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空から始まる2度目の青春  作者: 紺野 翼


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寄り道


 マギア講習から、数日が過ぎたある日の放課後。


「なあ」


 校門を出たところで、アルトが声をかけた。


「今日、ちょっと寄り道してかね?」


「寄り道?」


 レンが振り返る。


「ああ。駅前の商業施設。最近できたんだよ」


「何があるの?」


「色々あるぞ。本屋とか、ゲーセンとか、カフェとか」


「へえ」


「魔法具店もあるし、服屋も食料品店もある」


「結構なんでもあるな」


「だから行こうぜ」


 アルトが笑う。


 ユナも頷いた。


「私も行ってみたい」


「フィーリアは?」


「うん。いいよ」


「じゃあ決まりだな」


 四人はマギアに乗り込んだ。


 数日前までは少し緊張していた操作も、今ではすっかり慣れている。


 魔鉱石が光り、車体がふわりと浮く。


 そのまま四人は、学校から少し離れた商業区画へ向かった。


 しばらく走ると、大きな建物が見えてきた。


「ここか」


「そうそう」


 アルトが減速する。


 建物の中には、いくつもの店が入っていた。


「本当に色々あるな」


「まずどこ行く?」


「本屋!」


 ユナが即答した。


「私は服も見たい」


「じゃあ本屋からな」


 アルトが笑う。


 そのまま四人は書店へ入った。


 広い店内には、本が所狭しと並んでいる。


 小説。


 雑誌。


 参考書。


 専門書。


 地図や旅行案内まである。


「……すごいな」


 レンは棚を眺めながら歩いていく。


 異世界の本屋。


 そう考えると、それだけで少し不思議な気分だった。


 けれど。


「……あ」


 一冊の本に目が止まる。


 表紙には、大きくタイトルが書かれていた。


『東方見聞録~日に照らされし大地と繁栄~』


「東方……」


 レンは本を手に取った。


「何それ?」


 ユナが覗き込む。


「この世界の歴史とか、地理とか載ってるみたいだ」


「へえ」


 レンはページをめくる。


 この世界には、自分がまだ知らない国がある。


 知らない土地がある。


 知らない歴史がある。


「……五つも国があるのか」


「そうだよ」


 フィーリアが答える。


「知ってた?」


「いや、知らなかった」


「私も全部は知らない」


「フィーリアも?」


「うん」


「そっか」


 レンは少し笑った。


 まだ知らないことばかりだ。


 でも。


 こうして少しずつ知っていけばいい。


「これ、買おうかな」


「歴史の本?」


「ああ。この世界のこと、まだ全然知らないし」


「レンらしいね」


 ユナが笑った。


「そうか?」


「うん」


 その隣では、ユナが別の棚を見ていた。


「フィーリア、こっち来て」


「ん?」


「これ見て」


 ユナがファッション雑誌を手に取る。


「今こういうの流行ってるんだって」


「へえ」


「これとかどう?」


「……いいと思う」


「じゃあ、こっちも」


「うん」


「もっとおしゃれしようよ」


「そうかな」


「そうだよ」


 二人が雑誌を眺めている。


「女子って大変だな……」


 レンが呟く。


「レンには関係ないでしょ」


「まあな」


 その少し離れたところでは。


「……お」


 アルトが雑誌を開いていた。


「ゲーム雑誌?」


 レンが声をかける。


「ああ。新作出るんだって」


「へえ」


「これ絶対面白そうなんだよ」


「ゲーム好きなんだな」


「当たり前だろ」


 アルトは楽しそうにページをめくっている。


 四人とも。


 見ているものが全然違う。


 それが少し面白かった。


「じゃあ、次はどこ行く?」


 書店を出る。


「ゲーセン!」


 今度はアルトが即答した。


「お前さっきから自分の行きたいところばっかりじゃん」


「いいだろ別に」


「まあ、行こうか」


 レンも笑いながらついていく。


 ゲームセンターでは、見たことのないゲームが並んでいた。


「これ何?」


「知らないの?」


「知らない」


「じゃあやってみようぜ」


 アルトに誘われて、レンもゲームを始める。


「ちょ、待て!」


「レン弱っ」


「初見なんだから仕方ないだろ!」


 ユナが笑う。


 フィーリアも少しだけ口元を緩めていた。


 しばらく遊んだあと。


「疲れた……」


 レンが椅子に座る。


「カフェ行こうぜ」


「賛成」


 今度は全員一致だった。


 カフェで飲み物を頼み、四人で席につく。


「こういうのもいいな」


 レンが店内を見回す。


「何が?」


「学校終わって、そのまま遊びに来るの」


「普通じゃない?」


「俺には新鮮なんだよ」


「前の世界では?」


「仕事して帰って寝る」


「……それはちょっと寂しいね」


 ユナが言った。


「まあ、そうだったな」


 レンは苦笑する。


 しばらく話していると、アルトが窓の外を指差した。


「あそこ、魔法具店あるぞ」


 大きな看板が見える。


「ここはチェーン店?」


 レンが聞く。


「前に行った店よりはおっきいね」


「そりゃ大型チェーン店だからな」


「なるほど」


 レンはそれだけ言って、再び飲み物に口をつけた。


「……あれ?」


 ユナが少し意外そうな顔をする。


「今日は見に行かないの?」


「今日はいいかな」


「珍しい」


「だって本買ったし」


 レンの隣には、先ほど買った本が置いてある。


「帰ったらこれ読む」


「そっちのほうが気になるんだ」


「ああ」


 レンは表紙を見る。


『東方見聞録~日に照らされし大地と繁栄~』


 タイトルだけでも、まだ知らない世界が詰まっていそうだった。


「じゃあ、そろそろ帰るか」


 外へ出ると、空はもう夕暮れになっていた。


「結構遊んだな」


「楽しかった」


 フィーリアが言う。


「また来ようぜ」


 アルトが笑う。


「今度はもうちょっと早く来よう」


「賛成」


 四人はマギアに乗り込む。


 いつもの帰り道とは違う道を走る。


 学校から家へ。


 それだけだった毎日に。


 少しだけ、寄り道が増えた。


 レンはマギアを走らせながら、鞄の中に入れた本を思い出す。


「……帰ったら読もうかな」


 そんなことを考えながら。


 四人は夕暮れの街を帰っていった。

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