第二話『其ノ学園』其ノ肆
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キーンコーンカーンコーン
と、全ての授業が終了した事を告げるチャイムが校舎に響く。
結局僕は、せっかく竜胆先生にアドバイスをもらったのに、なかなかそのタイミングを掴めず放課後になってしまった。その上お昼ご飯も食べ損ねてしまって、本当についてないなと、思わず溜め息を溢した。
肩を落としながら鞄に教科書を仕舞い、ふと教室を見渡すと、クラスメイト達は友人と言葉を交わしながら教室を後にしている。
"「一緒に成長してくれる友達を作りなさい」"
そんな様子を見て、竜胆先生の言葉が頭の中を反芻する。
「友達……か」
僕はキュッと唇を結び、鞄を掴んで姿の見えない彼を探して教室を飛び出した。
放課後に浮き足だった生徒を尻目に、あの笑顔を探して走った。普段運動なんてしないから、少し走っただけで息が切れた。そうして息を切らしながら昇降口まで来ると、やっと見つけた。
"「それは案外、大した事ないものだからさ」"
乱れた呼吸のせいで肩が大きく上下する。それを全て抑え込むようにして、空っぽのお腹に力を入れて、体温の上がる身体に背中を押されるように、僕は大きな声でその名前を呼んだ。
「悠太君!!!!!!!」
少し上擦ってしまった僕の大きな声に、名前の主__悠太君は目を見開いて振り返った。驚いて振り返った拍子に、その手に持っていた靴が音を立てて転がった。
「びっ…くりしました」
「ご、ごめんね!驚かせるつもりはなくて!」
自分でも思っていたより大きな声が出てしまって、驚かせてしまったことに申し訳なくなる。ワタワタとひとり慌てる僕に悠太君は優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、廻君から話しかけてもらえるなんて思わなかったので嬉しいです。何か、困ったことでもありましたか?」
どこまでも優しい彼に、グッと心臓の辺りが暖かくなる。
僕はギュッと手に力を込めて、悠太君のその優しい瞳を今度こそ真っ直ぐに見つめた。
「ゆ、悠太君にどうしても、伝えたい事があって……、
あのッ今日は話しかけてくれてありがとう!!本当はすごく、嬉しかったんだ!!
でも、僕、あまり誰かとちゃんと関わった事がなくて……、だから、その、こういう時……どうしていいのか、分からなくて……」
"「どんなに不器用な言葉でも心は伝わるものだよ」"
「……っ悠太君!!僕と友達になって下さい!!」
言葉の勢いに押される様にギュッと目を瞑った。めちゃくちゃな事を言ってしまった恥ずかしさで、顔を上げられない。
きっとほんの数秒にしか過ぎないその沈黙の時間が、僕にはとても長く感じた。
クスクスと笑う声が聞こえて、僕は恐る恐る顔を上げた。そこには頬を赤く染めながら笑う悠太君がいた。
「わ、笑ってる……」
「いや、廻君にそんなこと言ってもらえるなんて思ってなかったので、つい嬉しくて……」
そう言って口を抑えて笑う悠太君に、なんだかもっと恥ずかしくなって体温が上がる。
ふうっと息を吐いた悠太君は、僕を見つめ返して嬉しそうにはにかんだ。
「僕も、ずっと廻君と仲良くなりたいと思ってたんです。
だから、なりましょう!友達!」
そう言って悪戯に歯を見せて笑ってくれた悠太君が僕に手を差し出した。差し出された手の平に、僕はじわりと目が熱くなる。そんな熱を飲み込む様に目を力を入れて、僕は悠太君の手をゆっくりと優しく、宝物を包み込む様に両手でギュッと握り返した。
人の体温がこんなにも温かい事も、誰かと交わす言葉がこんなにも優しい事も、誰かの瞳に自分が映る事が、こんなにも嬉しいだなんて、僕は知らなかった。
「あ、ありがとう……」
僕がそう小さく溢した瞬間、わぁっと辺りから歓声が沸く。
その声にハッと我にかえって周りを見渡すと、握手する僕達を見て祝福の声をあげる生徒でいっぱいだった。
そうだ、今は放課後で、しかもここは昇降口だった。
そんなところで僕は………!と、恥ずかしさでいっぱいになる僕とは対照的に、悠太君は「ありがとうございます〜」なんて言って呑気に笑って手を振っている。いや、そんな事してる場合じゃないよ悠太君!
「お、何してんの回道」
声のする方へと振り返ると、そこにはお昼休みぶりに見る高専寺君と狐塚君。何とも恥ずかしいこの状況に、もうどうにでもなれと僕は意を決した。
「こ、高専寺君、狐塚君……。
……っあの、僕!2人とも友達になりたい!!!」
不意を突かれたような2人の顔に、お門違いにも初めて見る表情だななんて考えた。
「今更だろ〜」
「ほんと、回道は面白いね。俺達はとっくにそのつもりだったよ」
「え……、そうなの?」
何言ってんだ、とでも言いたげな高専寺君と、クスクスと笑う狐塚君の姿に拍子抜けする。その様子に、僕はなんだか肩の力が抜けて言えなかった言葉がスラスラと出てくる。
「……じゃあ、2人のことも、名前で呼んでも良いかな…?」
「おー、駄目とかねぇよ」
「っありがとう……、狼君、弥子君」
2人の返事が嬉しくて、その名前を噛み締めるように呟いた。そんな僕に、少しだけ僅かに狼君が目を見開いた様な気がしたけれど、気の所為だろうか。
「人やば、さっさと帰ろうぜ」
「あれ、仲平じゃん」
「狼君に弥子君!!久しぶりですね」
人生で1番勇気を振り絞ったこの数分間に、僕は置いていかれるように歩き出す3人をぼーっと眺める。
程なくして、そんな僕に気付いた3人が此方を振り返る。
「何してんの、回道」
「帰るぞ〜」
「廻くーん!一緒に帰りますよー!!!」
不思議そうに僕を見る弥子君に、気怠げに振り返る狼君、僕に向かって大きく手を振る悠太君。
そうか、温かいのは心臓じゃなくて、心だった。
ふんわり、優しい春の風が吹き抜ける。
"「それは案外、大した事ないものだからさ」"
______ああ、本当だ。
「うん!」
力強く地面を蹴って踏み出した一歩は、今までで一番軽やかだった。
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学園内立ち入り禁止エリア学園本部祈納神社___
学園の中心に聳え立つ巨大な神社。一般生徒は勿論、教師職員ですら限られた者しか立ち入る事は許されない。そこは学園の中枢機関___学園本部である。
「____報告」
蝋燭の灯りだけが怪しく揺れる屋敷内に、不気味な布で顔を覆った数名の男女の声が木霊する。
「例の不死ですが、普通科に編入、竜胆の監視の下、高専寺、狐塚と共に御役目を担う、と」
「S級か……随分と手厚いな」
「まあ、彼は極めて貴重ですので」
「__して、不死の階級は?」
淡々と言葉が飛び交う中、回道廻についての資料がガサガサと音を立てる。
「不死__回道 廻の階級はSS級とする」
静寂の中、集う者達の関心の声が漏れる。蝋燭の灯りに照らされ、恍惚とした口元が怪しく歪む。
「____次、処刑対象はどうなっている」
「未だ、所在は掴めておりません」
「殆どの能力者についても詳細は不明のまま……」
「分かっているのは、破壊と災厄か」
幾つも重なる資料の中、写る2人の少年少女。まだあどけなさの残るその容姿には似合わず、大きく処刑対象と記されている。
「災厄か……」
「ああっ、なんと悍ましい……!」
「あれから何年経ったと思っている!!!」
「やはり、高専寺と狐塚に任せたのは間違いだったか……」
各々の言葉が飛び交い、その度に蝋燭が不気味に揺れ動く。
「____いえ、彼等が適任でしょう。
彼等は当事者であり、___なのですから」
何処からともなく吹く風が怪しく蝋燭の灯りを消す。
「___彼等の不始末は、彼等でつけるべきでしょう」
其ノ学園に木霊する声は一体誰のものなのか。
第二話「其ノ学園」-完-
第二話『其ノ学園』、読んでいただいてありがとうございます。
第二話の『其ノ学園』という題名は、何処にもなくて何処かにある、を感じて貰えたら良いなと思ってつけました。異能力者達の暮らす変わった学園生活の日常の中に、不気味さや不穏さを滲ませて書きました。
この第二話は「学園」というこの場所で、廻が自分の成長する基盤__居場所を作る話です。一般的な高校生よりも何倍も不器用に変わろうとする廻から、淡すぎる青春の1ページのようなものを感じてもらえるようにと、執筆しました。
この学園という場所を舞台に、廻は沢山の異能力者達と出会い、成長していきます。これからの登場人物にも、ぜひ期待していて欲しいです。
良ければまた次の話も読んでいただけると、幸いです。




