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第九話『-心道編- 真心込めて』其ノ伍


 聞き馴染みのある声に振り返ると、ニヤリと八重歯を覗かせて笑う狼君がいて、僕達の後ろの席から彼の首に腕を回して動きを制していた。


 そんな狼君のいる席には他にも見た事のある顔が二つあって。


「え、狼君!?それに弥子君と悠太君まで……」

「やっほー回道、なんか面白そうな事になってるね」

「三人とも、どうして此処に……」


 驚いて目を見開けば、悠太君が僕に向かって笑って。


「いやぁ〜廻君が何やら急いで走って行ったので気になっちゃって…………尾けちゃいました!」


 全く悪びれる風のない悠太君は、お得意の眩しい笑顔を僕に見せる。困惑して弥子君を見るも、彼は白々しい笑みを貼り付けるだけで。この三人なら容易く想像出来るその行為に、僕は気を張っていた力を緩めた。


「ちょッオマエ、離せよ……ッ」

「あーわりぃ、加減ミスったわ」


 後ろから首に腕を回されていた彼は、締め付ける力が強かったのか苦しそうな声を出した。その声に、全く悪いと思って無さそうな狼君がパッと腕を離すと、彼は勢い良く咳き込んだ。


 狼君達はぞろぞろと僕達の席へとやって来ると、僕の隣に立つ彼等二人をペッと席から引っ張り出す。そして狼君達は僕の隣に立つと。




「____で、お前等何してんの?」


 ざわざわと、店内が一気に騒がしくなる。それもそのはず、僕達は揉めていた事で多少なりとも視線を集めていたのに、そこにこのとにかく見た目の目立つ狼君と弥子君が来た事で一気に店内中の視線を集めてしまっていた。


「わ、あの黒髪の人めっちゃ背高ーい!」

「いや銀髪の方でしょ!スタイル良いしかっこよくない!?」

「あれ何処の制服なんだろ、見た事ないよね」

「連絡先教えてくれないかな」


 ヒソヒソと、でも興奮したような女の子達の声が聞こえる。当の本人等は全く持って気にする様子はないけど、それ程までに二人の見た目はとにかく視線を集めるのだ。


 狼君達に怖気付いたのか、店内の視線を集めている事に焦っているのか分からないけど、先程までとは違って彼等は額に冷や汗を浮かべている。


「いや、俺達心道の友達で……久しぶりに会ったから話してただけっすよ」

「へぇ……でも、君達が彼女の友達には見えないけどなぁ」


 顎に手を当てて妖艶な笑みを浮かべる弥子君に、彼等二人は頬をヒクつかせる。そんな弥子君達を見た彼女達三人は、先程までの意地の悪そうな顔から、頬を染めて女のような顔をして。


「あっあの、二人は心道の友達なんですか?ウチら心道の元同級生で……良かったら連絡先とか__」


「あー悪ぃけど、お前等じゃ無理だわ」


「え……?」


 上目遣いで話し掛けた彼女を、狼君は酷く冷たい笑みで見下ろした。そんな狼君に、彼女は困惑した表情を浮かべる。


「いや、分かんねぇの?お前等みたいな低スペックじゃ、俺等は無理だつってんだけど」

「はあ!?」


 顔を真っ赤にして怒りを露わにする彼女達。そんな彼女達を、狼君は艶然な笑みで見下ろすと。


 

「____さっさと消えろよ、雌豚」

 


 その一言に真っ赤な顔をした彼女は、プライドを踏み躙られたような顔をして手を振りかぶった。


 流石に狼君も女の子に手をあげる事はしないだろうけど、まずい!と僕が止めにかかろうとすると、それよりも先に、弥子君がその長い黒髪を靡かせてその彼女の手を止めた。


「うちの連れがプライド傷付けちゃったみたいでごめんね」

「なっ……」

「でも俺達、誰でも良いわけじゃないからさ……。


 だって普通に考えてみてよ、君達みたいなのが俺達と釣り合うわけなくない?」


 当然でしょ、とでも言いたげに優しく微笑んだ弥子君に彼女達の怒りは最高潮に達したようで、怒りに滲んだ顔で弥子君を睨み付けた。


 そして彼女が何か言い返そうと口を開きかけた時、弥子君はスっと手の甲を使って彼女の横に流れる髪を掬う。そのどこか色っぽい仕草に彼女の顔が一瞬女の顔に戻る、その時___


 







 ゾワッと、彼女の髪が僅かに揺れて、みるみるうちに彼女の顔に言いようのない恐怖に滲んでいったのが分かった。普通の人には何が起こったのか分からないだろうけど、僕には見えていた。

 


 あの瞬間、弥子君は彼女の髪に触れるように見せかけて、盾の能力を使って彼女の背後に蠢く妖を存在ごと消し去ったのだ。どうやって祓ったのかは詳しく分からないけれど、とにかく器用な弥子君の事だ。きっと盾を守る為だけじゃなくて、祓うためにも使える術を持っているのだろう。



 


「っおい、何してんだよオマエら!」


 怯えた目で黙りこくってしまった彼女にただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。狼君達の後ろに立つ彼等二人が狼君達へと言葉を投げかけた。

 

 その声に狼君と弥子君はゆっくりと振り返った。狼君は冷たい目で黙って彼等を見下ろす。その態度に腹を立てた彼は、舌打ちを零して先程と同じように狼君に向かって大きく腕を振り上げた。


「ナメてんのかてめ____ッ」








 ヒュッと風を切る音と共に、狼君の拳が彼の頬を掠めた。その勢いに彼の髪が靡くと、肩にべったりと憑いていた妖が跡形も無く消し飛んだ。


 狼君の動きを目で追う事も出来なかった彼がたらりと冷や汗を流すと、狼君はその赤い瞳を揺らめかせて妖しげに口角を上げた。


 

「あーあ、間違えて祓っちまったわ」



 艶めかしい笑みを浮かべた狼君に、彼等は一気に青ざめた表情になる。狼君がそっと拳を引くと、彼等は途端に素早く動き始めて。


「クソっ何なんだよオマエら!」

「気持ち悪いんだよ!」

「アンタらみたいなのこっちから願い下げだし!!」

「やっぱ心道に関わると碌なことないわ」

「マジ萎えるし、行こ」


 バタバタと、五人はそれぞれ捨て台詞を吐きながら早足に店を去って行く。最後にあんな捨て台詞までわざわざ吐いていく辺り、彼等の人間性がよく分かる。






「おー蜘蛛の子散らしたみてぇに出てったわ」

「まったく……狼は正直に言い過ぎなんだよ」

「いや弥子君もめちゃくちゃ酷い事言ってましたよ」


 逃げる様に出て行った彼等を見つめて、三人はそれぞれに口にする。あっという間に彼等を撃退して見せた狼君達に、僕はぽかーんとした顔をしてしまう。


「やっぱり二人共強過ぎて僕の出るとこなかったですね」

「俺達何にもしてないけどね」

「みんな全然僕の事見てなかったですよ……」

「そうかぁ?別にいんじゃね」

「良くないですよ!僕もモテたいんです!!」

「別に俺達モテてないでしょ」


 ケラケラといつもの調子で笑い合う三人に、僕はハッと笑子ちゃんを振り返る。振り返った笑子ちゃんは、ぎゅっと膝の上で拳を握って俯いていてその顔は見えない。


「笑子ちゃん、大丈夫?」

「……」


 僕の問いかけに答える事はなく、ただ小さく俯いている。そんな僕達をちらりと横目に見た弥子君が静かに店内を見渡した。


「ちょっと目立っちゃったね」


 その言葉に僕も店内を見渡すと、何事だとでも言うように店内にいる人々の視線が此方を向いていた。こんな状況じゃ、笑子ちゃんも居た堪れないだろう。

 

 僕はぎゅっと握り締めたままの笑子ちゃんの手をそっと掴んだ。


「____帰ろう、笑子ちゃん」


 やはり笑子ちゃんが返事をする事はなかったけど、掴んだ手が振り払われる事はなかった。







































 __


「あー、まじ祓うんじゃなかったわ」

「祓うのは良い事ですよ」

「そうそう、どうせまたすぐ生み出すんだからさ」

「そういう問題でもないですね」


 ガヤガヤと言い合う三人の後ろを、僕は笑子ちゃんの手を引いて歩く。なんて声をかけていいのか分からなかったのもあるし、無理に話しかけるべきじゃないとも思ったから、僕はただ手を繋いで歩いた。


「二人はモテモテでいいですね、僕もモテたいです」

「仲平は可愛いよな」

「狼は歳下で可愛い子が好きだもんね」

「え!?そうなんですか狼君!」

「違ぇよ、どっから持ってきたんだよそれ」

 

 前を歩く狼君達は時折僕達を気にかけるようにちらりと見て、でも何も言わずに三人で話すから、きっと僕達に気を遣って普段通りの空気感を作ってくれているんだろう。


 下を見ると地面には僅かな水溜りが出来ていて、泥が混ざって少し濁った水は、まるで今の僕の心を映し出しているみたいだった。

 


 

















「…………人の声を聴くのが、怖いの」



 ポツリと、下を向いたまま言った笑子ちゃんの声に僕は小さく目を見開く。そのか弱い声を聞き逃さないように、僕はただ耳を傾けた。


「……うん」

「私には、人の声が二つ重なって聴こえるから……だから、ヘッドホンがないと駄目なの」

「うん」

「…………私の異能力は「読心(どくしん)」。声を出した相手の本心が聴こえるの___」
































 __


 いつからそうだったのかは分らない。でも、小学生に上がる頃には、もう聴こえていたと思う。



 ごく普通の家庭で育った。私に聴こえる声は周りの人には聴こえていないようで、変わった子だとよく言われた。私からすれば、聴こえないみんなの方が変わっていたけれど。

 

 それでも特に不自由な事はなくて、寧ろ自分にだけ聴こえるその声に、私は特別な存在なんだと優越感すらあった。



「ねーねーお父さん、どうしていつも嘘ついてるの?」


 出張が多かったお父さんはいつも嘘をついていたから、ただ純粋に気になっただけだった。


「……嘘って何の嘘だい?また声が二つ聴こえる話かな」


 この頃の私は自分に聴こえる声が何なのか分かっていなくて、両親にはよく声が二つ聴こえるんだと話していた。そんな私に両親は嫌な顔する事なく笑って聞いてくれていたけれど、最近はその話を嫌がるような声も聴こえていた。


「違うよ、お父さんが出張行くのに嘘ついてる話だよ」



 その時のお父さんの顔を、良く覚えている。





「お父さんがいつも会ってる女の人は誰なの?」





 だって今まで見た事ないほど、嫌悪を滲ませた顔で私を見ていたから。






 それから壊れていくのはあっという間だった。


 その話を聞いていたお母さんに強く肩を掴まれて、私は聞かれた事に全て嘘偽り無く聴こえた全てを話した。


 お母さんじゃない女の人の名前、見た目、住んでいるところ、二人がこれから何処に向かうのかも全部。



 

 




 ただ聴こえてきた事を言っただけだったの。壊すつもりなんてなかったの。






 

 毎日、毎日、口論する両親。耳を塞いでも聴こえてくる罵倒。聴きたくなくて、必死に耳を塞いでたのを覚えてる。

 

 そんな両親が行き着く結末は、勿論離婚だった。お父さんは家を出て行くその日まで、私を憎しみの目で睨み付けた。私はお母さんと二人で暮らすようになったけれど、そこにかつてのお母さんの姿はなかった。


 幼心にそんなお母さんを慰めたくて、手を掴んだ。穢らわしいものにでも触られたかのように振り払われた手が、酷く痛んだ。









「アンタさえいなければ良かったのに」








 たった一つだけしか聴こえてこなかったお母さんの声に、私は漸く理解した。


 

 私にだけ聴こえるその声は、その人の本当の心だった。

 




























 __


「……それからヘッドホンを買って耳を塞ぐようにしたの。周りの人とも極力関わらないようにして、人の声をとにかく聞かないように避け続けた」


 自分の事じゃないのに、僕の胸はじくりと痛んだ。


「でも高校に入ってからすぐあの人達に目をつけられて、ヘッドホン取られるし人混みに連れて行かれるし散々だったわ」


 なんて事無いように話そうとしているのが伝わってくる。それでもその声は少し震えていて、僕はそれが痛くて仕方なかった。


「そんな時竜胆先生に会って学園に編入する事になったけど……やっぱり人の声を聴くのが怖くて上手く関われなかった。そんな人達ばかりじゃないって、分かってるのに……」



 ____ああ、僕と同じだ。



 人と関わるのが怖くて、自分の殻に閉じこもっていた時の僕と。

 

 長年植え付けられたトラウマや恐怖はなかなか消えてはくれなくて、いつだって僕達の邪魔をする。


「みんな声が聴こえる私を嫌うから……当然よね、人が奥底に隠してる事、全部分かっちゃうんだもの。でも自分じゃどうしようもないの、私だって聴きたくて聴いてる訳じゃないのに……私だって、みんなみたいに普通になりたいのに……。

 

 私っ……もう、誰にも嫌われたくない……っ」


 酷く小さな声だったけれど、涙声で震えた笑子ちゃんの声は、しっかりと僕の耳に届いた。僕には笑子ちゃんのような能力はないけれど、それは確かに心の奥底に隠していた笑子ちゃんの本当の心だった。


 歩いていた足を、ぴたりと止める。僕が止まれば自ずと笑子ちゃんの足も止まって、涙で滲んだ瞳が僕を見上げた。


 僕は繋いだ手はそのままに、真っ直ぐに笑子ちゃんの目を見て息を吸った。


 

「___僕、笑子ちゃんが好きだよ」



 涙を滲ませた瞳が大きく見開かれて、その衝撃でポロリと一粒頬を伝った。


「確かに最初は少し怖いなって思ったけど、話してみると全然そんな事なくて。好きなものの話沢山話してくれるし、よく怒るけどすぐ顔赤くするところとか可愛いなあって思う。


 ……それと、嬉しかったんだ。笑子ちゃんが僕の見た目、気持ち悪いって思った事が無いって言ってくれたの」


 ほろほろと涙を伝わす笑子ちゃんの頬に、そっと指を滑らせる。笑子ちゃんの涙が僕の指を伝って、流れ落ちていく。


 

 ああ、ほら___


 


「……ほら、やっぱり普通の女の子だよ、笑子ちゃんは」




 少し目元を赤くして涙を流す笑子ちゃんは、やっぱり普通の女の子だ。


「恥ずかしがり屋ですぐ赤くなって、よく怒るけど本当は凄く優しい……」


 耐えるようにきゅっと唇を結んで、頬を赤らめて静かに涙を流す笑子ちゃんに僕は目を細める。


 

 僕はそんな笑子ちゃんが___


 


「そんな可愛くて普通の女の子の笑子ちゃんが、僕は好きだよ」




 雨の上がった空とは反対に、笑子ちゃんの目からは大粒の雨が流れ落ちた。それは僕の指を伝ってはどんどん流れ落ちていって、笑子ちゃんがずっと耐えていたものを綺麗に洗い流していくみたいだった。




「……嬉しかった。アンタが私を庇って怒ってくれたの、凄く嬉しかったの」




 笑子ちゃんが僕の瞳を真っ直ぐに見上げて言葉を紡ぐ。


 あの時、物語が好きだと言った笑子ちゃんが見ていた小説は、どれも救われる物語だった。きっと、物語の世界に逃げていた笑子ちゃんは、本当はいつだって救われたかったんだと思う。



 ずっと耳を塞いで泣いている自分を、見つけてくれる誰かを____


 


「アンタの声は、いつも一つしか聴こえないから……。アンタの声は聴いてても痛くなくて、こんな人初めて出会った」


 


















 

 本当の心は、いつだって分からなくて____


























 

「私、アンタと……廻と一緒にいたい……っ」























 声に出して初めて、本当になるの___


























 

「……うん。僕も、笑子ちゃんと一緒にいたい。一緒に変わっていこうよ。誰かと一緒なら、絶対出来るから。


 だから笑子ちゃん、僕と友達になってよ____」






 笑子ちゃんは、物語の結末は幸せじゃなくても良いと言った。けれど本当は、いつも幸せを願っているのではないだろうか。


 たとえそうじゃなくたって、僕は笑子ちゃんにずっと笑っててほしいから、もう泣いている顔は見たくないから。



 

 

 笑子ちゃんがもう独りで泣かなくてもいいように、僕は君の物語を幸せにしたいんだ__


 


 

 雲の隙間からオレンジ色の光が差し込んで、僕達の足元を照らした。僕と笑子ちゃんの繋がった手に当たると、そこがじんわりと熱を持つ。


 

 嘘偽りのない僕の本当の心に、笑子ちゃんは濡れた頬を緩めて、ふんわりと優しく微笑んで見せた。


 

「しょうがないからなってあげるわ、友達」

 


 その言葉はいつも通りの笑子ちゃんの言葉で、僕は小さな笑みが零れ落ちた。




























 

 


「___で、二人はいつまで手繋いでるの?」


 のしっと肩が重くなって、聞き覚えのある声が僕達二人の空間を切り裂いた。反射的に僕達はバッと手を離すと、離れた手に少しの寂しさを感じた。


「や、弥子君……いつから……」

「「僕、笑子ちゃんが好きだよ」、の辺りかな」


 一番恥ずかしいところから聞かれている……!!


「回道いつの間に彼女出来てたの?言ってよー」


 と、ニヤニヤと揶揄うように僕達を見る弥子君は楽しそうだ。それもそのはず、そこから聞いているという事は僕達がさっき友達になったばかりだという事も知っているからだ。つまり、胡散臭い笑みを浮かべる弥子君は、僕達がそんな関係じゃない事なんかちゃんと分かって揶揄っているのだ。


 それでも頬が勝手に熱を持つのは仕方がないと思う。


「そっそんな関係じゃないよ……!もう、分かってるでしょ弥子君」

「それにしても、回道があんなにロマンチックな事言うなんて……」

「ちょっ!違うよ弥子君!!」


 揶揄うように笑う弥子君に頬がどんどん熱くなってくる。だって、僕は女の子と碌に関わった事がないんだ。自分の発言を思い出すだけで、恥ずかしさで死にそうになる。ちらりと笑子ちゃんの方を見ると、彼女も僕と同じくらい恥ずかしそうに頬を赤らめていて。


「廻君、ずるいですよ!」

「ゆ、悠太君まで……!」


 ぬっと弥子君の横から現れた悠太君が羨ましそうにそう言うから、僕は否定するだけでいっぱいいっぱいだ。必死に悠太君に弁明する僕に、ケラケラとそれを見て笑う狼君と弥子君。



「……ふはっ」



 小さく吹き出す声が聞こえて振り向く。振り向くと、口を覆って笑っている笑子ちゃんがいて。


「アンタの友達は、やっぱり変わった人達ばかりなのね」


 そう言って、ずっと守るように着けていたヘッドホンを耳から外した。その手はもう少しも震えてはいなくて、ただ可笑しそうに首にヘッドホンをかけた笑子ちゃんが笑っている。



 

 

 そんな笑子ちゃんの笑顔に、また一つトクンッと胸が高鳴る。




 


「笑子ちゃん、でしたよね。ズバリ廻君とはどこまでいったんですか!」

「っだからそんな関係じゃないわよ!話聞け!!!」

「ぉごっ」


 メゴッと聞いたことのない音をさせながら、笑子ちゃんは悠太君の鳩尾にパンチをお見舞いした。そんな笑子ちゃんの顔は真っ赤で、誰が見ても照れているのが分かる。


「やば、お前フィジカル系の能力?」

「は?アンタと一緒にしないでくれる」

「そうだよ狼、女の子にそんな事言ったら失礼でしょ」

「…アンタは嘘ばっかりね。全てが胡散臭いわ」

「…………ん?」


 長年彼女を縛り付けていた呪いが解けたかのように、ヘッドホンを外したまま狼君達と話す笑子ちゃんはとても楽しそうに見える。


 その姿は、やっぱりどこからどう見ても、みんなと変わらない普通の女の子で。


「何してんのよ廻、一緒に帰るんでしょ」

「あっ、うん……!」


 振り返って僕の名前を呼ぶ声に、僕は笑子ちゃんの元へと走った。ちらりと隣を歩く笑子ちゃんを見ると、もうその顔に曇りはなくて凛とした顔をしている。それでも、先程まで泣いていた目は少し赤くて。


「……泣き止んだ?」


 彼女だけに聴こえるようにそう言うと、笑子ちゃんはやはり頬を赤らめて僕を睨み付けた。


「別に泣いてないわよ!!!」


 僕はそれがやっぱり可笑しくて、声を上げて笑った。素直に感情が表情に出る笑子ちゃんが、僕はやっぱり可愛いと思った。







 

「……………………ありがと」






 

 

「何か言った?」

「別にっ何でもないわ!」

「そう……?」


 ポツリと呟いた笑子ちゃんにそう問い掛けると、笑子ちゃんはフイっとそっぽを向いた。


 彼女の二つに結んだ癖毛が揺れる。赤くなった耳が見えれば、何でか僕まで恥ずかしくなって。


「…………どういたしまして」

「っ」


 バッと僕を見て顔を真っ赤にする笑子ちゃんは、恥ずかしそうにわなわなと口を動かしている。そんな笑子ちゃんに、僕は悪戯な笑顔を浮かべて笑った。




 

「やっぱり、聞こえてたんじゃない……っ」



 

 

 雲から差し込むオレンジ色の光が、僕達の帰り道を照らしてくれているみたいだ。



 










 

 

 水溜りに、笑う僕達が反射する。オレンジ色の光がそれを色付ければ、僕達はたちまち一枚の絵画みたいになる。














 

 嘘ばかりのこの世界で、僕達はいつだって本当の心が知りたくて























 だから僕達は、それを声に出して本当にするんだろう






















 


「帰ろう、笑子ちゃん____」

































 

 ほら、学園はもうすぐそこだ____


第九話『-心道編- 真心込(まごころこ)めて』-完-

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