9話
◆◇◆◇◆
【〈演算〉により実行不可と診断
〈評価値〉の不足】
「前線に戻ります」
マージが前に出た後、ブローカーは戦況を俯瞰しながら作戦を練り続けていた。いくら武器を得たところで傷つけば回復を挟まなければならず、体力も削られていくのが実状───何か有効打を練らなければとブローカーは焦りの様なものを持っていた
「うわっ!」
【天使の白翼】
そんな中、早々に吹き飛ばされて帰ってきたマージを見て透かさず【天使の白翼】を使った。外傷は立ち所に良くなったものの自分同様に体力の限界かと思い戦闘準備に入ったブローカーだったがマージから差し出された肉片に手を止めた
「ブローカーさん、この肉片
まだ生きてます」
【生命力が桁外れに高いですね】
「これ、何かに使えませんかね?」
【『思考整理』を起点に〈演算〉実行】
前線に戻ったマージを誇らしげに見つめるブローカーの〈演算〉が弾き出した結果は〈再現困難〉だった
【貴方はいつも先をいっていますね】
◆◇◆◇◆
【マージ、白龍の頭部破壊を指示】
「また無茶なことを」
攻撃の最中に飛んできた命令にマージは思わず苦笑いを浮かべつつ穂先を改めて白龍に向けた
◆
穂先で的確に白龍の龍鱗一枚一枚を捉えてヒビを入れていくマージの妙技を前にブローカーも白龍もその真意を計りかねていた。攻撃による不快感が希薄となり、白龍の攻撃はより一層の苛烈を極めたがマージは動じることなく技への冴えを絶やすことはなかった
そうして頭部に携わる龍鱗全体的に触れたのを見計らい、マージは槌の部位を白龍に向けて振り上げると妙技によって、指示の遂行を成した
〈隕尾一碧〉───振り下ろされた凄まじい一撃は空間全体を揺らす程の轟音を轟かせ、触れてすらいない天井にさえ一瞬の亀裂を生じさせた
【貸技仲介、天使の白翼】
『感情安定』を貸与
『精神防壁』を貸与
『分解耐性』を貸与
白龍の目から血液が涙の様に垂れたことでブローカーは満を持して、渾身の【貸技仲介】【天使の白翼】が展開された。白龍を巻き込んだそれは外にいたアルトラ達にも届く程の広域かつ出力の限界を無視した癒しを与える代物だった
◆
「…っ、ぐぁ!」
眩い癒しの直後にマージが受けた激痛は白龍からの攻撃だった。しかし、先程までの実直かつ直線的な物ではなく出鱈目でいて何処か苦しげなものを感じさせる───のたうち回っている結果の産物だった
「何が…」
【『感情安定』を貸与
『精神防壁』を貸与
『分解耐性』を貸与しています】
「…え?」
【現在白龍は〈人格崩壊〉を擬似的に
起こしています】
「それってつまりどういうことですか?」
【〈演算〉に問題がなければ
高い再生力を互いにぶつけ合い
迷宮の魔力を浪費
迷宮攻略を擬似的に再現】
「それって…」
【迷宮が崩壊する条件を再現しました】
「無法ですね。!それなら」
【白龍の再生力あっての芸当です】
「そう上手くはいきませんか」
◆
【申し訳ありません】
「背嚢と比べれば訳ないので
気にしないでください」
先の戦闘の疲労と最後の出力限界まで行使した反動によりブローカーは疲労困憊によりその身体を動かすことができなくなっていた。マージはそれを背負い迷宮の脱出の手立てを考えていた
未曾有の迷宮攻略により、どんな問題が生じるか不明な最中でマージは迷宮の最奥に気配を感じて立ち止まった
【どうしましたか】
「まだ、何かいる」
共食いにより肉塊と化した白龍の傍を抜け、迷宮の最奥へとマージとブローカーは向かった。白龍と比べ遥かに小さいものの何か異質なモノがいるのを感じていた
「罠かな、でも」
【『予兆』には何も反応がありませんね】
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広間の奥へと歩を進めると、迷宮攻略時に似た冷気が立ち込める空間に出た。しんと静まり返ったその奥に隠されるように置いてあったのは、氷に閉ざされた光沢のある白い球状の物体だった
「宝石?じゃないですね」
【そう、ですね】
「高く売れるでしょうか?」
【マージ】
「どうしました?ブローカーさん」
【ありがとうございます。夢見心地でした】
「それはどういう…」
「スゥ…スゥ…」
「ブローカーさん?」
背中に感じる心拍と呼吸音からマージは〈その人〉が寝たことに気がついた
「…あんなことがあったし仕方ないか」
マージは氷塊を眺めた。身を震わせる程の冷気に晒されている卵。どれ程の生命力を有していようとも温められていない卵の末路は悲しきことに〈死〉へと帰結することが通りなのだが、不思議なことにマージが見つめる先のそれには今尚既視感のある威圧感を放っていた
「あの白龍の卵かな」
マージは氷塊に背を向けると脱出の準備を改めて始めた。規模が大きくなるにつれ、迷宮攻略後の崩壊までの時間が不明な中で得体の知れないものに構っている余裕は毛ほどもなかった




