第13話 誕生日の贈り物と、学園祭
「リディアは後夜祭のドレスはもう決めた?」
もやは恒例になりつつあるフルウム子爵家での週末のお茶会で、お兄様はわたしに尋ねられた。
「いえ、まだですが、手持ちの中から選ぼうと思ってるので近くなってから決めようかと」
うちのような下級貴族では催事ごとにドレスを新調するような余裕はないので、少し手を加えて着回すのが普通だ。
「そっか。リディアはもうすぐ誕生日だろう? 僕から後夜祭用のドレスを贈りたいんだけど、もらってくれる?」
「え!?」
予想外のお兄様の提案にわたしは驚いた。
後夜祭用のドレスはゲームにおいて非常に重要なアイテムだ。
後夜祭までに複数のイベントをクリアしていて、複数人からドレスを贈られた場合、ここで選んだドレスの贈り主のルートに入ることになるからだ。
そんな重要なものをモブのわたしがいただいてもいいのだろうか?
「あの、お兄様、大変ありがたいのですが、他にドレスを贈るべき方がいらっしゃるのではないですか?」
主にヒロインとか。ヒロインとか。
言外にそう伝えてみたけれど、お兄様は不思議そうに首を傾げた。
「いや、リディア以外にいないよ? それとも僕からドレスを贈られるのは困る?」
淋しげなお兄様の顔に慌てて否定する。
「いえ、そんなことはないです! ただ、あまりにも高価な贈り物なので気が引けてしまいまして……っ」
「気にしなくてもいいのに。それで、好きな色やデザインはある?」
「好きな色……そうですね、青や緑が好きです。デザインは華美でないものならなんでも」
「……! 青か。わかった。任せて」
お兄様は嬉しそうに微笑んだ。
なんだか上手く丸め込まれてしまったような気がするけれど、経済的にはもの凄く助かるので、ありがたくお言葉に甘えさせてもらうおう。
「すみません、ありがとうございます」
「気にしないで。エスコートも僕で良いよね?」
「えっ」
「誰かと約束してた?」
「いえ、特には」
「じゃあ、僕に任せて。当日迎えに行くね」
なんだかすっかりお兄様のペースに巻き込まれてしまい、後夜祭はお兄様から贈られたドレスを着て、お兄様のエスコートで参加することが決まってしまった。
お兄様がわたしにドレスを贈られるということは、ヒロインはお兄様を攻略していないということになる。
皇太子殿下もヴァイオレットお姉様以外にドレスを贈られることはないだろうから違うとなると、残る可能性はアマレロかウィリディス先生のどちらかになる。
気になるけれど、後夜祭でヒロインのドレスの色を確認するまでは知る術がないから今は考えるのをよそう。
そう結論を出したわたしは、お兄様とのお茶会を楽しむことにした。
♢♢♢
それからもお兄様達やアマレロの側にヒロインが現れることはなかった。
わたしはヒロインの動向が気になりつつも、学園祭の準備で慌ただしい日々を過ごしていた。
クラスの研究発表の準備に加えて、生徒会では各クラスの発表内容をまとめたパンフレットやポスターの作成、後夜祭で供される軽食の内容の決定などやることが山積みだった。
ヒロインのことが気になりつつも、それらの対応に追われるうちに、あっという間に時間が過ぎていった。
そうして迎えた学園祭当日。
わたしは午前は教室でクラス発表の案内係、午後は生徒会の仕事として各教室の見回りをすることになっていた。
うちのクラスは今はやりの薬草をテーマに扱っているため、訪れる人が多い。
訪れた人に発表内容をまとめたリーフレットを渡したり、質問に答えたりと、中々忙しかった。
そろそろ交代の時間が近づいたお昼近く。
人波が落ち着いたので、一緒に案内係を務めるアマレロと談笑していると、ピンクの髪の生徒が入口から入ってくるのが目に入った。
ヒロインだ!
思わず固まってしまったわたしよりも早く、アマレロがヒロインにリーフレットを渡しに行く。
わたしは2人のやり取りを固唾を飲んで見守った。
「こちら、発表内容をまとめたリーフレットになります」
「ありがとうございます。最近薬草がはやってますよね」
「はい、最近新たな用途で用いられるようになったおかげです。フルウム子爵令嬢のご発案なんですよ」
「フルウム子爵令嬢……」
アマレロの言葉に、こちらを向いたヒロインと目が合った。
探られているかのような含みのある眼差しにどきりとしたけれども、それはほんの一瞬のことで、すぐにヒロインはアマレロとの会話に戻った。
そんなヒロインを見て、わたしは引っかかりを覚えた。
直接面識がないにもかかわらず、ヒロインはどうしてわたしがフルウム子爵令嬢だとわかったのだろう?
アマレロはわたしの名前を出しはしたけれど、こちらを指し示したりはしなかった。
ということは、ヒロインは最初からわたしの顔と名前を知っていたことになる。
首席を取ったり、生徒会役員をしていたりするので多少は目立っている自覚がある。
だからわたしのことを知っていてもおかしくはないのかもしれないけれども、なぜかやけに気になった。




