一章三節 - 選抜
「あぁ、絡柳は同行させちゃダメなの?」
大斗は皆が内心で思っていることを知ってか知らずか、自分や乱舞と親しい青年文官の名前を出した。
「絡柳には別件を任せてある」
誰に何を言われても調子の変わらない大斗に、乱舞がため息まじりに言う。
ちなみに、比呼は「そこのチビ」と言われたことに衝撃を受けていた。比呼の背はいたって平均的。大斗が高いからそう見えるにすぎない。
「大斗先輩は性格に難がありますからね~……」
与羽の小さな呟きに、ここに集まったほとんどすべての人々が内心でうなずいた。
しかしこんな大斗だが、相当腕がたつ。与羽や乱舞と同世代の人々で競えば、大斗が一番強いだろう。多くの人は彼の強さと強面のために、必要最低限関わろうともしない。
若干名、大斗に気に入られ、関わらざるを得なくなった人々もいないではないが……。
彼だけでなく、ここにいる人のほとんどが、その強さを知られていた。
大柄で力自慢の雷乱。長刀の扱いならば右に出るものはいない長刀姫こと華奈。
神官の少年――津希以外は、みな武術の心得がある。
元暗殺者の比呼も言うに及ばず。辰海も一通り剣の扱いを叩き込まれてきた。実戦経験は乏しいが、腕は確かだ。
今回は護衛任務が中心になることが予想されるので、腕のたつものを主に集めている。
「先輩よりも優秀なら、千斗を連れて行きたいですね」
もともと与羽がこの場に呼ぼうとしたのは、千斗の方。
しかし、乱舞の親友で、武官二位と言うかなり上位に位置する官位から、気付いてみると大斗がこの場にいた。
「千斗は棄権だよ。『面倒い。兄貴行ってきて』ってさ」
「それにね、与羽」
乱舞がむすっとした与羽をなだめるように言う。
「今回は君の護衛というだけじゃなくて、じいちゃんの護衛でもあるんだ。大斗は僕と一緒に、城でじいちゃんに遊んでもらったこともあるし、じいちゃんにとって、大斗はもう一人の孫みたいなもんなんだよ」
「それなら、辰海や津希もおる」
与羽は自分の左にいる辰海と、前の方にいる神官を指した。
「でも、一番強いのは俺だよ? 明神にいたっては――」
大斗が神官の明神津希を見る。それだけで、津希はひるんでしまって「ひっ」と短く声を上げた。
「三歳児にも負ける」
氷のように冷たい声で言う。
「それじゃあ大斗は、自分と辰海君あたりを護衛につけろと言ってるわけだ?」
乱舞がそう確認する。
「そういうことになるね。まぁ、古狐もいらないけど、天駆領主にあいさつするんなら、文官もいた方が良いだろう? たとえ下級文官でもさ。『古狐』って中州の文官筆頭家の名前があれば、問題ないんじゃないかな。絡柳がいれば最高だったけどね」
辰海は相当失礼な言葉を聞いた気がしたが、不快感をわずかに出すだけで何も言わない。彼も津希同様、大斗が苦手だった。
しかも、彼が先ほどから頻繁に名前を出す絡柳は、二十歳すぎで文官五位の大臣になったという、非常に優秀な青年だ。
「文官筆頭家長男」という肩書以外、勝てる要素がない。