一章四節 - 二人の同行者
「……まだ、華奈さんがおる」
与羽は呟いた。
「あたしは遠慮しとくわ。九鬼大斗と一緒に旅なんて――、考えただけで鳥肌が立つ」
華奈は大斗側の左腕をこすりながら、言い放つ。
「ひどいな、華奈。俺は別にお前とだっていいよ?」
またもや甘い声で言う大斗。手を伸ばして、華奈の長い黒髪に触ろうとした。
しかし、それよりも速く華奈は無言で脇に置いていた長刀を手に取る。
彼女の右隣に座っていた津希が、急な動きに怯える中、次の瞬間には、長刀の鋭く輝く切っ先が大斗に突きつけられていた。
大斗の手がぴたりと止まる。
「あたしに触ったら、その指、切り落としてくれるわ!」
華奈にそうすごまれて、大斗はあっさりあきらめた。さほど期待していなかったのだろう。
「だそうだよ」
大斗はすっと真顔に戻って、中州城主――乱舞に最終決定を求める。
「それなら、同行者は大斗と辰海くん。――いいね?」
「かまわないよ」と大斗は澄まして言い、辰海は見るからにうれしそうに、「はい!」と答えた。
「じゃあ、大斗と辰海くん以外は退出していいよ」
乱舞はねぎらうように、極上の笑みを浮かべて一人一人を見渡す。
「ご苦労さま」
「ありがと、皆」
与羽も口のはしを釣り上げて、ねぎらいの言葉を言った。
中州兄妹が姿勢を正して軽く一礼したのを合図に、退出する人の中では最も身分が高い神官の津希が、退出の挨拶をして立ち上がる。
その後、他の三人も口々に何か述べ、戸口へ向かう。
「比呼、雷乱」
与羽は最後に退出していく自分の臣下に声をかけた。
比呼が何事かと振り返り、雷乱は目だけ与羽に向ける。
「私に、恥をかかすなよ」
つまり、比呼に中州を裏切るようなことをするなと言い、雷乱にはもし比呼がそのような道に走りそうになったらちゃんと止めろと命じたのだ。
「うん」
「あたりめぇだ」
二人はそれぞれ笑みを浮かべて、そう応えた。
* * *
その後、乱舞を中心として詳しい日取りや道のりを決め、宿の手配などをする。特に辰海は五年前、天駆に行ったことがあり、計画を立てるのに役立った。
剣術はあまり得意でなくとも、文官筆頭古狐家の長男たる能力は備えているのだ。記憶力も知識量も申し分ない。
それにもかかわらず、彼の文官としての順位は低かった。彼がいなくても新年度に向けての会議や視察に支障がない程度には――。
自分の身分を犠牲にしても、辰海には守りたいものがあるのだ。そして、その「彼女」が関係する時の彼の能力は限りない。
大斗が皮肉を言う隙もなく話がまとまり、天駆にそちらに行くという旨を伝える馬を出す。数日後に来るであろう天駆側からの了解の書簡を受け取れば、準備万端だ。
あとは各々荷造りと、城下町を離れている間の仕事の引継ぎや軽い別れのあいさつ。それが終われば、出発を待つだけだ。




