第2話 ビジランテ社
二体の警備ロボが出入口を塞ぐ。
片方は銃器を装備し、もう一方は剣が腕と一体化している。
確認することもなく、ユウキ達に襲い掛かってきた。
「令状はないけど、公的機関だぜ! 喧嘩売っても良いのか?」
切りかかってきたロボの攻撃を、ユウキは剣で受け止めた。
切れ味が鋭い。相手を殺しかねない一撃だ。
警備ロボは相手の無力化が目的。私刑は法令で禁じられている。
元々怪しいと思っていが。ビジランテ社への疑いが濃くなる。
普通の民間企業では、なさそうだ。
「ローズさん。アンタのアーマー、元々こいつ等のか?」
剣をぶつけ合っているロボに、ユウキは膝蹴りを行った。
腕に膝が当たり、ロボの剣がズレる。
「ああ。内部に協力者が居る。横流ししてもらった」
ローズの体が、レーザー上に変化した。
彼女は一瞬でロボの背後を取る。
銃器を装備したロボを、背後から光線銃で撃ち抜いた。
「昨日の逃亡トリックはそれか」
「君に比べたら、こいつら弱いな」
「褒めてないよな? それ」
ユウキはサイコガンを、取り出した。
ロボの胴体に銃口を突きつけて、引き金を引く。
念力波が凝縮された一撃が、ロボを粉砕する。
「弾丸以外も、発射できるのか……」
「アーマーなしだろ? 手を貸してやろうか?」
「心配ご無用。私は訓練されているからな」
ローズは体をレーザーに変換させた。
これが彼女の異能力のようだ。
壁を反射しながら、ロボを翻弄する。
背後から頭部に銃を突きつけ、光線を放った。
ロボのカメラが壊れて、センサーが破損する。
「ジ・エンド」
発射された光線が、戻ってきた。
ロボの体を貫通し、今度は天井に移動。
地面に反転して、胴体を完全に破壊した。
「Nice Attack! スカウトしたい気分だぜ!」
「悪いが、国家権力に尻尾を振るつもりはない」
「国家は侮辱するのは自由だが、犬を下に見るのは許さねえぜ」
ユウキ達は互いに銃を向けあった。
両者高速移動で、敵から距離を取る。
「共闘する理由がなくなったな。ではNAIの争奪戦と行こう」
「おいおい、動機も分からないのに、争うのか?」
「敵意はないが、軍にも渡せない理由があるのでな!」
ローズは先ほどと同じ、レーザー化での高速移動を行う。
目では追いきれない速さで、部屋中を動き回る。
ユウキの眼前に現れて、光線銃を突きつけた。
「さっき褒めたの撤回するぜ」
二人の頭上から、青く光る剣が降り注ぐ。
ローズを囲むように、ユウキの分身剣が地面に突き刺さった。
その直後、青い光が強まり分身剣が爆発する。
爆風に飛ばされて、ローズは空中に投げ出された。
ユウキは自分の分身を、空中に作り出した。
四体の分身が、ローズを囲み剣を構える。
「It's Show Time!」
時間差を作り、四方の分身がローズを切り裂いた。
彼女が地面に落下する前に、ユウキが追撃を図る。
ドロップキックを空中に行い、彼女を壁に叩きつけた。
「無理すんなよ。アーマーなしじゃ。流石に勝てないんじゃない?」
「若くても、防衛軍か……。付け焼刃では勝てないな……」
「さっき言ったな? 軍にも渡せないって。奥に向かった彼女は、軍の人間じゃない」
ユウキは武器を収めた。
ローズは既に膝をついて、動きを止めている。
「NAIを狙う理由は知らない。でも個人的な動機で、僕は協力している」
「命令じゃないのか? その個人的動機とはなんだ?」
「君のせいで、上司に怒られちゃって。ムカついたから、腹いせ」
ローズは目を開いて、ユウキをジッと見つめた。
しばらくした後、思わず吹き出している。
「ふっ……。お前、本当に防衛軍か?」
「規則に縛られるのは苦手でね。自分の意志で動きたいんだ」
「なるほどな……。一匹狼と言ったところか」
そんな大層なものじゃないが、ユウキは黙っていた。
ローズの態度からも、敵意が抜けていく。
「良いだろう。ここは譲。だがNAIは、絶対にビジランテ社に渡すな」
「随分な敵意だな。まあ、真っ当な企業ではなさそうだけど」
「真っ当どころか、真っ黒だ。ビジランテ社はな……」
ふら付きながらも、ローズは立ち上がった。
ユウキは咄嗟に、彼女の体を支える。
「VA事件の主謀者なんだからな」
ローズはユウキの耳元で、囁いた。
ユウキは息を飲み込み、瞬きが停止する。
「VA事件……。Virtual Advance……。十年前の……?」
「詳しいな……。世間的に犯人は逮捕されたんだろうが……」
「納得している人間なんていない。少なくとも、警察や軍にはね……」
ユウキは胸に手を当てて、痛みを押さえた。
彼の表情を見て、ローズは首をかしげる。
「私はな、VA事件の被害者なんだよ」
ユウキの態度を、不思議に思いながらもローズは話してくれた。
VA事件は世間を騒がした、事件であったが。
死者が出たわけではない。子供の人生を狂わせた事件である。
「私はビジランテ社に、復讐をする。そして私の人生を取り返す」
「参ったね。君を使って腹いせしようと思ったのに。関心ごとが変わっちまったよ」
「事件の関係者に、君はいなかったはずだが……?」
ローズは再びキョトンっと、首を傾げた。
事件の被害者は五人のみだ。
その中に冬木ユウキと言う人間は居ない。
「被害者だけが……。傷ついた訳でもないんだよ……」
ユウキは手を前に突き出した。
前方に光の輪っかを、出現させる。
「そこを通れば外だ。もう連中と、対峙することはない」
「君は……」
「さっさと行けよ。次に会ったら、いきなり攻撃はなしな」
ローズはまだ何か言いたげだが、口を閉ざした。
ユウキに頭を下げたあと、光の輪を通り抜ける。
防衛軍としては、襲撃者を捕えるのが正しい判断だろう。
それが分かっていても、ユウキは彼女を見逃した。
後の事なんて、考えるつもりもない。
「あ……」
小さな声と共に、恋歌が奥の部屋から出ていた。
攻撃してきたローズの姿が見えず、戸惑っている様子を見せる。
「恋歌、君がここに来たのは……。復讐のためなのか?」
「え……。なん……で……?」
恋歌の言葉のつまりが、全てを物語っていた。
ユウキは俯きながら、彼女に背中を向ける。
「ローズはVA事件の被害者らしい。復讐のために、ビジランテ社を攻撃してる」
「さっきの子が……?」
「そして君も……。VA事件の被害者だ」
VA事件。恋歌と自分の引き裂いた、悪魔の様な事件だ。
「私だけじゃないよ……。柴葉も被害者の一人なの……」
「君がこの街に戻ってきたのは、ビジランテ社への復讐のためなの?」
ユウキは顔を壁に向けた。彼女の表情は見えない。
暫く沈黙が続いた。ユウキも振り返れない。
「そうだよ……。私も柴葉も、あの事件から前に進むために復讐を決意したんだ」
「そうか……。そうなんだ……」
ユウキは歯を食いしばった。
自分の右腕を掴みながら、喉で声を抑える。
「ユウはさ。防衛軍なんだよね?」
恋歌は力弱い声で、ユウキに聞いた。
少しためらいの入った間を開ける。
「じゃあさ……。私達の邪魔を、することになるの?」
恋歌にそう問われて、ユウキは振り返った。
明るさの消えた瞳で、彼女を見つめる。
「なんで、そんなことしなきゃいけないの?」
「だって、貴方は秩序を護るのが仕事で。私達は非合法な手段を使うんだよ?」
「まあ、確かに。法律を破るのは、良くないけど」
ユウキは目を閉じて、息を吐いた。
表情を緩めて、顔を上げる。
「個人の感情としては……。協力してあげたいかな?」
「ユウ……」
恋歌はユウキから、目線を逸らした。
頬を掻きながら、緊張が解れている。
「あのさ。私達も無策じゃないけど。ユウが協力してくれるなら、嬉しいかな?」
「そこは疑問形でなく、断言が欲しかったね」
ユウキは目を開いて、口角が上がった。
彼の表情を確認して、恋歌もようやく微笑む。
「協力するよ。少なくても動けば、後悔が少なくて済むから」
「柴葉はきっと、軍の人間だから警戒するだろうけど……」
恋歌はユウキに近づいて、そっと手を差し出した。
「私は信じるよ。ユウが信じてくれるから、信じる」
「Thanks。そして宜しく」
ユウキは差し出されて手を、そっと掴んだ。
***
「カフェの地下室に、こんなの作ったのかよ……」
ユウキは恋歌に連れられて。彼女達の秘密基地に訪れた。
カフェのマスターが、彼女達に提供したアジトらしい。
階段を降りると、居住スペースとパソコンルームがある。
柴葉はエプロン服のまま、パソコンを操作している。
昨日の明るさとは変わって、クールさが全面に出ている。
「柴葉……。もう全部知っていると思うけど……」
「その人と、協力関係を結ぶことになったと? しかも防衛軍の人間」
「ユウの事知らないから、信じられないと思う。でも……」
柴葉は椅子を回転させて、振り向いた。
「信じるよ。彼の事は調査済み。敵に回るタイプじゃない」
柴葉は帽子を押さえながら、明るく笑う。
椅子から立ち上がり、ユウキに顔を近づけた。
「私、ハッカーだから。この情報社会で最強の力だな」
「店のWi-Fiで、情報引き抜いてるとかじゃないよね?」
「……。ねえよ」
柴葉は目を逸らして、誤魔化そうとする。
昨日無料Wi-Fiを勧めた理由を、ユウキは察した。
「大丈夫! アンタの始末書の数は、黙っていてやるよ!」
「おっと。君の知ってる数が、全部だと思うなよ?」
「その返しは想定外だったぜ……」
柴葉は再び椅子に座って、足を組んだ。
背もたれにもたれかかり、だらしない格好になる。
「まあ、十年も隠された事件だからな。私らだけじゃどのみち詰んでたよ」
「柴葉は引きこもりがちだから」
「うるさいな。恋歌よりマシ」
昨日より、二人の関係性が見えてきた。
こちらが柴葉の素なのだろう。
「まあ、よろしくな。冬木ユウキさん。フシャー!」
「ああ。よろしく。フシャー!」
「アンタ、乗って来るタイプなんだな」




