一章二節 - 車座会議
内心ほっとしながら、与羽は兄を見上げた。乱舞もちらりと与羽を見て、誰かが発言するのを待つ。
「僕は、中州に来て日が浅いので、棄権させていただきます」
まずは比呼が控えめに言った。彼は、この秋に敵国――華金から、暗殺者として中州にやってきたところを、与羽に説得されて中州に居ついたという変り種だ。
「もちろん、僕をこっちに残して行くのが不安なら、喜んでついて行くけど……」
「残すことに不安はないけど、他の人がどう思うか分からんよね」
与羽は、抱えて座った右足のつま先を見ながら言う。
「連れて行っても同じ。いい機会と思って、私や舞行じいちゃんを殺すかも――、って中州の人が思う可能性もある」
ふっと自嘲気味に笑って、与羽は上目遣いに比呼を見た。
「あんたの言は通す。同行者から、比呼は除外しょう」
与羽の隣で、乱舞がほっと息をつくのが誰の目にも分かった。彼も比呼の同行には不安があったらしい。温和な顔をしつつも、やはり一国の領主。その顔の裏には思慮深い面も持ち合わせている。
そして、乱舞が口を開いた。
「――となると、与羽に代わる比呼君の世話役が必要だね」
もっと直接的に言えば、『比呼の監視役』だ。
わざと回りくどい言い方をした乱舞に、気を遣われていると悟った比呼は微苦笑した。
「私としては、比呼には凪ちゃんとこに住んでもらって、大斗先輩にたまに様子を見に行ってもらう、ってのが最善だと思ったけど――? 家近いし」
そういうことを既に考えていたところを見るに、比呼をここに呼んでおいて、与羽も彼が同行者になる可能性はかなり低いと思っていたようだ。
比呼の苦笑がさらに深くなる。
「それはダメだな、与羽」
場に合わない、低く甘い声でそう言ったのは、乱舞の隣に座る大斗。
「俺はお前と一緒に行く気満々なのに――」
「……大斗、逢引に誘ってるわけじゃないんだから……」
そう言い、隣の大斗を肘でつつく乱舞だったが、彼の声にはあきらめの響きが宿っている。
それでも与羽は、反論した。
「大斗先輩は家業が忙しいんじゃないですか?」
彼の実家は鍛冶屋。しかも、現在は母親の実家の家業である八百屋まで営んでいる。
「大丈夫だよ。親父もお袋も弟も元気だからね」
大斗は涼しい顔で即答した。
「冬は八百屋の仕事が減るし。俺がいなくたって何とでもなる。そこのチビの監視も、弟がやるさ。千斗は俺よりも優秀だしね」
それは、弟が優秀なのではなく、大斗に問題があるだけなのではないだろうか。
ほとんどの人がそう思ったが、懸命なことに誰も何も言わない。
少なくとも、千斗は大斗のように与羽を見かけては剣の稽古に誘ったり、甘い言葉でからかったりしない。無口で有名になるほど、黙々と仕事をこなしているのが、彼の弟――千斗だ。




