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ユウキサーガ ~ 悪を撃ち抜くCheckmate!~  作者: クレキュリオ
恋歌編

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第3話 過去の爪痕

 ユウキはビジランテ社の本社を訪れていた。

 防衛軍として、襲撃事件の話を聞きに来ている。

 会社側から、襲撃者を撃退したユウキと話がしたいと指名があった。


 来客用の部屋で、ソファーに座る。

 有名企業と会って、オフィスも随分と大きい。

 こういう場所では緊張する。ユウキは静かに相手が来るのを待っていた。


「お待たせいたしいました」


 ノックと共に丁寧な足取りで、一人の男性が入って来る。

 黒いコートに黒いズボン。インナーに灰色のシャツを着ている。

 黒髪の短髪であり、会社の重役にしてはラフな格好と言うのが印象だ。


 男性はお辞儀をするなり、名刺を差し出す。

 相手の素性は知っているが、社交辞令は必要だ。


「開発部の、斎野敬(さいの けい)と言います」

「防衛軍の冬木ユウキです。今日はお忙しいところ、ありがとうございます」

「こちらこそ。本当は父……。社長が直接お話すべきなんですが……」


 斎野敬。ビジランテ社代表取締役、『斎野修一(さいの しゅういち)』の息子。

 落ち着いた態度で錯覚するが、まだ二十歳だ。

 ただ天才的技術者らしく、若い頃から製品開発に携わってきた。


 人工知能の開発は勿論。ハードウェア分野も専門のようだ。

 今回の事件に関わりそうな、技術者である。


「それで、お話とはなんでしょうか?」

「……。襲撃者について、心当たりがあります」


 敬は俯きながら、苦そうな表情で伝えてきた。

 ユウキは既に犯人が特定できているのだが。

 社長の息子が直々に話してくれたのだ。無下に出来ない。


「VA事件……。十年前に起きた事件を、ご存じですか?」

「え、ええ……。まあ……」


 敬の心当たりは、かなり核心をついている。

 ローズや柴葉達の語る通り、この会社が関わっているのだろう。


「五人の子供が誘拐されて……。何かしらの人体実験が行われた事件ですよね?」

「そうです。その五人の内、誰かが復讐のためにNAIを狙った可能性があります」

「それは、ビジランテ社が事件と関係していると?」


 敬は事件当時、十歳の子供だった。

 会社に関わっていたとは思えない。

 それでもVA事件については、随分と詳しそうだった。


「実はNAIの試作が完成したのも、十年前なんです。しかも事件の直後」

「それは……。NAIの数は五体。誘拐された子供の人数と一致しますね」

「私は父の指示で、彼らの学習を担当していたのですが……」


 敬は腕を震えさせた。まるで何かに怯えているかのように。


「彼らは人間として生きた経験があるかのように、会話してきました……」

「そう言うデータが、前もって入れられていただけでは?」

「そんなレベルではなかったです……。感情も記憶も、本当に体験したかのようでした」


 敬は息を飲み込んでいた。周囲を見渡している。

 来客室だが、重要な取引を行う場所らしい。

 だから電波も遮断されて、防音がしっかりしている。


 普通の来客室でなく、この場所に呼び出された理由。

 ユウキは敬の態度から察し始める。


「私はこう思います。彼らには人間の記憶が、コピーされていたのではと……」

「VA事件の、被害者達の記憶がですか?」


 ユウキは敢えて、回り道せずに聞いた。

 敬は静かにうなずく。彼はVA事件がビジランテ社首謀だと、考えている。

 父にNAIを託されたことから、父親が関係していると疑っている。


「ビジランテ社はNAIを独占することで、利益を上げてきました」

「NAIは公表されていません。確かに優秀なAIを独占できれば強いですけど……」

「利益の為だけに、こんな事件は起きません。父はもっと恐ろしい事を考えています」


 父親の事だから、分かると敬は言いたげだ。

 VA事件、NAI、ビジランテ社。いよいよ繋がってきた。


「この場所、私ですら立ち入れない会社の施設です」


 敬はユウキに、住所の書かれたメモを渡してきた。

 

「父の性格から、会社に証拠は置きません。ですがデータは残しているはずです」


 敬は立ち上がって、頭を下げてきた。


「どうか父の企みを止めてください! 凄く嫌な予感がします……」

「どうして僕に? 防衛軍全体に依頼をすれば……」

「事件の真相が明るみになっていないから。公的機関は信用できませんが……」


 敬は頭を上げて、ユウキを見つめた。


「貴方なら信用できる。護衛の態度を見て、そう思いました」

「僕が護衛していたのは、貴方ではなくNAIなんですが……」

「ええ。ですが貴方は真っ先に危険に飛び出しました。だから信用できます」


 敬からメモを受け取り、ユウキはジッと見つめた。

 態度は誠実だし、言っていることはまともに聞こえるが。

 動機が分からない。表情からもイマイチ読み取れない。


 斎野敬を信用して良いのだろうかと考える。

 柴葉の推測では、VA事件の首謀者は彼の父親だ。


「分かりました。僕に調べられる事なら」


 だからここは素直に、応じる事にした。

 腹の探り合いをするにも、手札が少ない。


***


 敬が示した施設は、樹海の奥にあった。

 怪しさ満点だが、樹海の入り口に立ち入り禁止とあれば。

 迷子にならないようにと、錯覚してしまうだろう。


 実際昼間なのに薄暗く、同じような景色が続いている。

 研究施設を隠れて見つめるには、都合が良かったが。


『厳重って感じはしねえな。寧ろ放置されているぜ』

「敢えて使わない施設に、データを隠しているのさ。古ければ言い訳できる」

『なるほどなぁ。それにしても、軍より私に手伝わせるとは。お前も分かるじゃねえか!』


 無線を通じて、柴葉が嬉しそうに言う。

 ユウキは小型カメラと、イヤホン無線でカフェと通信している。

 本来なら電波は届かないが、柴葉のポータル中継器が機能している。


『大丈夫、しっかりサポートしてやるから安心しな!』

「してもらわないと困る。ネットも繋がらないからな」


 ユウキは小型デバイスを握りしめた。

 これを施設のコンピュータに差せば、柴葉のハッキングが使える。

 スペース事件で瑠璃と組んだ時を、思い出す。


『アンタ、仕事中は案外クールなんだな』

「一日のエネルギーは限られてるからな。態度変えないと、持たねえよ」

『仕事を省エネモードでか? やっぱ面白いなぁ!』


 お前が言うなと、ユウキは返したかった。

 カフェの店員をしているとき、柴葉も随分態度が変わる。


『ユウ、気を付けてね……』


 同じ部屋で待機してる、恋歌が心配な声を上げる。


「大丈夫、良い結果を出すからさ」

『ヒュ~、恋歌相手だと、優しい口調だね~』

「いやいや。君だから、この口調なんだよ」


 無線から笑いを堪える息が聞こえてきた。

 ユウキは気持ちを切り替えて、施設に侵入する。

 内装は全く分からない。誰がいるかも探れない。


 どうやら施設の外壁は、特殊なものらしい。

 異能力を通さない、刑務所に使われるものだ。

 サイキック能力でも、透視出来ないのだ。


「廃墟風だけあって、流石に誰も居ないな……」

『気をつけろよ! 地下の研究室で、生物兵器でも眠っているかもな!』

「ならヘリで助けに来てよ。墜落する奴」


 ユウキは警戒しながら、施設を探ってみた。

 随分奥に進んで、ようやくデバイスを見つける。

 他のものと違って、このデバイスだけ綺麗だ。


 ユウキはデバイスに、柴葉がハッキング出来るように細工した。

 無線を通じて、キーボードを叩く音が聞こえる。


『コイツはビンゴだ……。VA事件のデータが、たっぷりあるぜ』


 柴葉が真面目な態度で、データを解析している。

 彼女自身も関わる事だけあって、緊張が伝わる。


「このデバイス、最近触られた形跡があるな」

『こんだけ重要なデータなんだ。そりゃ、誰か管理してんだろ』

「言い方が悪かった。最近と言うより……」


 ユウキは剣を引き抜いて、素早く振った。

 彼の言葉の直後に、紫の光の刃が飛んできた。

 どちらも切り落とし、飛んできた方向を見つめる。


「ついさっきと、言うべきだな」

「ハハハ……。さぁすがは軍。匂いの嗅ぎ分けは得意だなぁ」


 ねっとりとした、陰の籠った声と共に物陰から出てくる。

 ユウキと同い年くらいの少女だ。銀髪のポニーテールで、赤い瞳をしている。

 毒の様な紫のコートを羽織、黒いインナーとスカート。


 青いマフラーをなびかせながら、二本のナイフのような剣を構える。

 ゆっくり笑いながら近づいているのに。ユウキは彼女の放つ異様な雰囲気に圧される。

 直感がダイレクトに、体に危機感を伝えた。


「お前まさか、朝倉か? 朝倉光日(あさくら みつひ)か?」

「私も有名になったもんだなぁ。まあ、こんだけ殺ってれば当然か……」


 朝倉光日。軍や警察関係者に、特急の危険人物扱いされている。

 『正義の断罪者』を名乗り、訓練された軍の人間も手に負えない。

 正義の断罪者と言っても、正義のために悪を断罪するのではない。正義を断罪する側だ。


 相対するのは初めてだが、向き合うだけで心が震える。

 今まで様々な強敵と戦ってきた、ユウキだが。

 シンプルな恐怖を覚えたのは、初めてだ。


「まあ、そんな怖い顔せずにぃ。どうせ未来も地獄だ」


 朝倉がサムズダウンすると同時に、施設の入口が一斉に閉まった。

 赤いランプが点滅して、警報音が鳴り響く。


「後十五分で爆発します。その時間を全力で楽しもぉうぜ。なぁ?」 

「まだ昼間だぞ? 全力出すには早いって」

「この状況で、軽口叩けるんだ? 気に入ったよ」


 朝倉は両手の剣を、ブレスレッドに装着させた。

 クロ―型の武器になって剣を、床に突き刺す。

 すると、床から紫の液体が溢れ出す。


「爆発でなんかで死なさねぇ。私がこの手で潰したいなぁ」

「お前、誰に命令でこんな事を?」

「斎野修一。興味も忠誠もないから、素直に教えてやるよ」


 即答されて、ユウキも戸惑った。

 雇い主の仕事は果たすが、他は聞く気がない。

 それが朝倉のスタイルであり、有名になった理由だ。


『なんとか、シャッターだけで開ける! 耐えてくれ!』

「頼むぜ。瞬間移動で外に出るのは、無理そうだ」

『それから、今とんでもないことが分かったから、伝える!』


 柴葉はキーボードを叩く音と共に、慌てた声を出す。


『VA事件の被験者リストの中に、斎野敬の名前があった。父親の同意でな!』

「おいおい、自分の息子を実験体にしたのか?」

『多分斎野敬は、これを伝えたかったんだよ。だからなんとしても生き延びろ!』

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