第八話『禍福』其ノ伍
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「廻、早く!早く!」
「待ってよ小福ちゃん……っ」
無事に御役目を終え、僕達は揃って12号館を後にした。興奮気味な小福ちゃんに手を引かれて、僕は駆け足でその小さな背中に着いて行く。その小さな手には乾いた絵の具が付いていて、いつの間に付いたのか。きっと運悪く乾いていない絵の具を触ってしまったのだろう。
はしゃぐ小福ちゃんは、時折足を絡ませては転けそうになる。それでも、何かを僕に見せたいようで。
「見て!虹!!」
「わ……本当だ」
すっかりと雨の上がった空には、橋をかけるように淡い虹がかかっていた。虹なんか何度も見た事あるのに、今日見る虹が今までで1番綺麗に見えた。
そんな虹を見て、僕は後ろにいる二人を振り向いた。
「本当に、運が良いですね」
そう言って笑った僕の言葉に、玄雲さんは悪戯な顔で笑って、転堂さんはケッと吐き捨てるように視線を逸らした。そんなチグハグな二人の様子がなんだか可笑しくて、僕はまた一つ笑いを零した。
そんな僕達に混ざりたかったのか、小福ちゃんは僕に向かって両手を広げ、お得意の抱っこポーズをする。そのお願い通り抱き上げてみせると、小福ちゃんは満足そうな笑みを浮かべた。
「それにしても小福ちゃん、えらく回道に懐いてンな……。小福ちゃん、なんか気に入ってるとこでもあンのかィ?」
不思議そうに僕達を見た玄雲さんが、少し屈みながら小福ちゃんへと視線を合わせた。問い掛けられた小福ちゃんは、柔らかそうな頬を緩めて嬉しそうに笑って。
「廻、傘持ってきてくれたの」
「傘?」
「小福の壊れた傘ね、あれ兄さんにもらった大事な傘なの。壊れてたのに、廻が持ってきてくれたの、すごく嬉しかったから」
その言葉に、雨の中小福ちゃんを見付けた時の事を思い出す。確かに僕はあの時、小福ちゃんの壊れた傘を持って歩いた。小福ちゃんがずっと傘を握っていたから、この傘はとても大事な物なんじゃないかと思って。
「小福の大事なもの、廻も大事にしてくれたの。だから小福は廻の事好きなの!」
まるで、雨露に濡れることでより生き生きと宝石のように輝く紫陽花のように。雨の日を鮮やかに彩る紫陽花のように、小福ちゃんは色鮮やかに笑って見せた。
その笑顔は小さな福と呼ぶにぴったりで____
「ありがとう小福ちゃん。僕も、小福ちゃんの事が好きだよ」
そう言って微笑めば、腕の中の小福ちゃんはその黒い瞳を細めて嬉しそうにはにかんだ。その笑顔が嬉しくて、僕の胸はじんわりと暖かくなった。
「____おい、それは違ぇだろ」
「ごっごめんなさいぃ」
後ろからヌッと現れた転堂さんは、幸福の能力者とは思えない程の負のオーラを纏っている。
すっかり忘れてた……、シスコンの存在を。
怯えながら謝る僕に、小福ちゃんは楽しそうに声を上げて笑っている。
「ほら小福、ちゃんと自分で歩け」
「はーい」
転堂さんの言葉に素直に僕の腕から降りた小福ちゃんは、流れるように転堂さんの元へと駆けて行き、手を繋いで歩いた。そんな仲良く手を繋いで歩く兄妹の様子に、僕は兄弟という存在が少し羨ましくなった。
二人の姿を後ろから見つめていると、くるりと転堂さんが振り向いた。
「……回道、傘さんきゅな」
「!」
初めて呼ばれた僕の名前に、なんだか僕の存在を認めてもらえたような気がして嬉しくなる。
「いえ、こちらこそありがとうございました。幸大さんの御役目、勉強になりました」
「……そーかよ」
ハッとやはり鼻で笑ってそう言った幸大さんに、僕は思わず笑みが零れる。そうして僕達は、無事に御役目を終えた。
雨上がり、僅かな雨の匂いを含ませて。空を彩る淡い虹の下、僕達は学園へと歩いた。
それは、黒か、白か
大か、小か
兄か、妹か
幸か、福か________
第八話『禍福』-完-
第八話『禍福』読んでいただいてありがとうございます。第八話の題名である「禍福」とは災いと幸福を意味し、「禍福は糾える縄の如し」「吉凶禍福」からつけています。
今回初登場の転堂兄妹、如何だったでしょうか。転堂兄妹はこの小説を作るにあたってかなり最初に作った登場人物になります。私の小説に出てくる登場人物は、脇役にならないように全ての人物にスポットを当てて名前や能力を考えています。そのため勿論この転堂兄妹もこの話で終わりにはなりません。個人的にこだわりの強い人物なため、今後の登場も楽しみにしていただけると嬉しいです。
次回から心道編というひとつの大きな話に入っていきますので、そちらも楽しんでいただけると幸いです。




