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夢を見る少女 二

 二人と接する時間が増えた。ユーリに覚えた既視感。あの日を境にしたせいか、違うのか、彼とエリザが二人で過ごしているのを見ているとそれが増した。それはただそれであるだけのものか、違うのか、思い出し結びつけようとすればするほどに恐怖を感じた。なのに、悪くはない。もうこのまま、この状態でも構わないんじゃないか。新しい国、旅の果て、道は用意されていたかのような。もう充分だ。もうなにも忘れていることなどない。記憶は混乱している。だから既視感を覚えるんだ。それでいい。どこか危うく、純粋な、この二人の姿を眺めているだけでいい。

 誰かが笑った気がした。



 ハタウ国境へたどり着いた逃散民達の中にニワカに信じがたいことを訴える者らがいた。彼の国では宗教裁判が頻繁に開かれていると。経済的な不安が臣民らを襲う中、猛威を振るう魔女探しはタルクザレにおいて国抜けは違法とされているにも関わらず彼らをより一層国境へと向かわせていた。

 カスペリは一行を彼の館にて出迎え、まずネイが来たことに苦虫を噛み潰すような表情をしてみせた。

「陛下は来られないのか。」

「陛下はご多忙を極められておりますので。それに陛下が来られるとなるとこのように少数で伺うわけにもいきません。」

 少数でなければ受け入れないといったのは貴様だろう、ネイは心の中で吐き捨てた。ネイはハンス邸において見せたような慇懃な態度を全く見せず、終始彼を睨むように会話を続けていた。

 ネイはカスペリを酷く嫌っていた。両国が争っていた時代をネイは直接知らない。しかしカスぺりがしつこく女王を狙った理由は分かる。確かにこの爺に比べればフーゴなど可愛いものだ。

 カスペリは会話を続けながらイサイに気付き、更に顔を険しくさせた。カスペリの隣に立つ若い男になにかを囁く。

 その男は伺い立てた後続けてイサイを見た。終始温和な表情を浮かべる男の腰にはマーブの聖印を象った剣が提げられている。

「そちらは?」

「失礼致しました。私のことはガーダマとお呼びください。閣下の下で政治顧問を務めております。」

 彼はネイに握手を求め、彼女は不審さを隠さずそれを受ける。なぜ文官が衛士のように、しかもこのような芝居の小道具じみた剣を提げているのか。ここでは馬鹿かなにかが政治顧問を務められるのか。

「国内の案内は彼が務める。陛下によしなにな。」

 タルクザレを廻る表面上の理由は援助であった。逃散民を受け入れるハタウに対し再三カスペリは引き渡しを要求してきた。しかしハタウでは人の行き交いは自由であり、そして逃散するに至った人々を戻したところで生活の基盤がないはずで、ハタウでならばそれを用意できると保護を名目に要求をはねつけていた。それでも引き渡しを求めるカスペリに対し、ならばその根本原因を解決するため経済不振を改善する為の援助を提案したのだった。そして今回はその下見という名目だった。

 すぐにネイら四人は馬車に乗り国内を見て回った。ハタウとは違い舗装された道は少なく、酷く馬車の乗り心地は悪い。そして確かにハタウと比べ民の生活は貧しく見えた。田園地帯には小作農民の家だろうか、集落から外れ、石を積み上げただけのような貧相な家が数多く見受けられた。 更に不思議な光景が見受けられた。ある小作農民の家の前で女が麦を手臼で挽いていた。

「あれは何をしている?」

 思わずネイは聞いた。ガーダマは質問の意図を理解しかね、あれだと指差す先を見た後笑う。

「あれは麦を挽いているのです。パンを作る為の粉作りです。」

「そうではない。なぜパンを作る為に一々、しかも手臼などで麦を挽く。皆あのようなことをしているのか?」

 小馬鹿にした笑いだと受け取ったネイはガーダマを睨みながら言う。ガーダマは少女にあらざるその表情に戸惑いながらも、その発言の意図がまだつかめていないようだった。

「あれは恐らく寡婦カフが請負賃を得て行う仕事です。悲しい光景にも見えるようですが、あのような仕事でも得られるだけ彼女は幸いと感じ神に感謝を思うべきです。そして人に同情を受けるイワレれはきっと彼女にはありません。だから私も悲しい光景だとは思いません。」

「待て、では彼女は製粉場で粉を挽く以下の手間賃を得てあれをしているのか?」

「そのようなことはありません。そのような人を機械以下の存在に押し込める、神の教えにモトるようなことは決して見逃しません。それでは彼女の生活が立ち行きませんし、しかしあの仕事をしているということは恐らく戦災で夫を亡くしたのでしょう。であれば僅かばかりではありますが増給された恩給が教会から出ています。しかし恩給を享受するのみで食べていくなどとそれこそ神の教えに悖る道と言うべくありませんし、そもそも教会の恩給制度というのは・・・」

「待て、それはまたどうしてだ?では逆にあれを依頼する者は製粉場で粉を挽く以上の手間賃を払っているわけか?意味が分からない。なぜあのようなことが起こっている。」

 ガーダマは更に戸惑った。最初の質問を聞いた時、女王の側近中の側近である彼女とは言え所詮まだ世間も知らない少女でしかない、そう女王の悪趣味を思わずにいられなかった。しかしそうではなく、少女の発言の意図はどうやらそんなところではないということは理解し始めてきたのだが、どこから彼女に説明するべきか悩んだ。

 会話の最中、更にネイは理解のできない光景を目にした。男や女達が集団で小川で亜麻を水に晒しつつ叩いている。先程の寡婦と呼ばれた女よりも更に貧相な身なりの男女達は、疲れた表情で堤防の道を走る前後を騎兵に挟まれた馬車を見上げた。

「あれはまたなんだ?」

「あれは、亜麻を叩いて・・・」

「何度も同じことを言わせるな。亜麻を叩き繊維を取り糸を紡ぐ材料を生産している現場、とでも言いたいのか。」

 ハタウでは農民が、いや幾ら貧困層であれあのようにパンを食べる為に寡婦に粉挽きの依頼などしないし寡婦はそんな仕事は受けない。亜麻から糸を紡ぐ為に人が小川で亜麻を叩いたりしない。全て機械が行う。あのような無駄な労働力があるのならば、小作農民を減らす為に少しでも土地を開拓させ、それに融資してやればいい。

 ハタウであれば農民がパンを必要とした時製粉場から運ばれる粉からパンを作るパン屋からパンを買う。布や紐を織る為糸が必要なのであれば製糸工場で機械が叩く糸を買う。幾ら貧困層であれ、人が機械の代わりに動いたところで得られる成果は知れたもので、それから察すれば得られる報酬などたかが知れているなんていうものではない。

 ガーダマは返答に詰まり、やがてネイが欲しい答えとは関係の無さそうな恩給制度の話を始めた。熱心に少女に事を教えるガーダマを無視し、ネイは馬車の外の小川沿いの風景を眺める。やがてネイはあることに気付いた。

「ガーダマ、なぜ機械がない。」

 ガーダマは懇切丁寧に説明していたのだが、それを受け入れるどころかなんの配慮もなく話を折るネイに苛々が募り始めていた。そもそも少女が大人の男にこのような口を利くのが悖っている。所詮はあの女王の悪趣味の産物であるのだろう。

「機械は人から仕事を奪います。なるほど機械に任せれば彼彼女らのような存在は必要なくなります。しかしそうあれば彼彼女らのような存在は誰が救うのです?その日食うや食わずで明日の食に恐れる日々、私は恥ずかしいながらそのような日々を送ったことはありませんが、しかし想像はつきます。本当に恐ろしいことです。ですから教会の恩給制度というものは・・・」

「つまり機械をどうしたのだ。」

 このように治水が施された小川沿い、水車を設置するに最適である。なのに水車駆動で動く機械が一つもない。

 話をどこまでも聞かない少女にガーダマはとうとう温和な表情を無くした。道理に悖る存在はどんなに立場が上であろうとも敬うに値はしない。

「機械は撤去致しました。暴挙と仰るかもしれませんが、その理由は決して乱暴なものではありません。彼彼女らのような存在に、明日のパンを与える為に行ったのです。お国では彼彼女らのような存在をお見捨てになられるのですか?」

 一々、話が長く、主旨からも逸れる奴だ。

 ネイ様、思わずベアトリーゼは声を掛けた。彼女は顔をピクリと引きつらせ、更には顎先をあげて相手を見下ろすように視線を送っていた。こういう時ネイは明らかに気分が害されている状態で、そしてこのような時ネイはなにをするか分からない、個人的にベアトリーゼは思っていた。 

「なんだ。」

 語気荒くネイは返事する。その様子に怯える心を隠しながらもベアトリーゼはこれも忠義だと精神を保つ。

「気にかかることが多数あるようなのでそろそろ馬車を降り直接地勢を目で確かめられた方が良いのではありませんか?」

 ムッ、言われてネイは沸騰する怒りを彼女が鎮めようとしていると同時に最もなことを言ってくれたのだと理解した。このような会話の最中にも馬車は進み、畦道に近いこの道では馬車は反転できそうにもなく、あれらの光景が全て過ぎ去る前にどこかで降りて人々の話を聞いてみなければ。そもそも視察だけが目的ではないのだ。どこかでそれらしき情報を掴まなければいけない。

「それはいけません。」

「どうしてだ。」

「ネイ様に対し危害を加える不埒な者がいれば、私どもは陛下のお怒りを買います。そうなれば今回のような・・・」

「私が怪我したくらいで陛下は貴様達に矛先を向けるほど短気なお方ではない。」

 貴様、言葉を遮り放った言葉。もう公人に対する言葉使いじゃなくなってきてるな、ユーリは成り行きを見ながら思った。

「怪我だけで済めば、もしお命を落とされるようなことがあれば私どもはどうすればよろしいのでしょう。」

「誰が私の命を狙うというのだ。」

「それはわかりません故に不埒な者、という表現をしたのです。私は別段ネイ様に対し・・・」

「表現の話などどうでもいい!私は・・・!」

 ネイ様!再度ベアトリーゼが彼女に声を掛ける。

「今度はなんだっ!」

 少女の目が爛々と光を放ちながらベアトリーゼを捉えた。

「いっ、いえっ・・・」

 思わずベアトリーゼは発言を撤回した。


 その日は終始ネイとガーダマは噛み合わない会話を続け、下級士官なりにもネイを補佐する立場であらねばならないベアトリーゼは胃を悩まし続けた。

 夜、明らかにネイは不機嫌だった。今日は結局ガーダマの説法に近いような説明に振り回され、本来の目的を全くと言っていいほど達せなかった。

「しかし魔女狩りなんて本当にあるのでしょうか?ただの逃散民達の逃散の最中で生まれた噂なのでは。」

 焦燥を隠し切れない顔でベアトリーゼは意見した。

「ないならばないでいい。それならばないとはっきり言える報告をしなければならないだけだ。」

 魔女狩りの証拠を探す。それが今回の一行の本来の目的であった。これは実質ハンスの組織する女王の私軍による仕事でもあった。幸か不幸かユーリは半ば強引にその組織に参加させられたようなものだったのだとハンスと会話した晩に知った。ネイの光栄に思え、という言葉は彼女にとってはそのような意味だったのだ。ただ、それをまだ承知したわけではないのだが。

 幾ら構成国間は内政に不干渉といえど、連邦国に住む民は全ては臣民であり、臣民らの生命を保証する義務が女王にはあった。魔女狩りなどという前時代的と呼ぶしかない暴挙を見逃せばまさしくそれに違反する。これは連邦の、少なくともハタウによるタルクザレに対する武力行使の口実ともなりえた。

 ベアトリーゼは溜息をつきながらネイを除いた三人を連れ立って彼女の部屋から出た。

 この視察の護衛役にベアトリーゼが名指しで指名された際、近衛衛士長は殊の外彼女にネイの性質を説き彼女を励ました。衛士長のネイ恐怖症は衛士達の中でも有名で、公の場でのネイの姿しか知らない衛士などは影で衛士長を嘲笑したものだった。かつてのベアトリーゼですらそれに近い感情を持っていた。

「いいかベアトリーゼ。お前ももう優秀な衛士と呼べる。これからこのような機会も増えていくだろう。だからこれだけはよく覚えておけ。・・・ネイ様は恐ろしいくらいに勘が鋭い。私は度々冷や汗を掻かされている。心の隅にでも我が王やネイ様に対し忠誠を疑われるようなことを思うな。いや感じるな。衛士たるもの当然のことなのだがな。そして隠し事はするな。お前は元から器用ではないから隠し事をする性格ではないだろうが、それでもあえて言っておく。分かったな。」

 鬼の衛士長とも呼ばれる衛士長はいかつい体とでかい顔を近付けて彼女に真剣に言った。そんな中年の男性が猫のようにも思えるくらい小さく見えた。

「それでも中尉は少しばかり、その、怯えすぎなのでは?」

 ベアトリーゼからそのような話を聞いてもどうもしっくりとこない。ユーリからすれば馬車の中でエリザの手前や、そんなことを思う気分ではなかったからなんとなく平静を保っていたが、可憐さと凛々しさを併せ持ち常に女王の傍に立つ彼女の姿は憧憬そのもので、士官学校時代はゲルティなどとよくそのことを話題にしたものだった。確かに激烈な態度、話し方には少なからず衝撃を受けたが。

「ふん、今に少尉にも分かる。」

 少尉、そう呼ばれることにユーリは慣れていない。嬉しいと思うべきなのだろうが、まだ半人前以下の自分にとてもそう思えない自分を複雑に思った。

「お前なら分かるだろ。」

 ベアトリーゼはイサイに話を振る。イサイは彼女を見る。

「どうしてだ?」

 どうしてって、ベアトリーゼは一度ユーリを見た。少尉はこの話を知らないのだろうか?

「なんだ、その、議会で殴られただろ。ネイ様に。」

 しかも鉄甲を着た拳で。

 そんなこともあったな、それを聞いて驚くユーリを前にして、イサイは平然と返事した。


 次の日は都市部を回った。タルクザレの首都スウェルドロフスには多くの繊維業のギルドや企業があり、織物や製糸が盛んな地域であった。しかしギルドや企業の建屋が並ぶ大通りに人気ヒトケは少なく、市内に建つ塔が影を落としより陰鬱な姿に見せていた。路頭には職にあぶれたのか手持ち無沙汰でうろつく人々が見え、中には酒瓶を持ちふらつく者までいる。繊維業は最もエスローム製品の被害を受けた業界であった。

 酷い光景ではあるが昨日の説明ではある種当たり前だ、ネイは今度はこの国に対する苛々を募らせる。結果更にしわ寄せがいくのだ。アイシャ様に。

 ガーダマの言い分はある種で正しい。新しい技術、農法、経済、全ては庶民の生活を混乱に落とし込む。それによって新しい生活を得る者がいる一方で、それまでの生活が破綻する者も生まれる。しかしそこまでを見越してパンを提供するのが施政だ。ガーダマの言う施政は怠慢の結果の施政でしかない。要するに施政側に革新に対応する能力がないからツケを臣民に背負わしているのだ。

 ガーダマは何度も恩給制度について、いや終始それだけを語りたがった。その思想自体はハタウでも取り入れるべきかもしれない。それだけにその一見慈悲深い制度を編み出した自分を得意に感じているガーダマと余計に話が噛み合わない。

 恩給制度は生活が破綻したものに対しまず無条件で衣食住を提供し、対価に労働を求める。しかし根本を解決しないために労働のパイが少なく、破綻者全員に無理やりにでも労働を提供しようとした結果より効率の良い労働を潰していったのだ。

 自作農民の土地に小作農民を住まわせ彼らに鍬や鋤を振るわせ一頭曳きの牛鋤で細々とやるくらいであれば、資本家に彼らの農場を買わせ、自作農民には得た資本で更に大きな土地を購入させて新たに土地を開拓させ、小作農民にはより大規模になった農場で六頭曳きの馬鋤を用いてより広範囲に農場を耕せさせる方が小作農民達もより豊かさを享受出来るというものだろう。

 しかし効率化された農場では現状よりも労働力は省人化され、恐らく半数以上の小作農民は路頭に迷いあのみすぼらしい小屋からすらも追い出されることだろう。それらを一時的に救済する為に恩給制度のようなものがある、というのであれば新しい生活の場を築くまでに潰れてしまう人を減らせるのかもしれず良い案であるのかもしれない。

「しかし金はどうする。」

 ガーダマの説明を無視し一人考え込みぶつぶつと呟くネイの隣でベアトリーゼはそわそわと落ち着きなく座っている。二人の一方的な会話に挟まれている彼女が段々と不憫にさえ思えてきた。

 ガーダマは昨日と違い反論してこないネイに満足を得ながら得意気に自説を展開していたのだが、ふいに馬車の外の景色に目をやり馬車を止めさせ呼びつけた従者に何事か囁いた。その従者は周囲の騎兵に指示を下し、馬から降りた兵らは酒に酔い歩いていた男達をおもむろに殴りつけ、そのまま男達を引きずるようにどこかへと連れて行った。ネイは思わず抗議の声をあげる。

「教会の戒律を破り昼間から酒を飲み酔い潰れるなど許されない行為です。御国ではあれが当然なのですか?」

 ハタウでも勿論戒律に触れる。だが白い目で見られる程度だろう。

「彼らはどこへ連れて行かれるのだ。」

「教会ですよ。神に懺悔させ悔い改めさせるのです。乱暴なように見えますが教会であのようなことをさせるわけにもいきません。」

 分からない話でもない。ネイ自身あのような人種は殴りたくなる。このようなマーブの教えに酔いしれた者なら尚更であろう。しかし、いい加減この男に付き合っていてはこのままロクな報告ができないだろう。それにしても教会、か。

「ユーリ、そういえばあの小娘はどうした。」

 その容貌のネイが小娘と言うと違和感があったが、それを態度に示せばベアトリーゼから聞いている通りであれば恐ろしいことになりそうだ。

「は、エリザでしたらカスペリ殿の館に待機しているはずです。なんでも家が山間部にあるとかで馬車を手配しているそうです。」

「エリザというと、あの可憐な修道女のことですか?」

 ネイの思惑通り信心深いガーダマは食いついてきた。ユーリは彼に求められ、エリザのことを説明した。

「なるほどそれはいけません。あの地方は嘆かわしいことに道中治安がよろしくないのです。あのようなか弱いご婦人一人で向かわせるのは不安が生じるというもの。私の手の内の者を随行させましょう。」

「いや、それならばこのユーリを向かわせよう。若いがこれでも近衛衛士、それに彼女も見知らぬ男性にエスコートされるよりは親交のある少尉にそうされた方が安心するだろう。」

 そう言うとネイはユーリを見た。その目は睨むようであったが、明らかに目配せであった。貴様、しっかりと任務を遂行しろ、と。

 ガーダマは少し考えたが同意した。幾ら近衛の衛士とはいえこのような未熟な士官、それも少年がなにかするとも思えず、昨日のようにヘタにネイの意見を否定し不信感を煽ることもない。

 ネイは今回の人選に甚だ不満であった。ベアトリーゼはいい。女王に対する忠誠ぶりには好感を持っていたし、腕も立ち護衛には最適だ。しかし幾ら私軍の人材が足りていないからといって新米少尉と、よりにもよってあのイサイを選ぶとは。しかしさすがアイシャ様、このように半人前以下の少尉が役に立つこともあるとは思いもよらなかった。

 次の日一行は鉱山へと向かい、ユーリは別の馬車でエリザとともに彼女の生家へと向かった。妙なことは続くものだ。昨夜エリザはせっかくこの国に来たのだからユーリに彼女の家へ遊びに来て欲しいと言っていた。思いの外それが早く実現することとなったためか彼女は嬉しそうにしていたが、さすがにユーリは複雑だった。これが軍人らしい仕事と言えるのだろうか。



 連日、妙な夢を見ていた。

 今日は見渡す限りの草原。空はどこまでも高く晴れあがっているのに、しかし草原は水没している。

 その水の上で自身は浮いていて、自身に伸し掛かるように誰かが顔を覗き込んでいた。しかし太陽が眩しくて顔が影に隠れて見えない。

「貴様は・・・どういうことだ?」

 誰かが言う。イサイも聞いた。誰だ、お前は。しかしその影は言う。答えろ、と。

 イサイは草原を見渡した。どこかで見た景色だ。しかし思い出せない。水は透けて水中の草が柔らかく揺れているのが見え、水面は光を反射して眩く世界は輝いていた。とても居心地が良かった。そうだ。どうせ夢であるならばこのままここでずっと、こうしていたい。

 考えたことは影に直に伝わり、影は周囲の景色を変えた。どこかの洞窟の中だ。

 考えるよりも早く、感じるのよりも早くイサイは激しく抵抗した。しかし影は更に重く彼に伸し掛かり、そっと彼の頬に触れようとした。

 やめろ!

 叫んだがその声は声にならない。恐怖は洞窟の中で揺れる焔のように渦を巻いて彼の体奥深くまで浸透し、手足の感覚がなくなるほどに冷たく鈍い。

 やめろやめろやめろやめろ!やめてくれっ!

 

 薄く、悪夢から醒める。暗い部屋、確かに誰かが覗き込んでいる。闇の中、微かに輝くその色、金瞳。


誠に勝手ながら更新ペースが保てそうにないため今後不定期更新致します。

更新回数は週に2回~3回で考えております。

投稿時間は朝6時、もしくは夕方6時と考えております。

今後ともよろしくお願い致します。

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