契りの証
指先を絡めるようにして、手を繋いでいる。
繋いだ手はシーツに繋ぎ止めるようにされている。
白いシーツの海に投げ出されて、荒波に揉まれているみたい。
ジゼルハイド様が与えてくださるものはどこまでも優しい。
はらはらと流れ落ちる涙を何度も啜られて、指先で拭ってくださり、何度も大丈夫かと尋ねられた。
頷くことしかできない私の呼吸が整い、乱れた感情が追いつくまで辛抱強く待っていてくれる。
ゆっくりと丁寧に体が開かれて、互いの境界が溶け合うように曖昧になっていく。
「……アンネ。今から、お前に魔力を注ぐ。契りの証を刻むために」
「……ぅん、ジゼ様、嬉しい……」
ジゼルハイド様は私の体の中にある何かを探すようにして、指先を肌の上に滑らせる。
雨に濡れて、それからじわりとにじんだ汗で湿った体を指先が辿る。
体が震えてしまわないように、私はシーツを掴んで耐える。
「落ち着いて、アンネ。……痛くない、大丈夫だ」
「ぃたく、なくて……ずっと、あつくて、ジゼ様に触っていただくと、ぜんぶあつくて」
「……俺も、同じだ。アンネ、お前は小さくてすぐ壊れてしまいそうなぐらいに、細いのに、……しなやかで、柔らかくて、あたたかい」
「変、じゃ、ないですか、私……ジゼ様、物足りなかったらどうしよう、って……」
「それはあり得ない。俺は、お前しかいらない。お前しか愛さないし、こうして、深く触れることもない」
指先が、私の胸の上で止まった。
たぶん、心臓のすぐ上。
怖いわけじゃないのに、体がびくりと跳ねて、ジゼルハイド様は私の唇に、宥めるように優しく口付けた。
「アンネ、今から刻むのは、永遠の誓約だ。……消えることのない、約束。人族のお前にとっては意味をなさないかもしれないが、俺たち竜人にとっては、魂に刻まれた呪いのようなもの」
「呪い……」
「互いが互いのものであるという、呪い。……お前が俺から逃げたとしても、どこまでも追いかけてお前を連れ戻して、俺はお前をどんな手を使っても、俺の物へとしようとするだろう。それぐらい、深く、暗い、呪い」
「……ジゼ様から逃げたりしません。変わらない愛を誓います」
「心は、うつろうものだ」
「うつろわないものもあるのですよ。私は、空が好き、森が好き、動物が好きで、虫や植物も好き。家族と、それから、ジゼ様が好き」
「森や空や、動物などと同じように?」
少し拗ねたように言うのが可愛らしくて、私は微笑んだ。
「愛しているのはジゼ様だけです。変わらない約束は、とても素敵なものだと思います。王国でも、婚姻の約束をするのですよ。変わらない愛を誓い合うのです。体に、印はつけませんけれど、その代わりに指輪があります」
「指輪。装飾品の?」
「ええ。……永遠を誓うのは、人も、竜も、同じですね、ジゼ様」
ジゼルハイド様の頬を、私は力の入らない手で撫でる。
頬を撫でた手を伸ばして唇に触れると、指先を舌が辿った。
丁寧に指先を一本一本舐られて、私はうわずりそうになる声をなんとかおさえる。
「ずっと愛してくださるのでしょう? 嬉しいです、ジゼ様。だから、刻んでください」
「アンネ……」
「私は、あなたのものです」
私がーーそれを求めたのだから。
今更怖がったり、逃げ出したくなったりなんてしない。
私はジゼルハイド様が好きで、好きだから、愛されたい。
永遠に愛していただける約束を、体に刻んでいただけるなんてーーこんなに嬉しいことはないもの。
「本当に、良いんだな」
「もちろんです……っ、……ぁ……っ」
ジゼルハイド様は口元に笑みを浮かべた。
それは優しいけれどどこか野生味を帯びている、獣のような笑みだった。
指で示していた胸の上に、舌が触れる。
焼けるようにあついような気がしたのは一瞬で、皮膚を通して、何かとろりとしたものが、体の中に染み込んでいく。
それはジゼルハイド様と一緒に食べた、紅仙桃果の果汁にどことなく似ている。
どこまでも甘く、どことなく、淫らなもの。
心臓から、指先や足の先までを、私ではない別の何かが、私の体に浸潤していく。
ジゼルハイド様は、慈しむように私の髪を撫でる。
「……ぅ、あ……っ」
「辛いか、アンネ」
「大丈夫、です……ジゼ様、ぎゅって、してくださ……っ」
「あぁ」
今まで味わったことのない感覚に、私は助けを求めるようにジゼルハイド様に手を伸ばす。
抱きしめていただくと、すごく安心する。
心も体もぜんぶ、繋がっているみたいでーーなんだかとても幸せで、ぼろぼろと涙が溢れてくる。
「ジゼ様……っ」
「すまない。俺は、アンネを泣かせてばかりいるな」
「違う、のです……嬉しくて、幸せで……」
私の胸には、ジゼルハイド様の舌にあるものと同じ刻印が刻まれていた。
円形で、中央に炎を纏った鳥のような形のそれが、黒く浮かんでいる。
「もう、終わり……?」
「あぁ。……苦しくはないか?」
「大丈夫です……幸せです、ジゼ様、ジゼ様……私、ジゼ様のものに、なったのですね」
「アンネ、俺を受け入れてくれて、ありがとう。もう、離せない。俺は存外嫉妬深く、お前がそばにいないと、落ち着かない。印を刻んだ以上、自分を抑えることはできない。アンネ、覚悟をしておいて欲しい」
「はい……もちろんです、ジゼ様。たくさん、甘えてくださいね」
私はジゼルハイド様の髪に指を絡めて、頭を撫でる。
それから、抱きしめられているせいで、私の顔のすぐ横にあるジゼルハイド様の首筋に、軽く噛み付いた。
「アンネ……?」
「私は、印が付けられませんから。でも、ちょっとだけ跡がつきました」
種族が違うから、ジゼルハイド様は不安になってしまうのかもしれない。
だとしたら、私も証を残したい。
あまり強くは噛めなかったけれど、首筋に少しだけ跡が残っている。
「アンネ……それは無自覚なのか。だとしたら、たちが悪いな」
「ジゼ様……?」
「夜は長い。悪いが、収まりそうにない」
ジゼルハイド様の声音に艶が灯って、私は小さく頷いて、目を伏せた。
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