10話
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星空が姿を消し始める夜と朝の間。明るさを取り戻していく空の下、〈鋲槌朱雀〉を抱えていたマージは誰のものか定かではない朧げな抱擁の感覚を思い出していた
「…ん?」
思い出そうとして、夜風の寒さとの差に意識が覚醒すると吐く息が白いことに気がつき辺りを見回した。今でも実感の湧かない迷宮攻略の終わり、マージは馬車に揺られていた
「マージさん、まだ寝てても大丈夫ですよ」
「はい、ありがとうございます」
御者の声に返事をしながらも意識は既に眠ることを選択肢から除外していた。馬車の所属は迷宮救出隊、マージの所属していた『神銀の剣』が迷宮探索から帰ってきていないことで出動したとのことだった
人手の補充もあり、迷宮の崩壊前には迷宮が生成した資源や財宝などを運び出すことができ、迷宮探索は一応の完了を見せていた。ただひとつ、マージの心のシコリだけを残して
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「ブローカーさん、あなたは」
マージはティーナではない、ティーナに似た存在を思い出しながら、その名前を呟いた。最初の脱出時に背中から下ろしたその姿は確かにティーナのものだったが今だに確証が持てず、今はただ神銀の剣の6人目の味方として感謝しても仕切れないことだけを確かな記憶として反芻していた
「…」
アルトラ、ゴードン、エリア、ティーナの4名は外傷もなく運び出された。魔物や罠により救出は困難に思えた脱出は振り返ってみればそれほど苦戦するものでもなかったことをマージは思い出していた
マージはティーナを運び出していた時に分かったことがあった。迷宮はその活動を停止させる───蔓延っていた魔物は魔力の供給を絶たれ存在の維持をできなくなること。戦闘はティーナを運び出していた時の一巡のみ。エリア、アルトラ、ゴードンにおいては体力の問題だけが残ったがそんな問題も解決するまでにそれ程時間は掛からなかった
「数が少なかったな」
ゴードンを運び出している最中に救出隊が突入して、全員の救出が終わり、氷塊を運び出している時に回収隊が交代で入っていったのを目撃していた
「…」
6年間、何もなかったマージは今日の経験を経て───勉強と鍛錬と雑用までの日々を思い出して、マージは冷静さを持って独り言を呟いた
「もう、十分返せたかな」
命の恩人を命で返し、生きてきた2倍を費やして貢献を続けた。十分な休息でマージはこれまでを振り返り〈異常〉を痛感し、それ以上に
「感謝の言葉を言われたの初めてだったな」
最早そこに未練はなかった




