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第9話 【攻略対象:黄】の悩みと、【攻略対象:緑】の事情

 期末試験が終わって夏休みまであとわずかとなった。


 生徒会の業務は放課後に行われる。


 放課後にアマレロと一緒に生徒会室へ向かい、そこでお兄様達と生徒会業務を行うのがわたしの日常だった。


 だからここ最近アマレロの様子がおかしいことに気がつけたのだと思う。


 彼は心ここにあらずといった感じで、思い詰めた顔でため息ばかりついていた。


 ゲームの登場人物達にはなるべく関わらないようにしようと思っていたけれど、そんなアマレロを見ていたら、どうにも気になってしまった。


 今日はまだお兄様達が来ていない。

 少しだけなら話を聞いてみても良いかもしれない。


 わたしは思い切ってアマレロに聞いてみることにした。


「フラーウムさん、最近思い詰めた顔をされていますが、どうかされたのですか?」

「フルウム子爵令嬢……いえ、なんでもありません」

「なんでもないようには見えませんが」


 じっと見つめるわたしの視線に耐えかねたらしいアマレロが口を開いた。


「…………実は、秋学期の学費を工面できなくて、学園を辞めざるを得ないかもしれないのです」


 そして彼は、詳しい事情を話してくれた。



 ♢♢♢



 アマレロは薬草を主力に取り扱うフラーウム商会の次男だという。


 ここ数年、品種改良や天候に恵まれたおかげで薬草が大豊作だった。

 1年だけならまだしも、それが数年続いたため在庫過剰により、薬草とそれを用いて作られる医薬品の価格が大幅に崩れてしまった。

 薬草は長期保存ができないので、在庫を残して出荷量を調整することもできない。

 医薬品にも使用期限がある。

 そんな中、今年も薬草は大豊作で、遂にほとんど値段がつかない状態になってしまったという。

 アマレロの実家のような商家はもちろん、薬草の生産を生業にする領地も大きな打撃を受けているという。


 彼の話を聞いて、「薬草の生産を生業にする領地」という言葉が、わたしの中のゲームの記憶と今世で得た知識に引っかかった。


 イメージカラー緑の攻略対象のヴェルデ・ウィリディス先生の実家、ウィリディス子爵領の主力産業が薬草だったはずだ。


 だからゲームのウィリディス先生は家から縁談を強制されたのかと納得がいった。


 資金繰りのためだったのだ。


 ゲームのウィリディス先生は家から裕福な侯爵家の令嬢との縁談を強制される。


 ウィリディス先生の攻略に失敗すると彼は家のために侯爵令嬢と結婚してしまいバッドエンドに。


 攻略に成功すると、ヒロインと駆け落ちする。そして隣国で倹しく生活を送るという、ハッピーエンドですらなんともビターなラストだった。



 ♢♢♢



「我が家は大きな商会ではないので、販路も多くはありません。今までずっと平民向けに薬草を主力に扱ってきたので急に他の商品を売るのも難しい。手詰まりなのです」


 アマレロはそう言って肩を落とした。


「フルウム子爵令嬢、短い間でしたがありがとうございました」


 アマレロはそう言って淋しげに微笑んだ。


 ゲームの中にアマレロが退学になる展開はなかったはずだ。


 一体なぜゲームと違う展開になったのだろう?


 脳内でゲームと現実との相違点を探したわたしは、あることに気がついた。


 ゲームのアマレロは特待生だった。


 入学試験に首席で合格した者は学費が全額免除される特待生になれる。

 だからゲームでは家業が傾いても学園に通えたのだ。


 けれども、現実ではわたしが首席を取ってしまったので、アマレロは特待生になれなかった。


 わたしがゲームのストーリーを歪めてしまったせいだ。


 そのせいで1人の人生を変えてしまうかもしれない。


 なんとかしなければ。


 アマレロが学園を続けるためには、彼の実家の主力商品である薬草が売れれば良いわけだ。


 それなら、なんとかなるかもしれない。


「諦めるのはまだ早いです。販路が少なければ増やせば良いのです。平民向けにご商売されてきたのなら、貴族相手に販路を開拓する余地があるのでは?」

「ですが、我が家には貴族の方々との伝手がありません。それにたとえ伝手があったとしても、貴族の方々は薬草など求められはしないでしょう」


 確かに平民が貴族との伝手を得るのはよほどの事情がない限り不可能だ。基本的に貴族は平民など相手にしない。


「伝手なら最高のものがあります。それに薬草のニーズがなければ作れば良いのです。つきましては、今日このあとフラーウムさんのご実家の商会へ伺ってもよろしいですか? 購入したいものがあるのです」


 生徒会業務を終えたわたしは、フルウム子爵家の馬車でアマレロと一緒に彼の実家のフラーウム商会へ行った。


 フラーウム商会で商品の薬草を見せてもらったわたしは、自分の予想が当たっていたことを知った。


 この世界で薬草と呼ばれるものは、前世でハーブと呼ばれており、名前も効能も同じだった。


 わたしはペパーミント、カモミール、ローズヒップ、ローズマリー、バジルといった、前世の有名どころでクセの少ない味のものをいくつか本来の価格で購入した。


「これを使って明日、生徒会でプレゼンします!」


 そう意気込むわたしを見て、アマレロは困惑した表情を浮かべていた。

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