37話
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「…」
痛みも痒みもなくなった手の甲を祈祷術で軽く治癒したマージは未だ攻撃をしてこない〈それ〉を前に一定距離を保ちながら歩き始めた
見回す中、照明はないものの開けた視界。手を伸ばしても届く気がしない程高い天井は飾りでなく必要に応じたものだと分かった
広い部屋の中、中央に鎮座する巨大な蝸牛。接近するのに全力で走って秒は掛かる距離にいるそれは、それは暗がりでも分かる真っ黒な貝殻を向きそのままに中から出てきている流動体の様な本体から黒い点が伸びていた
その黒い点は絶えずマージを追っていた
「動きはやや鈍い、でも視野が広い───」
一定距離を保ちながらも判明していく敵の情報を独り言として列挙していくマージは現在、攻め手が足りないことに最も頭を抱えていた
「───体表を皮膚に被害のある
腐食性の粘膜で覆っている…」
薄皮の張った手の甲を一瞥し、再び視線を戻すマージは敵の異変に気がつき、走り出した。本体の動きは遅いものの、その攻撃は全くの別物が如き速さをしていた
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湿った空気に圧迫感が生まれた。ほんの数拍に3度の触腕による攻撃がマージを襲った
「ッ!」
鞭の様にしならせる触腕はマージを捉えんとのたうち回る様に壁や地面、天井を溶かしながら振り回し、マージへと襲い掛かる
空中から振り下ろす様に放たれる一撃。しかし、それにマージが当たることはなかった。いつかの白い龍と比べその動きは全体を通して遅く、速いのは予備動作に留まり、予測も簡単だった───攻撃の予備動作に入った瞬間。先端を残し加速、遅れて先端がしなり、急停止による触腕のしなりが連動し、予備動作の延長線に触腕の先端が放たれ、通過する
そんな攻撃だった
◆
「…」
体力の消費を最低限に攻撃を避けるマージは〈鋲鎚朱雀〉の存在が気になっていた。触手を貫き、蝸牛の粘膜をまともに食らい続けているであろう武器を部屋の外に残している
万が一にでも盗まれれば取り返すのに手間が掛かる。そんなことを考えつつ、打開策を考えていた
最も単純な方法が中和剤による粘膜への干渉を可能にする方法───しかし、荷物に入っている薬剤がそれほど多くないことが問題であり、万が一に全身で攻撃を受けようものなら致命傷になるため最終手段として上がった
「モノは試しか」
迫る触腕に中和剤を引っ掛けマージは蝸牛の出方を伺った。それは驚くことに中和剤を受けた腕を貝殻の中に素早く戻し新たな触腕を貝殻の内からマージに伸ばしてきた
「ととと!?」
触腕が無数に伸びてくるとマージが居た場所を滅多打ちにし始めた。揺れる乱打の恐ろしいこと、地面が揺れる勢いのそれは数秒続き、やがて収まった
「うっわ、怖」
まともに受ければ質量で押し止められ毒物によりなぶり殺しにされることが明白の攻撃にマージは冷や汗を流していた
「キッツイな」
互いに攻め手のない状況───マージは苦笑いを浮かべていた。その時
「マージ殿!」
マージの聞き覚えのない声が彼の名を呼んだ




