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第十三話『-心道編- いつの日か心中して』其ノ参


 ____


 ザーザーと大粒の雨が降り注ぐ中、僕はいつも通り御役目をこなしていた。薄暗い路地裏で動物のように四足歩行で素早く動く妖を、僕は必死に祓おうとしている。でも、ここ最近寝不足気味で僕は少々苦戦していた。


「回道!!」


 弥子君の声にハッとすると、目の前には妖の後ろ足が迫っていて、僕は蹴り飛ばされる。すぐ近くの壁に叩き付けられれば、当たり前に全身に激痛が走る。変わらず僕の御役目に同行してくれている弥子君と狼君が加勢しようとしてくれるけど、僕はそれを手で止めて断った。





 

 あの図書館での出来事から、早いものでもう三日が経っていた。あれ以来、創一郎君と弥子君の言葉がずっと頭の中をぐるぐると回り続けている。だって二人とも、揃って変なことを言うから。まるで僕が、笑子ちゃんの死を受け入れられていないかのような。


 

 刀を地面に突き刺して起き上がれば、雨に濡れて水溜まりを作った地面が目に映る。


 

















 笑子ちゃんが死んで以来、僕は雨が苦手になった。






 あの日、傘を差していなければ笑子ちゃんはあんな離れた所に飛ばされなかったかもしれない。




 あの日、雨粒が邪魔をせずにもっと視界が開けていたら、他の策を考えられたかもしれない。




 あの日、雨なんか降っていなければ僕はもっと速く笑子ちゃんの元へ辿り着けたかもしれない。


 







 そんな思考を振り切るように、僕は鬱陶しく顔に張り付く濡れた髪を振り払った。



 野生の動物みたいに素早く動き回る妖。雨のせいかやっぱり視界が悪くて上手く攻撃が当たらない。寝不足のせいか頭もズキズキと痛んで、ぐるぐる、ぐるぐると僕の思考を邪魔してくる。




















 




 "「友達が死んで、傷心中って事ですよね」"


















 バシャバシャと水溜まりを跳ね上げながら、妖は動き回る。





















 



 "「世界は変わらないんじゃなくて、回道さんが変えようとしてないんです」"




















 妖に向かってまたひとつ刀を振り下ろす。


























 


 "「悲しめないんじゃなくて、悲しみたくないんです」"





















 そんな僕の攻撃を、ひらりと妖は躱していく。
























 


 "「涙は出てこないんじゃなくて、追い付いてないだけですよ」"


 

















 妖の長い尻尾が、僕を目掛けて飛んでくる。























 "「回道が全部置いて行こうとしてるみたいだから」"






















 横腹に妖の尻尾が勢い良く当たって、また壁に叩き付けられる。



























 "「心道のお墓に行かないのは、なんで____?」"
















 ズキリと深く痛んだのは、今妖に攻撃を食らったからで、心臓が痛んだわけじゃない。

























 "「ねえ、なんで会い行かないの____?」"





















 そんなの、放課後は調べ物で忙しいから、時間が無いだけだ。

























 "「死って無慈悲なんだ、死んだ対象がどれだけ大切だったかなんて関係ない」"



















 無意識に噛み締めていた奥歯が鈍く痛んだ。雨に濡れて肌に張り付いたシャツが気持ち悪くて、不快だ。






















 "「嘘、分かってないよ」"

























 分かってるって言ってるじゃないか。現に笑子ちゃんが居ない日常で、僕は毎日変わらずに生活しているじゃないか。ちゃんと全部、分かってるよ。






























 "「____心道は死んだんだよ」"
























「____っ回道!!」



 いつの間に思考に呑まれていたのか、耳に届いた弥子君の声にハッとする。目の前には妖の後ろ足が迫っていて、息付く間もなく届いた痛みに僕の世界はブラックアウトした。


























 やっぱり、雨は苦手だ。

































 __














「笑子ちゃんは……究極の愛って、何だと思う…?」














 ガヤガヤと騒がしい商業施設から少し離れた場所で、いつかの僕は笑子ちゃんにそんな事を聞いた。








 









 


「相手の為に死ぬこと……かしら」










 そんな風に言った笑子ちゃんの言葉が衝撃的で、僕は少し驚いたんだ。



















「死ぬって、1番怖いじゃない。愛なんてあるかも分からない不確かなものを究極にするなら、相手の為に自分の命を差し出して、死んでそれを証明するのが1番究極なんじゃないかしら」
















 普段の彼女からは想像も出来ない考え方に、僕は何故か胸がざわついた。




















「でも死んじゃったら、その人にとっては傷跡になっちゃうよ」




















 そう言った僕に、笑って見せたあの時の笑子ちゃんが、僕の心臓も感情も、何もかもを奪っていった気がする。






















「その人の為に死んで見せて、一生消えない傷跡になってしまえば、きっとその先別の人と結ばれてもその傷跡があれば忘れられないの。


 その人の中で一生消えない傷跡として刻まれる事が出来るのよ。



 そんなのまさに、究極の愛じゃない___?」
























 そんな歪んだ愛を吐いた彼女の笑顔が、あまりにも純粋無垢で眩しかったから、僕はそんな風に彼女に想われる人が羨ましいと、思ったんだ。























「そういうアンタはどうなのよ」

「うーん……、僕は__」



















 あの時、そう問い掛けられた笑子ちゃんに、僕が返そうとした究極の愛は____















































「____あ、起きた?」


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