第六話『共喰い 上』其ノ肆
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「廻君これも美味しいですよ!それからはこれは期間のやつで……、あっこれ最近人気の!」
「ゆ、悠太君、前見て歩かないと危ないよ……」
御役目を無事に終え、学園への帰り道を行く僕は、両腕に沢山のお菓子を抱えた悠太君と一緒に歩いていた。
御役目を終えた後、工事現場を出て学園へと帰る僕達は、少し寄り道して帰るからと言う狼君と弥子君とは別れ、二人で帰路に就いた。一緒に着いて行こうとする悠太君に、二人はすぐに追いつくからと言い僕達の背を押した。
そんな訳で僕達は二人で学園に帰っているのだけれど……。途中でコンビニに寄りたいと行った悠太君は、見た事もない程大量にお菓子を買い込んで、それを僕の口に放り込んでいる。
「悠太君、こんなに買って食べ切れるの……?」
「僕は廻君と一緒に食べるんですっ」
そう言って、悠太君はまた一つチョコレートを僕の口に放り込んだ。
でも、何となく分かってる。
きっと、悠太君は僕を励まそうとしているのだろう。やはり外では化け物と呼ばれた僕を、彼なりに元気づけようと。
悠太君が気にしないようにしたつもりだったけど、やっぱり優しい彼には隠せなかったみたいだ。僕を気遣って、敢えてその事を口に出す事はせずに、悠太君はいつもの眩しい笑顔で笑った。
口の中で溶けたチョコレートが、喉を伝って痛んだ心に優しく染み渡っていく。
綺麗な青空の下、人も疎らな道を、僕達は文字通りはしゃいで歩いた。
「廻君!これ僕の好きなやつなんです!」
「ちょ、悠太君っ!あんまりはしゃぐと傷口開いちゃうよ……!」
____ふと、トンっと肩がぶつかる。
僕の方を向いて逆向きに歩く悠太君の肩が、通りすがりの人の肩にぶつかったのだ。何も珍しい事は無い、何処にでもある光景の一つ。
ぶつかった人の持っていたシュークリームが、びちゃっと無惨にも地面に叩き付けられる。
「わっ、すみません!……あっ、シュークリームが……!」
よろよろとよろめいた男性は、無惨に飛び散ったシュークリームを見つめたまま動かない。申し訳なさそうに眉を下げた悠太君が、背を向けたまま動かないひ弱そうな男性へと謝る。
薄手の大きめのパーカーを着て、膝下丈のハーフパンツに黒のレギンスを履いたひ弱そうな男性は、心配そうに近付いた悠太君の方をゆっくりと振り返った。
肩の長さまで伸ばされた薄紫色の柔らかそうな髪の毛は緩くハーフアップに束ねられていて、真ん中で分けられた前髪から覗く目は気怠そうに此方を見て開いている。何よりも、僕と同じように目の下に刻まれた隈がとても印象的だった。
「え……君は__」
バァンッという音と共に、目の前が真っ赤に染まった。
びちゃびちゃとその赤を撒き散らしながら、辺りを赤く染める。
「ッめ…ぐ、るく……、にげ__」
バァンッとまた一つ音が鳴れば、ドサリと力無く倒れて動かなくなった。
なにが、起こった____?
どうして、真っ赤に染まった悠太君が倒れてるんだ?
振り返った男の手が悠太君の右腕に触れたかと思うと、男を見て目を見開いた悠太君の右腕が爆散するように飛び散った。勢い良く飛び散る真っ赤な血が、僕も、悠太君も真っ赤に染め上げて。酷く焦った様子の悠太君は、何か言いながら残った左手を使って僕の体を後ろへと押し出した。背後の男の手が、そんな悠太君の右下の背中辺りに触れたかと思うと、バァンッと音を立てて触れた部分が弾け飛んだ。右下の背中に大きな穴を開けた悠太君の身体は、四方八方に血を撒き散らしながらドサリと力無くその場に倒れる。
「ゆう、たくん……?」
地面に横たわったまま動かない悠太君からは返事がない。悠太君の周りに出来る赤い水溜まりは、どんどん広がっていって、腕に抱えていた大量のお菓子達が、辺りに散乱して水溜まりに沈んでいく。
何が、起こった。
何で、悠太君は動かないの。
何で、何で、悠太君は息をしてないの____
「ッッ悠太君!!!!!!!」
漸く状況を理解した僕は、血の海に横たわる悠太君に駆け寄る。その身体を抱き起こすと、右腕を無くし右下の背中部分が欠損した悠太君の身体は、びちゃびちゃと音を立てて持ち上がった。どれだけ呼び掛けても、薄く目が開いたままの瞳には何も映る事はなくて、小さく開いた悠太君の口から音が発せられる事はない。何の力も入っていないであろうその身体は、鉛のように重たい。
う、嘘だ……ッ、こんなの嘘だ…………!!
口や鼻から血を流して、欠けた身体からはとめどなく血が溢れ出て、僕の問い掛けに答えることも無く、呼吸の止まった悠太君の姿は……。
これじゃ、まるで……悠太君は死んでるみたいじゃ、
「あー、最悪……外側から壊した……チッ、汚ったな…」
不自然にこの場に響く声に、僕はゆっくりと顔を上げた。
先程悠太君と肩のぶつかった男性が、不機嫌そうに眉を顰めて舌打ちを零す。彼の衣服にも悠太君の血が沢山飛び散って、血で汚された服を見ては汚い物を見るようにそう吐き捨てた。
「……君が、やったの…?」
酷く呼吸の乱れた僕が、静かにそう問掛けると、彼はやっと僕の姿を瞳に映した。彼の黄緑色の瞳が、気怠げに僕を見下げる。
「何でっ、こんな事するんだよ……!こんなのっ、人間じゃなッ__」
自分の言おうとする言葉に、僕ははたと気付く。
____人間じゃない?
確か、竜胆先生は言っていた。
妖は階級が上がる事に、その形は僕達人間そっくりに成っていくと。人の言葉を話し、その姿は普通の人間と区別がつかなくなっていくと。
もし、もしも彼が、人間じゃないとしたら__?
S級よりも遥かに上の、知能を持った僕達人間そっくりの妖だとしたら?
彼は____
「……君は、SS級の……、妖…なのか?……っ」
その言葉に彼はピクリと反応した。ゆらりと僕の目の前に立った彼は、見た事もない程の冷たい瞳で僕を射抜く。
「は……?僕をあんな気持ち悪いやつ等と一緒にしないでよ」
その瞳に背筋がゾッと冷え、僕は言い様のない恐怖に震え上がる。
殺される____、僕は率直に思った。
「……なんで、ッこんな…酷い事、するんだよ……っ悠太君が、何したって言うんだッ……」
涙を滲ませてみっともなく震え上がりながら、僕は目の前に立つ彼に言葉をぶつけた。さっきまで楽しそうに笑ってた悠太君が、僕を気遣う優しい悠太君が。何で、血の海の中、力無く横たわってるんだ。
震え上がる僕を見下ろす彼は、その言葉に力無く首を傾けて。
「何でって……、弱いからでしょ」
「…………………は」
「弱いから、死ぬ。弱いから、僕に殺される。弱い奴が強い奴に殺されるのなんて、当たり前の事でしょ」
まるで温度を持たないその声が、容赦なく僕達を突き刺す。道端に転がる石ころのように、固く動かない僕達を、彼は冷たい瞳で突き刺してくる。
いつの間に脱いだのか、サンダルを脱いだ彼の裸足の足がゆっくりと持ち上がる。後ろへと少し助走をつけて、道端の石ころを蹴るように彼の足が僕の目の前に迫る。
その瞬間、僕は唐突に思い出した。
闘う力を持たない弱者が、圧倒的な力を持つ強者に支配されるのは、この世では当然の摂理だと言う事を__
____バァンッ
第六話『共喰い 上』-完-




