感触をよぉ」
朝倉は力を上げて、ユウキを弾いた。
右手の中指を、ユウキの胸に差す。
「心の闇を増幅したり、自分のエネルギーに転換する。それが私の異能力って奴だ」
「随分素直に教えてくれるんだな?」
「決めた。お前はフェアに倒す。こっちだけ情報を知っているのは、面白くないねぇ」
朝倉は右腕を掲げた。指先に次々と紫の光が集まる。
あっという間に、巨大な光弾が完成した。
「へえ、僕ってこんな闇抱えてたっけ?」
「ああ。これは私の。"相手の"とは、一言も言っていないよなぁ?」
朝倉は巨大な光弾を、投げ飛ばした。
ユウキは咄嗟に側面に飛びこんで、回避する。
光弾は地面に衝突すると、周囲に凄まじい衝撃波を放つ。
「どんだけ深いの? 君の心の闇」
「底なしの穴って所かな? 変幻自在のねぇ」
朝倉は鎌を解除して、剣を取り外した。
ナイフ状だった剣が、一本のロングソードとなっている。
「正直、初めてだよ。お前みたいな心の持ち主はさぁ……」
朝倉が刃先をユウキに向ける。
地面から溢れる禍々しい光が、剣に集まる。
「お前の心は、闇が少なすぎる。光もね」
「……」
「お前の心の大部分は……。何もない空洞が広がってるぅ」
朝倉は楽しそうな表情と共に、剣を突き出した。
見えない力が放たれて、ユウキは背後に吹き飛ばされる。
「お前の心に憎しみや怒りが、存在しない。どういう事かな?」
「それだけ優しいって事じゃないの?」
「いやいや。私には分かる……。お前はそう言った感情を、虚無に落としているんだってなぁ」
ユウキは眉間にしわを寄せて、胸を抑えた。
ただ攻撃に変換するだけでなく、ある程度感情を読み解けるらしい。
「お前は私と同じだぁ……。でも憎くてたまらないものを、虚無に吸い込ませている」
「人の心を覗いても、ロクなことにならないぜ。人間不信になるだけだ」
「そこだけが違うんだよねぇ~。お前は人間を嫌いにならないようにしているが……」
朝倉は足元に、紫の炎を出現させながら高速移動をした。
体勢を崩したユウキに、剣を突きつける。
優越感でも、勝ち誇りでもない。喜びの笑みを彼に向けた。
「私は人を疑わない。最初から信じないだけだ」
「情報は曲解されるからね。そう言う生き方は、嫌いじゃないけど」
「見えちゃったんだ。お前は私と同じ、"正義"を憎む者だってさぁ」
朝倉はユウキに顔を近づけた。
ユウキは咄嗟に、無線のマイクを切った。
彼女の問いに俯いて、何も答えない。
「ねえ、聞いて良い? 自分を絶対正しいと思い込んでいる相手と戦う時。貴方はどうする?」
「……。相手の全てを否定する。反論も説得も無駄だし、屁理屈の相手はしない」
「ほら。やっぱり同じじゃん。私もね。正義が嫌いだから、正義そのものを否定している」
朝倉は手を伸ばして、ユウキの頬に触れた。
「お前もさ。憎しみを隠してないで。もっと素直になりなよ」
「お前と違って、僕は……。失えないものがあるんだよ」
ユウキは右腕に、青く光る剣を召還した。
人界での戦いの後、正式に神々から渡されたものだ。
人界の教皇、アルリズとの最後の戦いで使ったあの力を解放する。
ユウキの瞳が青く光り、体から光柱が放たれる。
朝倉は柱の衝撃で、後ずさりをした。
光柱が消えた後、ユウキの背後に二刀流の魔人が現れる。
「恋歌が誘拐され時から、頭の中で声が響く……。もっと力を……!」
「へぇ、軍の人間は色々戦ったが。こんな禍々しい力を持つ奴は、初めてだなぁ」
「彼女を守る力を……! その為なら、喜んで悪魔にでもなってやるよ……!」
ユウキの放つ、異様な力もにも朝倉は動じない。
魔人召還。そのままだが、ユウキは便宜上そう呼んでいる。
力を得る代わりに、少々理性が飛ぶ。
常にフルパワーで戦ってしまうので、相手を殺しかねない。
だから極力使う事は避けたい力だった。
「僕はまだ負けられない……! VA事件を解決するまでは……!」
「やったぜぇ。ようやく本性、見えてきたね。じゃあこっちも、遠慮なく」
朝倉は剣を分離して、再び両手に持つ。
彼女が両腕を広げると、髪の毛が紫に光る。
ポニーテールから、禍々しい大蛇が飛び出してくる。
「壊させてもらおうっかなぁ」
大蛇は朝倉を飲み込み、彼女の体を包み込んだ。
半透明になった大蛇から、朝倉の姿が見える。
彼女は高く飛び上がり、剣を構えた。
ユウキへ向かって急降下する。
それは巨大な大蛇が突進してくる様に見える。
「明日に救いなんてねぇ。過去が地獄なら、未来に待つのも地獄だ」
大蛇を纏った朝倉が、ユウキに衝突する。
「同じ地獄なら、苦痛を楽しもうやぁ……。なぁ」
朝倉の言葉が終わると、大蛇は強く光る。
ユウキを潰そうとする力が、一層強まる。
だが大蛇はその場から、一歩も動けない。
「あららら……。私、結構強力な技を使ったんだけど?」
大蛇は魔人に受け止められて、動きを止めていた。
魔人はユウキの動きと同期して、腕を振り回す。
大蛇もろとも、朝倉は背後に飛ばされる。
「受け止めてくれちゃうじゃん。最っ高だねぇ……」
「……」
「無口になっちゃって。それがお前の本性、なんだろうけどさぁ」
シャッターが開く音が聞こえた。柴葉のハッキングが完了したようだ。
ユウキは朝倉を無視して、出口に向かった。
「おいおぉい……。勝手に終わらせんなよ」
朝倉は剣を合体させて、柄の部分を折った。
銃に変形した武器で、ユウキに光線を放つ。
その光線は、背後の魔人に阻まれた。
「爆発まで後一分なんだ。お互い命削ろうぜぇ」
ユウキは背後の魔人を、神器と共に消滅させた。
代わりに懐にある、アイテムを使用する。
パワーリアクター。三年間力を貸してくれた、地球の結晶だ。
ユウキの想いを込めたリアクターが、力を発動して。
彼の体を高速移動させる。
広い施設を駆け抜けて、一瞬で建物から距離を取った。
「はぁ……。はぁ……。助かったぜ、柴葉」
『お、繋がった。間一髪だったな。でも……』
柴葉が言葉に詰まったので、ユウキは気になった。
それを聞く前に、施設から爆音が鳴り響く。
研究施設は、木端微塵に吹き飛んだ。
普通の人間なら、あの爆発で容赦なく吹っ飛ぶ。
助かったと安心しながらも、朝倉の事が気になった。
『なあ、冬木。実は私、間に合わなかったかもしれないんだ』
「え? でも、僕は脱出出来たぞ?」
『誰か別の人間が、セキュリティーを解除してくれた。誰かまで分からねえけど……』
柴葉とは別の人間が、施設をハッキングしていた。
この施設は、ネットワークに繋がっていないのに。
ユウキも首をかしげていると、爆炎から人影が歩いているのが見えた。
「マジかよ……。普通じゃないんだね……」
「楽しかったぜ、冬木ユウキ。また遊ぼうな」
人影は一瞬、朝倉光日の姿になると。
彼女の放つ闇の中に消えていく。
『冬木、さっさと戻って来い。通信が切れて、恋歌が心配で死にそうだ』
「ああ。分かったよ……」
ユウキは痛む体を抑えて、カフェに向かった。
***
暗く照明を弱めた、ある部屋の中。
斎野敬はパソコンを、弄っていた。
ドローンのカメラ映像を見て、ひとまず息をつく。
「なんで回りくどい、手助けをする?」
作業をしている間、ずっと黙っていた彼女が声をかける。
襲撃犯でもあり、一時共闘したあの少女。ローズが。
「VA事件の被害者は、父が監視を強めている。まだ、彼らと深く接触は出来ない」
「でもさ。会社での貴方の立場。もう危ないんだろ?」
「NAIを逃がしたのが、私だとバレているからね。このアジトに来るのも、毎回苦労する」
斎野敬はユウキと対話する時と違い。
随分と落ち着いた口調で、ローズと話した。
「でもまあ。一体が私の手元に居る事までは、知らないようだ」
敬の弄るパソコンに、メッセージが表示される。
彼のパソコンに保存された、NAIの言葉だ。
「私は、彼らと手を組んだ方が良いのか?」
「そうだな。向こうに必要な情報は渡した。君の好きにすれば良いさ」
敬はパソコンを弄る手を止めた。
「でも舐めない方が良い。父は決して手玉に取れる男ではないよ」
「肝に免じておく。彼らにも免じさせる」
「そうしてくれ。私が社内で行動出来る時間も、もう少ないだろうからな」




