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竜人の子作り事情



 オグニアス皇国では竜の涙を動力源としたランプが使われていて、夜でも結構明るい。

 けれど、王国では蜜蝋の蝋燭やオイルランプが主に使われていて、これらは高級なのと、そこまで明るいわけではないので、夜の帳が降りると、皆眠ってしまうのが普通だ。

 侍女が入浴の準備を整えてくれていると言うので、お兄様たちと別れた後に、私はジゼルハイド様を連れて浴室へと向かった。

 私たちのために用意してくれた来客用のお部屋から、少し離れた場所に浴室はある。

 基本的にはジゼルハイド様のお城の浴室と、そこまで変わったことはないのだけれど。

 ジゼルハイド様が一人では不安だと言い張るので、それなら一緒にいて見ていますねと言ってみたけれど、ジゼルハイド様はさっさと私の服を脱がせると、脱衣所から浴場へと抱き上げて運んだ。

 文句を言う暇もなかった。

 それに、途中から抵抗も諦めていた。受け入れてしまったといえば、確かにそうなる。

 そんなわけで、私は使用人たちが湯を溜めてくれた四角いタイル張りの湯船の中で、ジゼルハイド様の膝の上に座って後ろから抱きしめられている。

 浴槽は私には十分広いけれど、ジゼルハイド様には少し手狭のようにも見える。

 ジゼルハイド様は本当に一緒にお風呂に入りたいだけだったみたいで、私を膝に抱く以外に特に何もしようとはしなかった。

 緊張してしまっているのが、かえって恥ずかしいように思う。


「ジゼ様……さっきは、ありがとうございました。お姉様のこと、救ってくれたのですよね」


 本当は後でゆっくりお話ししようと思っていたのだけれど。

 沈黙が居た堪れなくて、恥ずかしさを誤魔化すように私は口を開いた。


「そんなに、大したことはしていない。……俺の母が、俺を産むときに亡くなったと言っただろう」


「ええ、はい……」


「母は体が小さく、魔力量も、さほど多くなかった。……らしい。俺は母のことを知らないから、口伝てに聞いただけだが。母の体にとって、俺を産むことはかなりの負担だったのだろうということは確かだ」


「先ほどの、エリカテーナお姉様のように……?」


「あぁ。母体が、子供に生命力を奪われてしまう。それは俺の母だけではなく、他の竜人にも往々にして起こる。子を産むというのは命懸けの行為だからな。……だから、あのように。子に魔力を分け与えることで、母体への負担を軽減する方法を考えた」


「ジゼ様は竜人の方々のことも助けているのですね」


「……助けている、というほどに大袈裟なことではないが。一週間の終わり、日の休息日。神殿で、子を授かった竜人に、祝福を与えている。強い子が生まれるように、と。祝福というか、魔力を与えているだけなのだが、炎の祝福――と表現した方が、神殿を訪れる者が増える。実際の理由を話すと、拒否するものが多い。だから、言わない」


「どうして、拒否するのです? だって、子供も母親も、両方助かるのに」


「子をもうけるほどに結ばれた竜人たちは、お互いに契りの証を刻んでいる場合がほとんどだ。そういった者たちは、他者の魔力が子に注がれるという行為は受け入れ難い。それに、俺が魔力を注いだせいで、鱗病になったと思う者がいる可能性も、少なくない」


「……ちゃんと理由があって、人助けをしているのに、……なんというか、難しいですね」


「俺も、俺以外の誰かがお前の体に魔力を注ぐことを考えると、苛立ってしまう。儘ならないものだ。……人の知恵と、獣の本性。双方を持ってしまったが故に、……時に感情が抑えられず、誰かを傷つける。過去の争いもそのようにして起こった」


「ジゼ様、それは、私たちも同じです。竜人の方々だけじゃありません。私たちだって、感情に囚われて、嫉妬したり、誰かを憎んだり、争ったりします」


「アンネは、そのようには見えないな」


「それは、ジゼ様が私を大切にしてくださっているからです。さっきだって……お兄様にジゼ様がとられてしまうみたいで、寂しいって……思ってしまって。お兄様のことだって大好きなはずなのに、おかしいですよね、私」


「……アンネ。この状態で、そのように愛らしいことを言うのは、よくない。誘っているのか?」


「そ、そういう、つもりはなくて……! そういえばジゼ様。竜人の方々は……お腹で、子供を育てないのですか」


 私の薄い腹の上で組まれているジゼルハイド様の大きな手を、極力意識しないようにしながら、私は尋ねた。

 すごく、気になる。

 でも――ジゼルハイド様は、母親のお腹の中の子供に祝福を与えるのだと言っていたし。

 考えもよくわからないことは、聞いてみるのが一番よね。


「育てるには育てるが、……心音さえはっきりわかるほどに育てるということはない。竜人の子は、卵から生まれる」


「たまご……たまご、ですか……? 卵……」


 私の頭の中に、目玉焼きが思い浮かんだ。

 一番馴染み深い卵といえば、鶏の卵。その次に、ウズラの卵。それ以外の卵は、よく知らない。

 イクラとか。タラコとか。あれも卵ね。


「アンネ。最近ずっと、考えていた。お前は体が小さく、魔力さえもたない。お前に俺の子を産ませるのは、負担が大きすぎるのではないかと」


「ジゼ様、でも、私……」


 ジゼルハイド様の子供が欲しい。

 私、卵でもなんでも、頑張って産むから。

 それに鱗病のこともあるし。私が頑張らないで、誰が頑張るというのかしら。


「だから、アンネ。俺が卵を産もうと思っている」


「え? ……え?」


 卵の時点で混乱していたのだけれど、私はさらに混乱した。

 ジゼルハイド様はどこからどう見ても、男性よね。

 実は女性だったのかしら。だとしたら、私は実は男性なのかしら。

 それならなんとかなりそうだけれど……!

 ジゼルハイド様は私の臍の下あたりを、ゆっくりと撫でる。ちゃぷんとお湯が揺れる音がした。


「お前のここに、子供ができたら、すぐに中から取り出す。……本当は、卵として形になった時に抜き出すのだが、それでは、お前の体が保たないだろう。抜き出して、形になるまで俺の体の中に埋め込もうと思っている。おおよそ、半月ほどだな。半月ほど、親の魔力を吸収して、卵となった時に外に出す。それからもう半月で、竜の雛が生まれる」


「……ええと、その……っ、でも、ジゼ様は、男性……ですよね?」


「あぁ。だが、竜人の場合はそれができる。妻に負担をかけたくない者などはそうすることもある。それに、竜人は男女の性差についてあまりこだわりがない。それは、女同士であっても男同士であっても、魔力を混じり合わせることで子を成せるからだ」


「そ、そうなのですね……! 確かに、男性が子供を産んだり、卵を育てる動物も、図鑑にはのっていたような気がしますが……あぁ、ごめんなさい、動物と一緒にしたわけじゃないの。私、今まで女性が子供を産むって思っていたから、びっくりして。卵を産んだこともないし、もちろん、子供を産んだこともないのだけれど……!」


「……そんなに、驚くことだっただろうか」


「でもでも、ジゼ様! もし私が大丈夫そうなら、私が育てたいと、思うの……だって、ジゼ様と私の子だもの。私、頑張りたくて……っ、だめですか、ジゼ様……」


「駄目なことは、ないが……アンネ。すまないが、お前たちはどのように子を産むのか、教えてくれるか」


 遠慮がちにジゼルハイド様が言うので、私は唇を噛んだ。

 もちろん知っているけれど、それを言うのは恥ずかしい。

 でも、お互いを知るって大切よね。

 私は意を決して、ジゼルハイド様の耳元に唇を寄せると、それを伝えた。

 ジゼルハイド様は私の話を聞くと、俄に目を見開いて「……それは、なんというか、とても大変だな」と呟いた。




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