第七話『共喰い 下』其ノ壱
その辺り一面が、真っ赤に染まっていた。
たった一分にも満たない間に地獄と化した其処では、辺りにいた人間達が悲鳴を上げて逃げ惑っている。その悲鳴に男は酷く不機嫌そうな顔をして、まだあどけなさの残る顔を顰めた。のそのそと脱いでいたサンダルを履けば、その赤い水溜りがぴちゃぴちゃと音を立てた。
そのすぐ足元には右腕を無くし右下の背中辺りを大きく欠損した男と、少し先の道路には、首から上を無くした首無しの男が石ころのように転がっている。
もう既に人が逃げ去った道には三人しかいない。最も、うち二人は生きているというにはあまりにも悲惨な姿に変わっているのだが。
足元に横たわる男を、まるで蟻を踏み潰すかのようにサンダルを履いた足で踏み越えた男は、地面に落ちて無惨に潰れたシュークリームの前へとしゃがみ込んだ。中のクリームが溢れ出たそれは、横たわる男の作る血の水溜まりに半分沈み、もう食べ物とは言えない代物へと変わっている。
「まだ食べてないのに……。まあ、いいや…、ハチに買ってきてもらお……」
そう言って、男はゆっくりと立ち上がった。
ゾクリ____と、その瞬間男は背後に異様な気配を感じた。
野生の本能かのように素早く振り返ると、其処にはさっきまで首を無くして道に転がっていた筈の石ころの姿。
此奴、死んだはずじゃ____
ゆらりと此方を向いたまま立ち尽くしている石ころ__回道は、爆散するようにして弾け飛んだ筈の頭が再生し、目や鼻や口をしっかりと形作って、元通りの姿で此方を向いていた。
そのとても奇妙な光景に、男は目を見開く。先程自分が壊したはずの首から上が元通りに再生しているのだ。
何で、此奴は生きてる____?
男がそう思うと同時に、此方を見ていた回道が男の元目掛けて走ってきた。
「……っ」
しかし走ってきたと思った瞬間に襲い掛かる鋭くて長い爪。走るというより飛び掛ってきたという表現の方が近いようだった。
とてつもない速度で飛び掛ってきた回道の様子は、どこか可笑しい。目は燃え上がるように赤く血走り、白髪の混じった黒髪は全てが真っ白に染まって、口から覗く歯は牙のように鋭く尖っていた。そして何より、十本の指から生える爪は鋭く長く、背を折り曲げて男へと狙いを定めるその姿はゆらりと朧気に揺れ、人間というより獣のようだった。
一瞬の出来事で不意を突かれた男は避けるのが遅れ、回道の鋭い爪が頬を掠める。素早く回道から距離をとった男が頬へと手を滑らせると、ぬるりと赤い血が男の青白い肌を伝っていた。
「……お前、ほんとに人間?」
回道へと問い掛けた男が首を傾げる。しかし、問い掛けた回道からは、「ゥヴ……」と小さく唸るだけで返事がない。
「僕、確かに頭壊したよね。何で頭部、再生してんの?」
トントンと自分の頭を指しながら男が問い掛けるが、唸るだけでやはり回道からの返事はない。いや、返事がないというよりは、まるで声なんか届いていないかのような。
「……あー、面倒くさ……、やっぱどうでもいいや」
くしゃりと頭をかいた男は、心底面倒臭そうに顔を歪めた。そして先程履き直したばかりのサンダルを脱いで裸足で地面に立つと、指先まである大きめのパーカーを腕まで捲って不健康そうな青白い肌を太陽の下に晒した。
「____全部壊せば、それでいいか」
ヒュッと風を切るように飛び出せば、あっという間に回道の背後へと回り、左足で回道の左脇腹へと蹴りを入れる。バァンッという破裂音と共に、回道の左脇腹部分は大きく弾け飛んだ。そのまま男の蹴りの勢いでうつ伏せに地面に転がった回道の身体からは、大量の血が零れ落ちる。
そんな回道にはお構い無しに、転がる回道の元へと素早くやって来た男は、裸足の足で回道の両脚を踏み、またもや内側から弾け飛ぶように爆散させた。「ア゙ァ゙ァヴッ」と藻掻き唸る回道を冷たく見下ろし、青白い両足を飛び出る回道の血で真っ赤に染め上げた。うつ伏せに倒れた回道の両腕を、膝を付いて青白い手で抑え込むようにして掴むと、またもやバァンッという破裂音と共にぐちゃりと回道の両腕は爆散した。
左脇腹部分が欠け、四肢を失った回道の姿はどう見ても生きている人間の姿とは言えない。
男は立ち上がって静かに回道を見下ろす。まるで回道の出方を探るように。
すると、「グル゙ァ゙……ッ」と喉を鳴らしながら、回道の身体はとんでもないスピードで欠損した部分を修復し始める。修復する回道の身体は、ビキビキと音を立て、欠けた部分を一つずつ驚異的な速さで再生している。
「……化け物かよ」
回道の姿に男が小さくそう零した。
すると、それが合図かのように回道は再生した身体でバッと起き上がるとくるりと空中を一回転しながら男から距離をとった。すっかり再生した両脚で地面を踏み、真っ白な髪の毛から覗く赤く血走った瞳を光らせると、一直線に男の身体へと飛び掛かった。
それは、正に地獄絵図だった。
「ガルァア゙ッ」と唸りながら回道が男へと腕を振り上げる度、その腕を男が自分の腕で庇うと、ぶつかった瞬間に回道の腕が爆散する。男の異能力なのか、男の肌に回道の身体が触れる度、回道の身体は何度も何度も飛び散った。
幾度となく飛び散る身体に、辺りにはどんどん血の湖が出来る。それを二人が踏みつける度に、其処はびちゃびちゃと不気味な音を立てた。回道の肌は何度も再生した事により、その真新しい部分は少し赤味を帯びていた。
ずちゃっと音を立てて、男が回道の攻撃を避けながら地面を滑るようにして降り立つ。
「あ……?」
降り立った男のすぐ足元には、横たわったままピクリとも動かない仲平の身体。自分の足場に横たわる仲平の身体に、心底不機嫌そうに顔を歪めた男は、何の躊躇もなくピクリとも動かないその身体に向かって足を下ろす。
「……チッ邪魔だな__」
その瞬間、グワッと足を下ろす男の真下に現れた回道の姿。
ッ此奴、いつの間に____!
男の反応が遅れるのも、それもその筈。今までとは比にならない速度で、仲平の身体を守るようにして男の足元へと現れた回道は、その身をかなり低く低姿勢にして、下から獲物を狩る獣のように、下からその鋭く尖った爪を男の顔目掛けて突き刺した。
速いッ____!!
ビュッと空を切った回道の爪が、間一髪で避けた男の左腕へと突き刺さる。突き刺さった爪を無理矢理振り払った男は、ズサーッと地面を滑って後退った。
仲平を守るようにして立った回道の血が、指を伝って地面に横たわる仲平の身体へと流れ落ちる。
回道の爪によって傷付けられた男の左腕からは、無理矢理振り払った事でポタポタと赤い血が滴っている。その血が、細く不健康そうな男の青白い肌を汚しては地面に伝い落ちた。
その瞬間、男の纏う空気が変わる。
「は……?…僕が、壊されたの……?此奴に?……こんな、弱い奴に……?」
ぶつぶつと呟いては、血が流れ落ちる自分の腕を見つめる。
ただを捏ねる子供ように。癇癪を起こす前の子供のように。
「有り得ない……、僕は強い。…弱い奴には壊されない……。僕は、強い奴なんだ……。
強い奴に壊されるのは、弱い奴だ____」
その瞬間、男の身体中を這うようにして赤紫色の痣のようなものが現れる。スッと黄緑色の目を鋭く光らせた男が、バチバチと音を鳴らしながら紫色の稲妻のようなものを身に纏わせて回道に飛び掛かった。
目を光らせて宙に浮き、持ち上がる髪が角のように浮かんで、背を曲げて四肢を広げながら飛び上がる胴体はまるで牛のようで。
地面に映るその影はまさしく、牛鬼のように悍ましくて、恐ろしい。
地獄のように赤く染まる此処に、二つの獣同士が今、衝突する____
パァァンッッ!!
二つの攻撃がぶつかる寸前、二人の間を隔てるようにして双方の攻撃は弾かれた。それはまるで、見えない盾に阻まれているように。全くもって攻撃を通さないその盾は、二人の攻撃を弾きながら凄まじい風を巻き起こしている。
何かに気付いたような男は腕を下ろし、スタッと地面へと着地した。男の身体を覆っていた痣が、スゥっと消えていく。
攻撃が弾かれた事で起きた風によって尻もちをついた回道を後目に、男は右側へと視線を向ける。
「ちょっと……邪魔しないでよ____弥子」
男が声をかけた方には、酷く焦った様な顔をした狐塚の姿。右手を前へと出している様子から、おそらく先程の二人の攻撃を弾いたのは狐塚の能力なのだろう。不機嫌に顔を歪め、狐塚を睨み付けながら親しげにその名前を呼んだ男は、狐塚と知り合いなのだろうか。
「懐……、お前……っ」
困惑した様子の狐塚は、此方を睨み付けながら裸足で立つ男を、懐と呼んだ。狐塚はそのまま男の横へと視線を向けると、そこにはいつもと様子の違う回道と思われる人の姿。
そして____
「……仲平…?」
守るようにして前に立つ回道の後ろには、右腕が無く右下の背中辺りが大きく欠けた仲平と思われる人が、ピクリとも動かず血の溜まった地面に横たわっている。
懐と呼ばれた男は、この状況に不機嫌そうに舌打ちを零した。
「…あーあ、せっかく良いとこだったのに__」
突如、ブォンッと男の背後が音を立てた。とてつもない殺気に男が素早く振り返ると、そこには大きく腕を振りかぶった高専寺がいて____
バァンッッ!!
と、空気と空気がぶつかり合うような衝撃音をさせながら、辺りには一際強い突風が吹いた。
凄まじい勢いで放たれた高専寺の拳を、ギリギリその細い腕で耐えた男は至近距離で高専寺と睨み合う。
「……っねぇ、不意打ちは卑怯なんじゃないの?___狼」
狐塚同様、高専寺の事も親しげにそう呼んだ男は、どうやら高専寺とも知り合いなようだった。
高専寺は男から少し距離をとって地面へと着地する。男の腕に拳を打ち込んだ高専寺の拳は、第二関節部分の皮膚がボロボロと壊れ、ボタボタと血が滴っている。対する男も、高専寺の拳を受けた右腕は皮膚が裂けたのかポタポタと血が流れ、骨が砕けたのか腕はだらしなくぶら下がっている。
怒気を孕んだ高専寺の瞳が、男の姿を射抜いた。
「……お前、随分汚れたな」
高専寺のその言葉に、男は不気味に口角を上げて笑う。
「____仲平ッ!!」
そんな二人の空間を切り裂くように、緊迫した狐塚の声が響いた。声のする方へと視線を向けた高専寺の目が見開く。目を見開いた高専寺の視線の先には、身体の右側を大きく欠損した仲平を抱き抱えて必死に呼びかける狐塚の姿。
そんな光景に、男は首を傾げて笑った。
「あぁ、仲平……お前等の友達?なんか、簡単に壊れちゃったよ」
「お前………」
そんな男に青筋を立てた高専寺よりも先に、白い何かが男へと飛び掛った。
パァンッ!と、またもや甲高い衝撃音が耳を劈くと、男と白い何か__回道の間が見えない盾に阻まれて凄まじい風が巻き起こる。
「ヴガルァア゙!!」
「ッしっかりしな回道!其奴とは戦わなくていい!!」
「落ち着け!!」と、回道に向かって声を荒らげる狐塚は、腕に仲平を抱えたまま右手を前に広げて、やはり二人の間を盾で隔てていた。
「おい!回道どうなってやがるッ!!」
「知らないよ!暴走して、こっちの声が聞こえてない!!」
「くそッ!」と、珍しく焦った様子で吐き捨てた高専寺は、依然として盾を隔てて向こう側にいる男に飛び掛かろうとする回道の元へと駆け寄る。
「おい回道しっかりしやがれ!!其奴はもういい!!」
「ガル゙ァア゙ッ!!」
「お前ッそれ以上能力使うんじゃねぇ!!」
高専寺は男に飛び掛かり続ける回道の身体を羽交い締めにしながら、首に右腕を回して離れさそうとする。しかし、口から鋭い牙を覗かせて血を吐き続ける回道の身体は、盾を隔てた此方側を冷たい瞳で射抜く目の前の男を映したまま止まらない。
一体どれ程、回道の身体は壊されたのだろうか。
至る所を破壊され続けた身体は、制服も無惨に破け、新しく再生した皮膚がそこから覗いている。元々の皮膚と比べて少し赤味を帯びた真新しい皮膚は、回道が何度も身体を再生し続けた事なんてひと目見るだけで分かった。
この辺り一帯の道は回道の血が至る所に飛び散っていて、あちこちに大きな水溜まりを作っていた。この辺り一帯が噎せ返るような血の匂いで充満している。その匂いに、高専寺は酷く顔を歪めた。
一つ舌打ちを零すと、高専寺は拘束していた腕を離し、回道の襟足をグッと後ろへと引いて正面に回り込むと、そのまま回道の胸倉を掴んで強く地面へと叩き付けた。
「ガハッ」
と、血を吐いて回道が倒れる。すかさず馬乗りになった高専寺が、その拳で回道の頬を殴った。加減しているとはいえ、かなりの強さで殴られた回道の動きが鈍くなる。
そして、未だ赤く目を血走らせたままの回道の胸倉を、高専寺は再度掴み上げると____。
「おい、てめぇに言ってんだ回道 廻!!!てめぇは化け物でいいのかよ!!?」
その声に、ピタリと回道の動きが止まる。相変わらず赤く血走ったままの虚ろな瞳が高専寺を移し出す。
「てめぇにはちゃんと名前があンだろうがッ!!
しっかりしやがれ!回道 廻____!!!」
____酷く頭痛がする。
気持ちが悪い。全身が燃えるように熱くて、真っ暗な所をずっと彷徨っていた気がする。
自分というものが分からなくて、ずっと、ずっと、探して歩いていた。身体中が痛くて、もう泣きそうだったんだ。
"……ぐ、る"
ふと、誰かの声が聞こえた。
初めて聞くはずなのに、酷く懐かしいその声が、僕を導いてくれる。
"ま……るな、"
走っても、走っても遠い声。どうして、僕は届かないんだ。
"……がんばれ、廻"
はっきりと確かに名前になった言葉。ふわりと下から掬い上げられるように、どんどん視界が明るくなっていく。
呼ばれた名前に答えるように、名前がそれを形つくった。
赤く血走った瞳がスゥーッと引いて、回道は元の茶色い瞳を取り戻した。真っ白に染まっていた髪の毛は、じわじわと根元に吸収されるようにして白髪混じりの黒髪に戻り、鋭く生えた牙はなくなり、長く尖った爪は元通りになる。そうしてその姿は、「回道 廻」へと戻っていった。
「め……ぐ、る……っ」
「っ…………戻ったかよ?」
譫言のように小さく自分の名前を零した回道の瞳から、ツーッと涙が一筋流れる。その様子に、高専寺は小さく息を吐き出した。
「っろ、ぉ……くん」
目の前の彼の名前を呼んだ自分の声は、何故か少し掠れていた。ガンガンと痛む頭に加えて、全身がズキズキと酷く痛む。
ホッとした顔をして僕に手を差し伸べる狼君に、僕は状況が整理できなくて混乱する。頭の中がごちゃごちゃする。
狼君の手を借りて、ズキズキと痛む身体を起こして立ち上がる。狼君の後ろには、どこか見覚えがあるひ弱そうな男が、僕達に冷たい瞳を向けて立っていた。その男は全身にベッタリと血を付けていて、ポタポタと血の滴る右腕は骨が砕けたかのようにだらしなくぶら下がっている。
彼は一体、誰なのだろう。
整理出来ない頭の中は、混乱したみたいにぐちゃぐちゃで。頭の中が、何か血のようなもので真っ赤に染まっているみたいだ。
何かずっと、悪い夢を見ていたような____
「くそッ、狼!急いで学園まで運んで!!!」
ふと、弥子君の声が聞こえて視線を向けた。弥子君が腕に抱えている、真っ赤な誰か。
____その瞬間、僕は全てを思い出した。
「ッあ……あぁ……っ」
ビデオテープを巻き戻すように、鮮明に映し出される、赤、赤、赤____。
「悠太君!!!!!」
ガラガラとした声を荒らげて弥子君の元へと駆け寄ると、思い出した記憶と全く同じ赤色に染まった悠太君の姿。何度問い掛けてもその顔が僕を見て笑う事はなくて。
「どう…しよっ、悠太君が……息、してないんだ……っ」
身体の右側が大きく欠損した悠太君を、狼君の背中へと慎重に素早く背負わす弥子君に、ガチガチと歯を鳴らしながら問い掛けた。そんな僕をちらりと見て、背中をバシッと強めに叩いた弥子君が、僕の両肩を強く掴んで無理矢理目を合わせた。
「落ち着いて、回道。まだ微かにだけど、仲平の心臓は動いてる。このまま急いで廃人のとこまで仲平を連れていけば、今ならまだ助けられる」
「い、なみせんせ……に…」
「幸いにも此処から学園は遠くない。狼が背負って全速力で向かえば、もしかしたら間に合うかもしれない。だから動揺する暇があったら、一刻も早く仲平を学園まで運ぶんだ」
強い目力でそう言った弥子君に、僕は狼君の背中に背負われた悠太君を見る。助かるだなんて考えられない程のダメージを負った悠太君を、弥子君は稲見先生なら救う事が出来ると言った。それがたとえ一%にも満たない可能性だとしても、今はただそれにさえも縋っていたかった。
なんとか頷くと、弥子君は僕を引っ張って立ち上がらせた。
しかし、此処から急いで学園に向かうって言っても、あの男はどうするんだ。此処を血塗れの地獄絵図へと変えたあの男が、黙って僕達を行かせるなんて考えられない。
僕がちらりと男のいる方を見ると、そんな僕に狼君が言う。
「彼奴は気にしなくていい、もう追うな」
「っでも」
「もう何もしてこねぇから。彼奴は長期戦を酷く嫌う……、手負いの彼奴が、お前だけならまだしも三対一になったこの状況下で、深追いしてくる事はねぇよ」
その言葉に男の方を見れば、狼君の言ったように僕達を追うような様子は見られなかった。
あの時と同じように、裸足のまま、血の溜まった地面に立つ彼が僕を見て首を傾げる。
「……ねぇ、お前ほんとに人間?」
「ぇ……」
突然問い掛けられる言葉に、僕は情けない声が漏れた。
「何回壊しても壊れないし……。あぁ、もしかしてお前が不死身の能力者?」
「!」
男は僕を見て思い出したかのようにそう言った。明らかに動揺する僕に、狼君が「彼奴の話は聞かなくていい」と僕の踵を蹴る。そんな狼君の様子に、男は可笑しなものでも見たかのように顔を歪めて笑い始めた。
「え…なに、狼。今度は其奴なの?ずっと可愛がってた野良猫の次は、今度は其奴?」
「ちょ、笑わさないでよ……っ」と、男はそう言って心底可笑しそうに笑う。その異様な光景に僕は全身が震えてくる。
「あーあ…でも彼奴、悲しむだろうなぁ……」
笑い過ぎで目に溜まった涙を、青白く細長い左指で掬う。
そして、ゆらりと頼りなく地面に立った男は、スッと左指を此方へと向けて____。
「___野良猫の次は、その化け物拾ったんだ?」
その男の指先は、真っ直ぐに僕の姿を捕らえていた。
聞き馴染みのあるその言葉に、心臓がドクンッと大きく波打つ。
問い掛けられた言葉に、狼君は男に背を向けたまま何も喋らない。僕の前に立つ狼君の顔は見えない。
そうして狼君は、何も語らぬまま、背中に背負った悠太君を稲見先生の元へと届ける為走り出した。
これは、何の話__?
考える僕の思考を遮るように、弥子君が軽くトンッと僕の肩を叩いた。
「……今は、仲平が最優先」
「っう、うん……」
全くもって温度を持たない弥子君の瞳に少しの怖さを覚えながらも、僕達はもう既に姿の見えない狼君達を追いかけて走った。
「………………」
走り出す直前、弥子君はほんの少しだけ男の方を振り返った。
男の方も同様に弥子君を見つめていて、何も言葉を交わすことのない二人は、ただただお互いを瞳に映して見つめあっていた。その瞳はどちらも全く温度を持っていなかったけれど、何か言いたげに、何かを訴えるように、ただ静かに見つめあっていた。
すぐさま弥子君は僕と共に走り出したけれど、あれは一体何だったのだろう。
小さく首だけを振り返れば、血に濡れた其処に青白い肌の彼だけが、ゆらりと異質に立ち尽くしていた。
二人は、彼と知り合いなの______?




