25話
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「で、その龍をオレの【剣聖】でザクーよ!」
酒場で葡萄酒を煽る
〈神銀の剣〉リーダーのアルトラは
剣を振り下ろすかのように鉄杯を
振り回し、テーブルに叩きつける
飛沫が飛び散るのもお構いなしに
周りにいる探索者が飲めや歌えやと言った
酔っ払い特有の盛り上がりを見せていた
「さっすがアルトラさん!
【剣聖】に切れぬものなしですね!」
「すげぇぜ、まさか攻略しちまうなんてな」
「こんなすげぇ宴はアビーク領の時以来だぜ」
酒が飛び散るのもお構いなしにジョッキ同士をぶつけてはしゃぐ酔っ払いを気にするものはおらず、夜に響く笑い声が未だ止む気配はなかった
それでも聡い者が酔っ払いの中にも居る
「でも、凱旋がないのは悲しいな
アビーク様の時にはそれはもう盛大に
街を上げて騒いだってのに」
「おうよ、マージの奴が裏切りさえしなければ
堂々と凱旋できたんだがな
くぅ、オレが仲間だと思って
信頼していたばかりに…!」
心底悔しそうに顔を歪めるアルトラ
「そこだよなマージはなんで守護者の死体すら
持ち出さずに聖杖だけ盗んで
高跳びなんかしたんだ?」
「しらねぇよ、『アーツ』使いには
変わり者が多いって話だ
いつも本を読んで何考えてるか
分かりゃしねぇ」
「4人相手に
高跳びったぁ肝が座ってやがる
なぁ?アルトラさん」
「あぁ、それな
うっ、飲みすぎて酔いが
回ったみてぇだ…続きはまた今度な」
アルトラが気持ちよさげに机に突っ伏したのを見て、周囲は「おやすみ」「ご馳走さん」と気持ち良さげに去っていった
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マージが貸してたスキルは
どれもこれもゴミだった
スキルひとつ覚えるのに時間を掛けてた
食わせてもらっていたのに薄情なやつだ
周囲の客や店員はひそひそとマージへの陰口をぼやき、その声は外に降りしきる夜の雨がかき消す。アルトラの耳に入るのは自分のいびきばかりだった
◆◇◆◇◆
「んぁ?」
気がつけばアルトラの向かいの席にはエリアが座っていた。もくもくと食事を口に運び、さらにその隣ではティーナが顔にかかった金髪を払うこともせず疲れた様子でコップの中の液体を眺めていた
「ぉい、ティーナ。酒が進んだか?」
「え?あ、いえ、私は、いいんです」
何かに怯える様に身体を震わせ、アルトラに返事をする。ティーナの杯の中身は水だ。決して酔いが回っているわけではない───それでも周囲がそれに気がつくことはない
賞賛、賛辞、謝辞、色々あれど彼らに対する不平不満は何ひとつとして飛び交うことはない
「…衆愚ってのは楽でいいねぇ
俺の口先ひとつでこうだ!っんぁ?」
得意げにアルトラが杯を煽ろうとするも中身はすでに空だった。アルトラは不機嫌そうにしている
「っち、お?きたきた」
そこに酒場の娘が通り掛かることがわかっていた様に机を支えに椅子を後方に傾け、娘の運んでいた酒の入った杯を掻っ払って姿勢を戻した
そんな様子に周囲は爆笑し、娘もまた満更ではない様子を見せていた
◆
「それにしたってマージ
最後にいいことをしたな
報奨金辞退って」
マージは迷宮の攻略報奨金から自身の分配に当たる金銭を受取拒否をしていた
口先三寸、アルトラ自分たちの功績とするためにマージを落とし、仲間もやや下げつつ、自分のことを〈最も貢献した者〉として流布していた
「どこに行ったか、逆に気になるな
何ならどっかで野垂れ死んでたりな!」
「愚問。〈気にするだけ無駄
目が覚めたら出ていってもう三日
帰ってくることはないと予想〉」
「おれたちは…なぜかブッ倒れてたし
起きたら迷宮攻略が終わってるし
しかも攻略報告したのがマージだってな
どうなってんだ!おいそこの者、酒を」
「ゴードン様!その乱暴な物言いは
やめてください…誰が見ているのかも
分からないんですよ…」
「周りの反応見よ
誰が気にしてるというのだ?」
店員を呼ぶゴードンの姿は決して横柄な者ではなかった。しかしティーナは怒鳴る様にしてその行為を咎め、酔いが覚めたゴードンは引き気味に弁明をした
「…分かりません。分かりませんが
確かに誰かが見ている
そんな気がして、心が休まらないんです」
「そうか、すまぬ」
お通夜、ムードである
「あ〜ぁ酒が不味くなるな
まともなのは俺だけか?
いい気分だってのに最悪だぜ」
いなくなったマージや仲間に悪態をつきながら、アルトラは乱暴に杯を卓に叩きつける。酒を浴びる程飲んでいるというのに足りない様子だった
連日の横柄な態度も皆が慣れたのか、本当に気にする者はおらず、ティーナが誰の目を気にしているのか気づくものはいないだろう
「おいエリア!」
「ふぁにふぁ?」
「口に入れたまま喋るな!
なんか気づいたこととかねえのか
こう、なんでもいいからよ!
たまには魔法ブッ放す以外にも
役立てろやその頭!」
あまりに無茶な物言いではあるが、エリアは文句も言わず「ふむ」と顎に手を当てて考えること数秒
「これは先ほど得た知見」
「なんだ、言ってみろ」
「〈大凡他人が理解できる訳のない
長ったらしくて専門用語だらけの
懇切丁寧なアルトラへの罵倒〉」
「え?あ?何!?」
「〈先程とは違う
他人が理解できるかできないか
それ程長くないアルトラへの罵倒〉」
「…は?」
「理解不能、アルトラは馬鹿」
「…何だ」
エリアが何を考えているかよく分からないことはアルトラにも何度かあった。酒の回った頭でぐだぐだと考えようと、頭の冴えた日に先程の内容を聞こうともアルトラにエリアの言葉を理解するだけの知識はなかった
「なんだァ…?」
不気味。理解に苦しむことはあったとしても、ここまで言語単位で理解が追いつかないことは今までになかった
「…」
それ以上に恐ろしいのは、他人の目を憚ることのない汚い咀嚼方法だった。丸呑み、大口、咀嚼音、品のかけらも見られない、暴食、食い意地の領域
「エリア、何だよその食い方」
「愚問。〈何の説明だよって
レベルの長い話から繰り出される
お腹が空いていることだけを
伝える意味の文章〉」
「…」
冗談や"からかい"とも思えず、アルトラの酔いは覚め、代わりに薄ら寒いものを感じて目をそらした───目の前のそれが自分の知る〈エリア〉でないことから目を背ける様に




