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26話

◆◇◆◇◆


「分んねぇな…」


 今にして思えばとアルトラはマージのことを思い出す。パーティーの中でもかなりまともで受け答えをしてくれていた。望むものを渡してくる、頼めば命すらも差し出していた


 アルトラにしてみれば、唯一まともな理解者を失ったことに今、気がついた。加えてひとりでも迷宮が攻略できることを知ったマージが手元に返ってくるとは思えなかった───〈否定〉アルトラは酒を煽り、その事実からの逃避に走った


 不可解さを解決するのではなく、解決しないまま、放置することをアルトラは選んだ



 顔が赤くなり、目が充血し、吐き気と理性のせめぎ合いの中、酒場の扉が動く音と共に誰かが入ってきたのがわかった


「…マー、じ」


 アルトラが無意識に駆け寄った先にいたのは、配達員だった。知っていた筈なのに落ち込むアルトラは大きくため息を吐いた


「申し訳ございません

 私はマージという者では」


「分かってるよ、何だよ」


 アルトラは不機嫌そうに尋ねた


「神銀の剣というパーティにお手紙が…」


 配達員は大声で酒場にいる全員に言った


「大声を出すな、聞こえてるっつうの」


「…ではこちらに受取のサインを」


「たく、どいつもこいつも」



 配達員は不幸だった。仕事の最中に酔っ払いに絡まれた挙句に悪態を吐かれたのだから最悪の日と言っても過言ではなかった



 アルトラが憔悴しきった姿で椅子に倒れ込んだ


「エリア、口周りが」


「〈邪魔〉」


 がっつくエリアをゴードンが世話をする中、アルトラがゴードンに受け取った手紙を渡そうとした


「ぉい、ゴードン読め」


「うっ、酒臭いな、今エリアの世話で…」


「いいから読めっつってんだよ!」


 アルトラが食い気味にそういうと、ゴードンは"すごすご"と手紙を手に取り、読み始めると途端に不満そうな顔が明るくなった


「アルトラ、朗報…」


「アビーク!アビークってうるせぇな!!

 今回は俺の!!!功績だろうが!!!!」


「もう静かにして下さい!!!!!」


 またしても食い気味にアルトラがゴードンの言葉を遮り、ティーナはその行為に過剰な叫びで対抗する───ゴードンは密かにマージのことを恋しく思っていた


 邪魔にならない様に努め、他者を思いやるそんな姿を今思い返していた。今にしてみれば【才能】の差なんて些細な弱点だったと後悔を嘆いていた


「オレまだ何も言ってないのに…」



「…」


〈無駄〉───ゴードンからの過剰な干渉、ティーナの叫び、アルトラの馬鹿さ加減が今のエリアには腹持ちならない問題になっていた。今や彼女の脳内は〈古代〉などという大凡、凡人が考え至る領域から逸脱を果たしている


【神代の唄】───〈神代〉それは最も深い魔法の世界。思うことで実現に至り、実現に至れること思えば現実がそれに合わせて動く、それが神代である


 エリアは今や詠唱と魔力があればそれが実現可能な領域にいる。が、しかし先程から止まる気配のない食事の手が物語るのはその〈最悪な燃費〉である。『枷』が外れた故に【古の叡智】が不可逆的な【派生】を行った結果、それは最早人類が扱えるに至るか怪しいばかりの文字の羅列へと成り上がってしまった(・・・・・・・・・・)


【使えるけど長ったらしい上に

 魔力を無茶苦茶喰うし

 副作用として肉体が知識を保有するために

 多大な燃料を必要とする状態になってしまう】


 それが【神代の唄】である


・口元を拭かれればそれだけ食事の邪魔になる

・耳から入る雑音が余計な情報処理を発生させる

・馬鹿の相手は疲れる


 故に辿り着くのは〈マージ〉だった


〈自律型の支援端末的な利便性が現在有力視されている人物。人の命令を愚直に熟し、過度な干渉はせず、必要な時に必要な支援を受けられる可能性が大


 加えて新たな知見。マージの潜在能力は負荷により十分に発揮できなかったことが予想される。それもこれもアルトラの馬鹿がマージにキツく当たっていたからと予想。十分な休息と栄養、交流を与えれば良い結果が得られる確率99%、問題は現在の所在と恐らく我々に愛想を尽かしていることが考えられること、加えて交流は余所者でも可能な点、精神的負荷が取り払われた場合、同行と支援を受けられる可能性は46%、恋人や親しい人物が生まれれば20%に減少、日数経過に伴って0.01%ずつ可能性は失われていく、どうにかしてマージを見つけ出さなければ〉


〈もぐもぐと咀嚼している〉


「エリア…口周りが」


「〈邪魔〉」


 咀嚼中の思考でさえこの情報量である



「…」


 耳を塞いでも聞こえる誰かの声、絶えず求められる信仰心。そして


「〈マージが居なくなって不安〉」


 ぽっかり空いた訳の分からないマージへの暴走限界突破の母性、最早呪いの域に沈められているティーナは訳も分からず、マージを渇望していた


 詰まるところ【貸技仲介】がティーナの身体に憑依し、限界を超えた行使を行った結果、心身共に侵食を受けたのだった


 本来の誰にでも分け隔てることなく、過度な干渉をすることもない聖女の立ち居振る舞いをできていた彼女だが───今や1も2もマージが居る始末


 それを否定する元の人格とがせめぎ合い、今やノイローゼを発症中である



〈マージどこに居やがる〉

〈マージどこに居る〉

〈マージの所在〉

(マージ)ージ マ(マージ)ージ(マージ) マージ(マージ) マージ(マージ)


 マージの預かり知らないところで失せ他人探しに出らんとする4人の思考が一つにまとまった瞬間だった


〈そして、改めて思考が一致するまであと十日〉

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