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第二話『其ノ学園』其ノ参





 「この前見た通り2人は能力者の中でもトップクラスの能力者でね、当たり前に御役目をもらってるんだよ。

 廻君が御役目をもらう時は、基本的に狼と弥子も一緒につくようになるから安心してよ」


 2人がどれだけ強いかなんてあの日の光景を思い出せばすぐに分かる。膨大な負の感情も、突き刺さるほど感じた死の恐怖も、一瞬にして掻き消す程の力を、僕はあの日目に焼き付けていた。




 そんな2人が一緒に居てくれることに安心して、握り締めていた手を解く。僕は安堵の表情を隠す事もなく、2人の方を向くと興味無さそうに欠伸をする高専寺君と、僕の視線に気付いた狐塚君が目を細めて口を開いた。


 「りんどーが言ってるみたいに、基本的には能力者のレベルにあった御役目が殆どだから、心配しなくても大丈夫だよ。回道の御役目には俺達も同行するし、これでも一応、俺達S級の能力者だからさ」

 「S級?」


 首を傾げた僕の後ろで「あ、忘れてた」と間の抜けた声が聞こえる。その声に振り返ると「ごめんごめん、すっかり説明するの忘れたよ」と竜胆先生がいつもの様にヘラヘラとした笑みを浮かべていた。





 何というか、本当に読めない人だな、と思った。その上手く感情を隠すかの様な薄い笑みが、更に竜胆先生という人を適当な人に仕立て上げているようだった。





 手際よくモニターを操作した竜胆先生は、新しい画面を映し出す。


 「御役目は妖と能力者のレベルに合わせて与えられてるから、俺達能力者は、学園本部によって祓う事の出来る能力であるかを基準に、それぞれ階級に分けられてるんだ。


 下から、D級、C級、B級、A級、S級、そして1番上のSS級に分けられる。


 下の階級にあたるD級とC級は、能力者ではあるけど強い力は無くて妖も殆ど祓う事は出来ない、だから視る事は出来る能力者って感じだね。

 

 次がB級。この階級にはあまり戦闘向きではない能力者や、能力が上手く使いこなせていない能力者達が多いんだ。


 その次がA級で、この階級が学園内の能力者の中で1番多い階級だ。この階級からは主に戦闘に特化した能力者や実力派の能力者達ばかりになる。A級能力者達からは御役目の危険度も格段に上がっていくからね。


 そしてA級よりも上であるS級クラスの能力者には極めて危険度の高い御役目ばかりが与えられる。その御役目をこなし祓える者が、狼や弥子たちS級能力者なんだ」


 一通りの説明を終えた竜胆先生は軽く息を吐いた。僕はその説明を聞いて、改めて高専寺君達がどれ程掛け離れた強さを持つ能力者であるのかをモニターに映し出された階級を見つめながら認識していた。


 「買い被りすぎじゃね?」

 「なんでそんなとこで謙虚なの」


 僕の横では、そんな会話が高専寺君と竜胆先生の間で繰り広げられていた。


 「狐塚君達がS級能力者なら、SS級の能力者はどれぐらい強いの?」


 僕は隣に座っている狐塚君に聞いてみる。


 「そうだねぇ…俺たちの全力を3分の1くらいの力で捩じ伏せちゃうぐらいの強さ、かな」


 怪しく目を細めた狐塚君に、たらりと冷や汗が流れる。


 「狐塚君達を3分の1の力で……」

 「まあその説明、間違ってないけどあんまり間に受けないでね廻君。狼と弥子はS級の中でも限りなくSS級に近い能力者だから」


 横から説明を付け加えた竜胆先生の言葉に思わずギョッとする。限りなくSS級に近いって、やっぱり2人ともめちゃくちゃ強いじゃないか。


 「狼も弥子もほぼSS級と言ってもいい能力者なんだけど、SS級は1番上の階級なだけあって、その数は2桁にも満たなくてね。

 SS級能力者は確かに存在してるんだけど、本当にごく僅かな能力者だけなんだ、だからほとんど存在しない階級と言ってもいい。


 まあ、表向きはS級が1番上の認識で大丈夫だよ」


 その認識で大丈夫なんだ、とは思ったけど口には出さなかった。そんなごく僅かなSS級能力者は神様かなんかなのだろうか。




 あ、そう言えば____


 「僕に階級はあるんですか?」


 ふと気になった疑問を竜胆先生に投げかけた。




 「勿論あるよ。廻君はB級の能力者だ。この階級はC級が大半を占める普通科では、とても珍しい階級なんだよ」


 B級という想定していたよりもずっと高い階級に驚く。その反面、御役目を与えられるぐらいなのだからそれもそうかと納得する。


 「普通科にB級能力者は廻君と悠太、あとは冷子の3人だけ。………だからきっと悠太も嬉しかったんじゃないかな、同じ階級同士は一緒に御役目を受けることもあるから。

 悠太、とても良い子でしょ?」


 み、見られてた……。


 今朝のやりとりを見られていたことに頬が熱くなる。竜胆先生の言う通り、悠太君はとても良い人だ。彼が優しさを象徴する様な人物であることが、あのたった数分の出来事だけで分かったのだから。


 僕は頬に熱を宿したまま、「はい、とても」と答えた。




 程なくしてパッとモニター画面が映り変わる。


 「ちなみに妖の階級もこれと同じ。


 D級はほぼ無害、小さな負の感情が妖になったものだから、おおよそ全ての人間に憑いている。この世に負の感情を全く持たない人間なんて居ないからね。


 だから妖を生まない人間なんて祓う能力を持つ血が通う、僕達能力者だけだと思っていい。僕達の異能力の力の源は血液だからね、たとえ僕達がどれ程の負の感情を持とうともこの血が負の感情を祓うから妖にはならないんだ。


 まあD級の妖は、あまり力を持たないD級能力者にも祓う事はできるんだけど……基本的に無害で、ほぼ全ての人間に憑いているD級を祓うなんてキリがないし、人間が自分でコントロールできる程度の負の感情だから、あまり御役目になることは無いかな」


 そう言われてやっと納得した。異能力者ではあるものの、同じ人間である僕達が何故妖を生まないのかずっと不思議に思っていたけれど、そういう事だったのか。


 「だけど、C級からは人間に害を及ぼす様になる。

 直接的な攻撃性はないけど、人間を唆し、誑かして簡単にその一線を越える様に仕向ける。


 危険度でいうと、廻君が受ける事になるB級辺りの妖からはかなり凶暴性が増してくるから要注意かな。ちょうど廻君が遭遇したあの妖はB級だね、自我が芽生え、確実に意識を持って攻撃してくる。


 あの妖は元々C級程度の妖だったんだけど、人間の負の感情が一定の境界線を越えることで、妖の階級は上がっていく。だからC級の妖でも負の感情が大きくなる前に祓わなくちゃいけないんだ」





 ……………………いや、いやいやいや。あの妖がB級?僕はあの妖相手に手も足もでなかったのに、あれを僕が祓う?……無理だ。




 サーっと血の気が引いていく僕を見てか、高専寺君が頬杖をつきながら反対の手で僕の背中を軽く叩いた。


 「まあそんなビビんなよ。あん時、お前は能力の事知らなかったんだから、なんも出来なくて当たり前。

 別に御役目も今すぐに与えられる訳じゃねぇし、俺等もいんだから大丈夫だろ」


 軽い発言とは裏腹に確かな強さを含んだその言葉は、僕を少し安心させた。


 「A級から上の妖は、言わずもがなしっかりとした自我をもった危険な妖ばかりになる。A級の僕はS級の妖に手も足も出ないだろうね」


 そんな恐ろしい事を、なんて事ない他人事の様に竜胆先生は言った。


 「それから妖の階級の見分け方だけど……、どういう訳か全ての妖は階級が上がるにつれ、その見た目はどんどん僕達人間とそっくりに成っていくんだ。


 おおよその目安としては、C級は言葉を、B級では自我が芽生える。A級になると四肢が生え、そしてS級になると、その見た目は僕達人間と殆ど変わらなくなる。


 SS級にまでなると、見た目はもう完全に人に成り見分けがつかなくなる。そして、SS級の妖はその負の感情が強大すぎるあまり、それが周囲の人間に干渉して、能力を持たない人間にも普通に目視できるようになるんだ。つまり、SS級の妖は、まるで僕達人間と同じように存在することが出来るようになるんだ。


 ………人の姿を成して、異能力と似た負の力を操るSS級は、なんだか僕達能力者にそっくりだと思わない?」


 ごくりと唾を飲む。そう言って妖艶に微笑んだ竜胆先生の瞳は何処か冷たくて、怖いと、直感的に思った。


 「……りんどー、怖がってるから」

 「ごめんごめん、冗談だよ」


 そんな僕を見てか、一声かけた狐塚君の言葉に竜胆先生はいつもの笑顔で僕に笑って見せた。


 「まあでも、見た目が完全に人に成るっていうのは本当だから気をつけてね。


 ……って言っても、能力者と同じ様にSS級の妖なんて殆ど存在しないんだけどね!

 だから妖も同様に表向きはS級が1番上みたいなものだよ」

 「な、なるほど…」


 今日1日ではあまりにも多すぎる情報に理解が追いついていないけれど、この学園の能力者が日々妖と戦っているということは理解できた。

 そう思うと改めて、高専寺君と狐塚君は優しくて強くてかっこいいなと思った。


 ………でも僕にもそれができるのだろうか。

 僕には2人の様な強大な力は無いし、妖を祓うなんてこと、本当にできるのだろうか。


 御役目を担うと頷いたものの、じわじわと不安や恐怖が押し寄せる。そんな僕の耳に、竜胆先生の優しい教師の声色が届いた。






 「………一つ、アドバイスをあげるよ。


 廻君はこの学園に編入する前、誰かの記憶に残りたいと言ったね。この世界に自分の生きた証を残したい、と」



 確かに言った。僕は誰の記憶にも残らない様なそんな人生から、そんな自分から変わりたいんだ、と。



 「「祓」は誰かを救う御役目だ。救われた人間は自分を救ってくれた人間を確かに記憶する。誰かを救うことは誰かの記憶に残ることなんだよ。

 

 きっとこれから、廻君は御役目を通して沢山の人と関わる事になる。人と関われば関わるほど色んな影響を受けて廻君は変わっていくし、逆に廻君が誰かを変える事だってある。

 こんな言い方は少し狡いかもしれないけど、御役目は廻君にとって「この世界に生きた証を残す」ことを後押しする大きな一歩になるよ。



 _____きっと、ね」






 「御役目は誰かを救うこと…」


 





 誰かを救うことは誰かの記憶に残ること___








 

 竜胆先生の言葉がストンと胸に落ちる。「御役目」を通して僕は変われるのだろうか。




 不思議と押し寄せていた不安が安らいでいく様だった。


 「……僕、頑張ってみます。

 上手くできるかなんて、分からないけど………でも、こんな僕でも誰かを救う事ができるなら」


 瞳を逸らさずに竜胆先生の瞳を真っ直ぐに見つめた。そんな僕に竜胆先生は少しだけ目を見開いた様な気がしたけど、すぐに優しく目尻を下げて微笑んだ。


 「……その言葉が聞けて嬉しいよ」


 竜胆先生がそう言った後、予鈴が鳴る。「もうそんな時間か」と竜胆先生がいそいそと片付けをし始め、僕も扉に向かう高専寺君達を追って慌てて席を立った。


 慌ただしく扉へと向かっていると、「あ、そうだ廻君」と僕を呼ぶ声が聞こえて、振り返る。


 「変わろうとする君にもう一つ。


 一緒に成長してくれる友達を作りなさい。思い切って声に出してみるといいよ。それは案外、大した事ないものだからさ、きっと君を受け入れてくれる。

 特に悠太は、君が編入してからずっと気にかけててね………。


 どんなに不器用な言葉でも心は伝わるものだよ。



 ______頑張れ!廻」



 不意に呼び捨てにされた名前に心が弾む。なんだかぐっと距離が縮まったみたいで嬉しい。名前を呼ばれるのがこんなにも嬉しいなんて、僕は此処にくるまで知らなかった。









 僕なりの不器用な言葉で、伝える______







 「ありがとうございます」と小さく頭を下げて、ヒラヒラと手を振る竜胆先生を背に早足に教室へと向かった。




 




















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