第1話 秘めていた想い
「恋歌ぁ~。一緒に帰ろ~」
十年前。まだ七歳だった頃だ。
ユウキと恋歌はこの時から、既に交流があった。
幼稚園の頃から不思議と息が合い、小学校でも必然的に一緒にいた。
まだ子供だったユウキは、これからも一緒に居られると思っていた。
彼はまだ、別れと言うものを経験したことがなかったから。
「ごめん! 今日は花園さんと約束があるから……」
「そっか~。じゃあ仕方ないね」
ユウキはこの時あっさりと、引き下がった。
お互い別々の友達も居たので、常に一緒もおかしいと感じていたからだ。
その時の判断を、ユウキは後悔している。
子供の自分に何か出来たとは思わない。
それでもとは思わずにいられない。
「今度、また遊ぼう。新しいゲーム」
「えぇ~。恋歌強すぎるから……」
「協力プレイの奴だよ。一緒にやろう」
無邪気な笑顔で、恋歌はゲームを進めて来る。
ユウキもゲームは人並みにするが、恋歌ほど上手くない。
それでも彼女と遊べることは嬉しかった。
彼女の笑顔を見るのが、ユウキの心に影響を与えた。
ユウキの思い出の中で、一番幸せだった時期と言っても良い。
「ん。それなら。じゃあ、また明日ね」
「うん! また明日!」
その約束は、どちらも果たされることはなかった。
この日を境に恋歌は、学校に来なくなった。
彼女に会う事はなくなった。
***
「奢るから、好きなの頼んで」
十年ぶりの恋歌との再会。その衝撃が、ユウキのイライラを吹き飛ばした。
彼女に連れられて、とあるカフェにやって来る。
クラシカルなカフェで、広さはないが。落ち着く雰囲気だ。
客は自分達以外居ない。窓から夕陽が差し込んでいる。
恋歌は人が多い所から離れたいと言って、ユウキをカフェに連れてきた。
移動する間、二人は会話を交わすことが出来なかった。
「キャラメルマキアート。マシュマロ添えて」
「甘いものを重ねるね……。柴葉、注文!」
恋歌は店員に、呼びかけた。
『はいはい』と言いながら、青いエプロンをした店員が近づく。
白い帽子を被っている、黒いロングヘアーの少女だ。
歳は自分達と同じくらいだろうと、ユウキは思った。
陰のある恋歌とは逆に、明るくニコやかな雰囲気だ。
「ご注文はいかがですか? 私以外に存在した、恋歌のお友達さん」
「小西柴葉。私の親友で、このカフェの看板娘だよ」
「は~い! 看板娘しております!」
エプロンに触れながら、胸を張る柴葉。
このカフェは先日オープンしたてらしいが。
調子のいい子だなと、ユウキは頬が緩んだ。
「お客様~! 当店は無料Wi-Fiがございます! 是非!」
「携帯は電話用なんだ。無駄な情報を見たくない」
「そうですか。じゃあ、一旦下がりますね。積もる話もあるようだし」
恋歌を見つめながら、柴葉はカウンターへ戻った。
明るい態度を取っているが、どこか心に闇を感じる。
でも恋歌が親友と言うなら、きっと悪い子ではないのだろう。
ユウキは注意を、目の前の恋歌に向けた。
彼女は無言のままだし、自分も何を言えば良いのか分からない。
「久しぶり……。だね。こっちに戻ってたなんて」
「うん。暫くは滞在している。このカフェにね」
「そうなんだな……」
いつもなら、相手に軽口を叩けるのだが。
彼女を前にすると、緊張して口が堅くなる。
「じゃあ、ここに来れば会えるんだね」
「会いに来てくれるの?」
「あぁ……。うん。まぁ……」
正直躊躇っている。彼女が目的なく、この街に戻ってくるはずがない。
彼女が引っ越したのは、この街が原因なのだから。
その目的を邪魔するなら、安易に会いに来るべきではないのだろう。
「やっぱり嬉しいから。約束だけして、別れちゃったし……」
「協力プレイの事だよね? もう随分古いゲームになっちゃったけど……」
「覚えててくれたんだね……」
ユウキは無意識に、胸に手を当てた。
彼女を前にすると、子供の頃の感情が蘇って来る。
普段人に見せない様な一面が、思わず表に出てくる。
「あ、あのさ! さっきのチンピラの件なんだけど……」
「僕、強くなったでしょ? 子供の頃は、弱かったから」
ユウキは恋歌の言葉を、意識して遮った。
少し話しただけでも、彼女は大きく変わっていない。
お互い大人になったから、変わったこともあるが。
自分も約束も覚えてくれた。それだけで十分だ。
他に何が変わっていようと、恋歌は恋歌だ。
「あ、あのさ! 再会直後に言うのもアレだけど……」
ユウキは携帯を取り出した。
「連絡先……。交換しない? って、ナンパしているみたいだね、ハハハ……」
「ユウ、パニックになってるね。順序が無茶苦茶になるのも、変わらないなぁ」
「うぅ……。正直、僕は混乱しているよ……」
恋歌はクスっと笑って、携帯を取り出してくれた。
「良いよ。その代わり、呼んだら助けに来てよ?」
「う、うん……。瞬間移動で、直ぐ飛んでくるよ!」
「はいはい、強がらない。ユウも忙しそうだし」
二人は連絡先を交換した。お互いを呼べるようになった。
ユウキは思わずホッとする。
また離れたくないという感情が、心を押しつぶしそうになっていた。
「は~い、ご注文の品で~す」
狙いすましたタイミングで、柴葉がカップを運んできた。
その後、柴葉も混ぜて小さな談笑をした。
この時、無理矢理大人になった部分が消えた気がした。
***
翌日。ユウキは襲撃者の正体を探るため、動いていた。
命令されたわけでない。ただ、気になったら放っておけないだけ。
襲撃者の狙いがNAIなのは、明らかだが。
狙われた目的が分かってない。
開発会社もだんまりを、決め込んでいる。
軍も警戒しているのか、NAIは返却せず保管することとなった。
「木を隠すのは森の中とは、聞いたことがあるが……」
ユウキは二体目のNAIを探りに向かった。
NAI同士なら気配を探り合えるらしく。
昨日保管されたNAIに、話を聞いてみた。
「悪事を隠すのが遊園地とは、聞いたことないな」
情報からユウキは、遊園地を探っていた。
平日なので人は少ないが、一般人を装うのは可能だ。
ここのデバイスのどこかに、NAIが隠れているとのことだった。
遊園地の普通の施設に、隠れているとは思わない。
隠された場所に、手がかりがあるかもしれない。
「エリア絞れば、隠し事無駄なんだよね。僕、透視能力あるから」
ユウキはサイキックを使って、遊園地を調べた。
従業員専用の建物に、隠し通路があるのを見つける。
場所さえ分かれば、潜入などバレないものだ。
ユウキは瞬間移動で、隠し通路の向こう側に移動した。
誰にも気づかれることなく、隠された階段を下りていく。
「便利なんだけど、戦闘で工夫がいるんだよな。サイキック」
調査向きで、戦闘が苦手な能力に愚痴る。
サイコガンを手に持ち、気配を探りながら通路を進む。
装備がないとロクに戦えないので、制作者の蒼に感謝する。
暫く進むと、研究施設のような場所が広がっていた。
本が無造作に散らばっており、設計図も無防備に広げられている。
「疑ってくださいって、わざとらしさを感じるな」
ユウキは設計図を覗いてみた。
昨日戦った、アーマーにそっくりなものが描かれている。
研究所には機械の部品も置いてある。
「技術者って柄じゃないだろ。誰の研究室だ?」
ユウキは襲撃者が、独自にアーマーを開発したとは思えない。
その為、襲撃者のアジトと決めつけず当たりを探る。
研究室はこの一室と、奥にもう一部屋ある。
奥の部屋をジッと眺めていると、背後に気配を感じる。
元々階段を下りている時から、誰かがいるのは分かっていた。
ユウキは即座に振り返り、サイコガンの銃口を向ける。
「わっ! え? ユウ!? 驚くの二日連続だよ……」
「恋歌……? こんなところでなにを?」
「私は奥の部屋に用があって……。敵だと思っちゃって」
恋歌は赤紫に光る、鎌を構えていた。
慌てて背中に隠すが、大きすぎてまるで隠れてない。
「ユウこそ、どうして?」
「NAIを探しに来たんだ。この奥に居るんだな?」
「ど、どうしてユウがNAIを? あれって未発表じゃ……」
質問を返されるが、恋歌の態度で答えは分かった。
ユウキはサイコガンを下ろして、恋歌の目を見る。
「まあ、良いや。行きなよ」
「え? え? 事情は聞かないの……?」
「君を信じている。それに、ゆっくりに話してる暇はなさそうだ」
ユウキは剣を引き抜いた。その場で振り回して。
恋歌に向かった、赤色の光弾を切り落とす。
「今のは僕を狙うべきだったんじゃないかな?」
光弾が飛んできた先。先ほどまで壁だった場所を見る。
壁が開いて、奥の通路から一人の少女が銃を構えていた。
銀髪のポニーテール。防弾チョッキを青い服に装備している。
「彼女の事、深く信頼しているみたいなので。庇うと思ってね」
「その声、聞き覚えあるな。もう感動の再会って奴か」
「昨日はお世話になったね。防衛軍の軍人さん」
女性は昨日、アーマーを装備した襲撃者だろう。
正体を隠す気などない。本当に戦闘用のアーマーだったのだ。
「防衛軍? ユウが?」
恋歌はユウキの所属を聞いて、動揺している。
二人に協力関係がないのは、察した。
ユウキは剣を構えたまま、恋歌を庇うように前に出る。
「僕に任せて、君は目的を果たすんだ」
「……。後でカフェに来て。話すべき事、聞きたい事沢山あるから」
「オーケー。お互い生き延びたらね」
恋歌は奥の部屋に向かって、走った。
女性が銃口を向けるが、溜息を吐いて中断する。
「貴方、話が分かりそうね。休戦しない?」
「会って二日目で、言われるとは思わなかったぜ」
「私の名前はローズ。本当の名前は……。忘れたわ」
ローズは銃口を、出口の通路に向けた。
階段を下りて来る、新しい存在が居る。
気配も殺気も感じなかった。無機物の様な足音だ。
「ここ、私のアジトじゃないの。残念ながら」
「じゃあ、今降りて来るのが家主。不法侵入で訴えられるな、こりゃ」
「だから、家主を倒して誤魔化しましょう」
階段から出てきたのは、人ではなかった。
二体のロボットだ。人が入ったアーマーではない。
「ビジランテ社の、警備ロボをね!」
「元護衛依頼主を、襲撃者と撃退するなんて、おかしだろ? まあ、乗った!」




