プロローグ 運命の再会
「こちらホークワン。異常なしっす!」
緊張感のない声が、無線から聞こえてくる。
こんなこと言うから、何か起きそうだなと考えてしまう。
学校を卒業後、冬木ユウキは軍の一員になっていた。
まだ部隊に所属していないが、いくつか任務をこなしている。
今回言い渡されて護衛も、その一つだ。
「ジッとしているのは、苦手なんだがな……」
ユウキはサイキック能力で、気配を探っていた。
噴水のある公園で、見通しは優れている。
隠れる場所がないため、護衛も紛れず堂々と対象を囲っている。
護衛は守るのが仕事だ。目立つことに問題はない。
襲撃者の逮捕より、対象の安否が仕事の成功に関わる。
「我慢しなさい。またサボったら容赦しませんよ」
「文句言っても、サボった事はあまりないんだが……」
同じ任務に来ていたアリスに、注意をされる。
いつもの事だが、姉はうるさいから苦手だ。
退屈だからと、居眠りも出来やしない。
白昼堂々こんな場所で、あからさまな護衛を連れた相手を狙わないだろう。
普通ならそう考えるが、敵は普通じゃないと知らされた。
そもそも、護衛対象が普通じゃない。
「まさかAIを護衛するとは、思わなかったぜ」
「今の時代、独占できればそれだけで利益ですからね」
今回の任務は新型AIが保存された、デバイスの護衛だ。
新型AI、通称『NAI』は高度な知能で人間と違和感なく会話できるらしい。
全部で五体開発され、それぞれが特定の分野に特化しているらしい。
ようはSFによくある、自我を持ったAI達なのだが。
少し前に開発会社から、全員が消えたらしい。
「AIの家出を捜索して、事情聴取とはね。もう人間いらないかもな」
「どうでしょう? 特化し過ぎて、人間と会話できるだけに見えますが」
「まあ人間ではないからね。支配欲でも学ばない限り、反乱とかしないでしょ」
ユウキは退屈そうに欠伸をした。
二キロ範囲の気配を探ったが、怪しい者はいない。
早朝の公園だ。ラニングコースにも向いていない。
ただでさえ人が少なくて寂しいのに。
目玉の噴水前に黒服に囲まれた人物が居るのだ。
一般人は近づこうなどと思わないだろ。
「とは言え、ホーク隊がフラグ立てたから。真面目に警戒しとこっと」
「お前の基準が良く分かりませんが……」
ユウキが気合を入れ直した直後だった。
探っているギリギリのラインに、何かが引っかかる。
人であるが、動きが変だ。
ユウキは気配の方を振り返り、腰の剣に手をかける。
口笛を吹きながら、飛び出す準備をする。
「流石ホーク! 回収は抜かりない!」
黒服に近づく、青色の光弾。ユウキは飛び出して剣で切り裂いた。
黒服の人たちもプロだ。動揺せず、迎撃準備を始めている。
「よお、余計な事したかな?」
「いや、ワンテンポ遅れた。迎撃は任せて良いか?」
「No Problem! 任せとけって!」
護衛対象の護りを、同僚に任せる。
光弾が飛んできた方向へ、ユウキは走った。
小さく見えていた影の正体を、ようやく掴める。
人であることは間違いない。サイキックで分かる。
でも見た目だけでは、襲撃者が人か判断に困る。
「その姿、イカすね! どこで髪切った?」
襲撃者は緑色のアーマーを装着している。
ヘルメットを被り、目元に赤いセンサーがある。
背中と右手にキャノンが装備され、先ほどは手から出したらしい。
メカメカしい外見から、ロボットだと間違えそうだが。
中に人間が入って、動いている。
「Are You Speak Japanese?」
「私、日本語、分~かりません!」
意外にも襲撃者は言葉を発した。
右腕から放つ、青い光弾と共に。
ユウキは側面に飛んで、光弾を回避した。
「ノリ良いね! 最近無視する奴が多くてさ」
「私も野暮なツッコミをしないお前を、気に入ったぞ」
背中のキャノンが動く。銃口をユウキに向けて、チャージする。
腕のものとは違い、小型光弾を連射するタイプらしい。
連続で放たれる弾を、ユウキはローラースケートで滑りながら回避する。
声色からして、女性らしいと判別できる。
ヘルメットで多少変化があるとはいえ、地声だ。
正体を隠すつもりはないのだろう。
「気に入ったなら、撃つの止めない? 当たると痛そうだ!」
「悪いが私も引けない。痛いで済ますから、邪魔しないでくれ」
「邪魔しなくても痛いんだろ? じゃあ邪魔をする」
傭兵やチンピラが、仕事でやっているわけではなさそうだ。
ユウキは目の前の相手が、中々食えない奴だと思った。
「君の事情は知らないけど。生憎僕も引けないんでね!」
「ただの仕事だろ。必死になることはない」
「プライベートとワークタイムを分けるのが、僕のポリシーさ!」
ユウキは剣を握って、襲撃者に走った。
正体不明だがこの世界の人間なら、異能力者だ。
しばらく異世界の人物と戦っていたので、戦い方を忘れていたが。
異能力者相手なら、まず相手の能力を探るのがセオリーだ。
牽制の一撃に、相手の対処を見る。
「手の内を直ぐに明かさない。それくらいは教わったさ」
襲撃者は腰に隠された、ナイフを取り出した。
ユウキの剣を刃で受け止める。
動じる事なく、腕を振ってユウキをはじき返した。
ユウキは飛ばされながら、腰から銃を取り出す。
蒼が改良してくれた新装備、サイコガントゥー。
装填数の増加と、二発同時撃ちを可能にしたものだ。
「経験値はこっちが上だぜ!」
サイキックで弾丸を生成。強度を通常より上げる。
引き金を引き、まずは銃口から一発放つ。
その下にある隠された銃口から、もう一発を時間差で放つ。
「面白い装備だな。私のこれも面白いぞ」
襲撃者は前方に、オレンジのシールドを展開した。
生成された弾丸は、阻まれて粉砕する。
「おぉ……。強度凄いね」
「新型だからな」
襲撃者は背中のバーニアを起動した。
素早い動きで、着地直後のユウキにタックルを仕掛ける。
「手の内を明かさないのも良いけど。出し惜しみしないのも、戦略だぜ!」
ユウキは瞬間移動で、タックルを回避した。
対象を失った襲撃者は、止まり切れず体勢を崩す。
すかさずユウキは、分身剣を数発撃ちこんだ。
分身剣はアーマーに衝突すると、直ぐに粉砕される。
全くダメージがないわけではないのか、襲撃者は後ずさりをした。
「手の内側に大勢握るのも、戦いってもんよ!」
「色々聞きたいものだが……。私にも余裕がないものでね」
十分時間は稼いだ。恐らくケースを持った人物の避難は終わった。
奇襲に失敗と判断した襲撃者は、撤退の準備をした。
アーマーからスモークを放ち、ユウキの視界を奪う。
「撤退の判断できるのは、有能な証らしいね。逃げきれたらの話だけどね!」
ユウキは透視能力で、スモークを動く影を見つめる。
ニヤリと笑いながら、瞬間移動を行った。
背中を向ける襲撃者の前に現れて、右腕を掴んだ。
「行き先は取調室に変更……」
ユウキは無抵抗なアーマーを見て、溜息を吐いた。
背中を向いているだけで、これ以上動く気配を見せない。
「やられたな……。それがアンタの異能力か」
スモークで逃げるフリをして、中身だけ撤退したのだ。
異能力発動を確実にするため、スモークを使用した。
「まあ、アーマーを捨てちゃったんだ。ここから探れる」
今回の任務は護衛だ。それは成功している。
無理に追跡をして、戦力を分断させるわけにはいかない。
ユウキは諦めて、護衛対象の無事を確かめに向かった。
***
護衛任務の夕方。解放されたユウキは機嫌が悪かった。
ヘッドホンでジャズを流し、気分転換をする。
「社会って社畜野郎を、上司にしたがるな。どこも同じだな」
ユウキは任務を成功させたにも関わらず、説教を食らった。
襲撃者を取り逃がしたことが、上司は気に入らないようだ。
確かに捕まえられたらベストだが、敵は正体不明だ。
証拠が一つでも得られれば、本来は成果として十分。
何より捕まえるに固執して、護衛に不備があれば本末転倒だ。
だが本来の成果以上を得る事を、上司は美学としていた。
「物に当たるのも可哀そうだし、悪人にでも八つ当たりするか」
自分でも問題がある性格だと、自覚はある。
それでもイライラは無視できない。
怒られるだけなら慣れているが、家族を馬鹿にされたことは許容できない。
このままでは自宅で、家族に当たりそうだ。
ユウキは街を歩いて、ストレスを発散することにした。
「ぐふぅ! なにしやがる!」
「お前がな……」
街を歩いているユウキへ、誰かがぶつかってきた。
不良っぽい見た目で、吹き飛ばされたようだ。
チンピラ男性は、ユウキにぶつかったことを気にも留めない。
ユウキが視線を動かすと、そこには似たようなチンピラが数名いた。
その輪の中央に、グレーのパーカーで、フードを被った少女がいる。
状況からナンパでもして、反撃されたんだろうと判断する。
「ラッキーだな。ここに良い的があったわ」
ユウキはぶつかってきたチンピラの襟をつかんだ。
そのままチンピラの集団に向かって、投げ飛ばす。
絡まれた女の子を助けるなど、昔の恋愛漫画みたいなことは柄じゃないが。
ユウキの最優先事項は、ストレス発散だ。
理由が出来ればそれでいい。自分でも最低だと思う。
「なんだテメェは!? 何しやがる!?」
「八・つ・当・た・り!」
ユウキはチンピラたちを、殴り飛ばす。
流石に街の喧嘩で武器は使わない。
素手の攻撃に留めて、撃退した。軍人が不良程度に負けることはない。
正直実力差を見れば、少女だけでも撃退できただろうが。
こう言う奴らはやり返しに来る可能性がある。
ヘイトは分散させた方が良いだろう。
「捨て台詞は?」
「吐くか! お前ら、行くぞ!」
ボコボコにされたチンピラが去っていく。
その直後に少女が、ユウキに殴りかかってきた。
殺気を感じたので、ユウキは腕を掴む。
「僕と戦いたいのかい? 今、機嫌悪いから構わないよ」
「黙れ。なにを企んでいる? 私を助けるなんて、あり得ない」
「だから、八つ当たり。人助けなんて僕の柄じゃな……」
ユウキはフードに隠れていた顔を見た。
その瞬間、目が開き言葉を失った。
「あ……」
少女の方もユウキの顔を見て、腕から力を抜いている。
二人共その状態で、暫く静止していた。
「恋歌……? 夏樹恋歌なのか……?」
「ユウ……? 冬木ユウキ……? どうして……?」
お互いの名前を言い当てた。それが答えだ。
運命の再会を、夕日が照らす。




