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空から始まる2度目の青春  作者: 紺野 翼


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新しい足


 翌週。


 今日は朝から、いつもの授業とは少し違っていた。


「それでは、本日はマギア基礎講習を行います」


 教室の前に立った教師がそう告げる。


「午前は座学。午後は実技です」


「よっしゃ」


 アルトが小さくガッツポーズをする。


「まだ午前だよ」


 ユナが呆れる。


「分かってるって」


 レンは二人のやり取りを聞きながら、教室の前方を見る。


 今日はいつもの教科書ではなく、マギアに関する資料が配られていた。


「まず、マギアを使用する上での基本事項から説明します」


 教師が説明を始める。


 マギアは高等部から使用が認められている魔導機。


 学校では、一人につき一機の貸与が許可される。


 ただし、学校から貸与されたマギアを自由に使っていいわけではない。


「貸与されたマギアは、原則として校内での使用に限ります」


 レンは資料に目を落とす。


「校外で使用する場合は、放課後に所定の申請書を提出し、許可を受けてください」


 続いて、通学についての説明が入る。


「通学に使用する場合は、校外使用の申請とは別に、通学利用の申請が必要です」


「結構ちゃんとしてるな」


 レンが小さく呟く。


「そりゃ乗り物だからな」


 アルトが答える。


「それ以外にも、安全確認、交通規則、周囲への配慮、貸与機の管理について説明します」


 そこからは、マギアの基本的な扱い方についての説明が続いた。


 始動前の確認。


 魔鉱石や中枢部の異常確認。


 走行時の注意。


 無理な操作や危険な改造の禁止。


 事故や故障が起きた場合の対応。


 レンは資料を読みながら、意外と普通だなと思った。


「原付の講習みたいだな……」


「ゲンツキ?」


「いや、こっちの話」


 ユナが首を傾げる。


「何それ?」


「昔の世界の乗り物」


「ふーん」


 それ以上は聞かれなかった。


 説明が進み、最後に申請や登録についての話になる。


「貸与機を校外で使用する場合、申請内容に変更があれば再申請が必要です。通学経路などについても、学校へ届け出た内容を守ってください」


 レンは頷きながら資料に目を通す。


 マギアは便利な乗り物だ。


 だからこそ、自由に使うためには、それなりの決まりがある。


 午前の座学は、その基本を覚えるための時間だった。


 そして――。


「午前の講習はここまでです。昼食後、実技講習に移ります」


「やっとか!」


 アルトが声を上げる。


「静かに」


 ユナが笑う。


「だって楽しみだろ?」


「まあね」


 レンも少し笑った。


 * * *


 午後。


 校内の訓練区画。


 そこには複数のマギアが並んでいた。


「おお……」


 レンは思わず声を漏らす。


「実際に見ると、やっぱり格好いいな」


「だろ?」


 アルトが得意げに言う。


「じゃあ、実技を始めます」


 教師の指示に従い、それぞれマギアの前に立つ。


「まずは始動前の確認」


 レンは教わった通りに機体を確認していく。


 魔鉱石。


 杖型の中枢。


 装甲。


 各部の状態。


「問題なし」


 教師が確認する。


「では、始動」


 レンが操作すると、後部の魔鉱石が淡く光った。


 次の瞬間。


 カチャッ。


 足元の足置きと、前方のハンドルが展開する。


 同時に機体がふわりと浮いた。


「おお……」


 初めて乗ったときとは違う。


 今日は正式な講習だ。


 レンは少し緊張しながら姿勢を整える。


「まずは発進」


 身体を少し前へ傾ける。


 マギアがゆっくりと進み始めた。


「よし」


「次、停止」


 身体を起こす。


 速度が落ち、そのまま停止する。


「できた」


「次は右旋回」


 身体の重心を右へ移す。


 機体が滑るように方向を変える。


「おお」


 思わず声が出る。


「レン、楽しそうだな」


 少し離れたところからアルトが笑う。


「そりゃ楽しいだろ」


 今度は左。


 続いて、加速と減速。


 何度か繰り返すうちに、レンも少しずつ操作に慣れていった。


 以前乗ったときよりも、ずっと自然に動かせる。


「悪くないな」


「レン、結構上手いじゃん」


 アルトが言う。


「アルトもな」


「当然」


 その直後。


「うわっ」


 アルトのマギアが少し大きく膨らむように進んだ。


「おい!」


 レンが声を上げる。


「大丈夫!」


 アルトが姿勢を戻す。


 機体はすぐに減速した。


「……びっくりした」


 ユナが呆れた顔をする。


「調子に乗らない」


「乗ってないって!」


「乗ってたでしょ」


「ちょっとだけ」


 フィーリアが淡々と言う。


「認めた」


「フィーリアまで!?」


 三人が笑う。


 その後も実技は続いた。


 指定されたコースを走り、発進と停止を繰り返す。


 最後には、簡単な安全確認を行って終了となった。


「これで本日の講習は終了です」


 教師が全員を集める。


「本日の内容を修了した者は、学校から貸与されたマギアを使用できます。ただし、校外で使用する場合は申請が必要です」


 生徒たちが頷く。


「通学に使用する場合も、別途申請を忘れないようにしてください」


「はーい」


 アルトが返事をする。


「では、解散」


 生徒たちがそれぞれ帰り支度を始める。


「終わったな」


 アルトが伸びをする。


「疲れた」


 ユナが言う。


「でも楽しかった」


 フィーリアも頷く。


「俺も」


 レンは訓練区画に並ぶマギアを見る。


 今日から、これを自分でも使える。


 少しだけ、世界が広がった気がした。


「じゃあ帰ろうぜ」


 アルトが歩き出す。


「ああ」


 レンたちも後を追う。


 校門へ向かって歩いている途中だった。


「……あ」


 アルトが突然立ち止まった。


「どうした?」


「申請書」


「……」


「…………」


「忘れてた」


 一瞬の沈黙。


「ぷっ」


 ユナが吹き出した。


「お前、さっき先生が言ってたばっかりだろ!」


「いや、帰ることしか考えてなかった」


「何でだよ」


 レンも笑う。


「じゃあ、出しに戻らないとな」


「付き合ってくれる?」


「仕方ないな」


 フィーリアが頷く。


「一緒に行こう」


「ありがとう……」


 結局。


 四人は笑いながら、申請書を提出するために学校へ戻っていった。


 マギアを自由に使えるようになった、その日の最後の出来事は。


 アルトの申請書忘れだった。

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