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第五話『迷い猫』其ノ肆


 

「え…………」


 困惑して辺りを見渡すけど、まるで神隠しにでもあったかのように彼女の姿は何処を探しても見つからない。


「消えた……?」

「廻君!やっと見つけましたよ!!」


「もー何処行ってたんですか!」と、いつの間にか僕の所まで来ていた悠太君が僕の肩を掴んだ。

 消えた彼女に戸惑いながらも「ご、ごめんね……!」と謝った僕に、悠太君はほっと安堵したような表情を浮かべた。


「ほんと心配しました……。廻君が無事で良かったです」

「……うん、ごめんね。探してくれてありがとう」


 「狼君と、弥子君もごめんね」と悠太君の後ろに立っている彼等に言う。そんな僕に「気にしないで」と弥子君が言うと、狼君も僕を見て笑った。


「お前、スマホどうしたんだよ」

「寮に忘れてきちゃって……」

「相変わらずだな」


 苦笑いを零した僕に、狼君はその綺麗な銀白髪を揺らして可笑しそうに笑った。さらりと風に揺れる狼君の銀白髪が、何となく彼女の綺麗な白い瞳によく似て見えて、僕は消えた彼女の姿を思い浮かべた。


「こんな時間じゃ、もう学園を見て回るのは無理そうだね」

「あ……、大丈夫だよ!もう、見て回ったから」


 弥子君にそう言って、僕は彼女の消えたこの学園をぐるりと見渡した。そんな僕を、3人は不思議そうな顔をして見た。


「誰か一緒にいたのか?」

「いや、えっと……」


 問いかけてきた狼君に説明するのには、彼女の存在はとても曖昧だった。


 彼女の名前も、歳も、学科も……。僕は彼女の事を何一つ識らない。

 

 のらりくらりと、自由気ままで、綺麗な白い瞳を光らせる彼女は、まるで____


 







「………猫」


 







 僕は遠くの景色を見つめて呟いた。猫のように、気がつくとふらりと何処かへと行ってしまった彼女を思い浮かべて。




「野良猫でも居たのか?」

「……ううん、何でもない」


 首を傾げた狼君にそう聞かれたけれど、僕は何故だか彼女との出来事を話さなかった。それが何でなのかは分からないけれど、僕の中に宝物のようにしまっておきたかったからなのかもしれない。


「もうすぐ日も暮れるし、帰ろうか」


 そんな僕の気持ちを察してか、弥子君が優しく帰りを促した。



 

「も〜廻君、僕めっちゃ探したんですからね!」

「それにしては悠太君、沢山お菓子持ってるんだね」

「こ、これは、致し方なく……」

「致し方なく??」


「見ろよ弥子、また校舎壊滅してるぜ」

「体育科はまじで馬鹿の集まりなの?」

「あーあ、俺も行きゃ良かったわ」

「聞くまでもなかったね」



 

 僕達は4人揃って帰路に就く。周りの生徒達と同じように会話を弾ませながら、声に出して笑い合う。


 






 僕達も、楽しそうに見えるだろうか。


 





 ふとそんな事を考えて、僕は後ろを振り返る。そこにはもちろん彼女の姿なんか何処にも無くて。



 

 ____名前、知りたかったな。



 

 そんな想いを馳せながら、僕は再び帰路に就いた。
















 



















 __


 同時刻 学園内某所____















「___あ、やっと戻って来た。何処行ってたの?」



 学園内の屋上に、静かに立つ3つの影。そのうち2つは男、1つは女のようだった。

 2人の男はどちらも、足まで覆う黒くて大きな袖なしの外套を羽織り、深くフードを被ったその顔は口元しか見えない。

 

 たった今合流した様子の女は、学園の高等部の制服を身に纏い、その長い黒髪を靡かせて屋上から下を見下ろす2人へと近付いた。彼女の足取りは空を飛ぶ鳥のように軽い。


「ちょっと、ね」


 含みを持たせてそう言った彼女は、彼等と同じようにして下を見下ろした。


「嬉しそうだな、なんか良い事でもあったかぁ?」

「うん、とても」


 最初に問いかけた男とは別の、もう一人の男が問いかけた。

 

 彼女はその死人のように白い腕を空へと伸ばして手を掲げた。空と同じオレンジ色に染め上げられたその白い指には、赤い血が付着している。





















 

「血と宣誓____



 今日は本当に善い日だった」




















 

 強い風が吹いて、バサッと男の大きな外套を広げる。それが一瞬彼女の姿を覆い隠して、再び彼女が現れた時には、その姿は制服ではなく彼等と同じ大きくて黒い袖のなしの外套を纏った姿に変わっていた。




「それにしても、学園(此処)はとても楽しそうなんだね」




 そう言って彼等は唇に怪しい笑みを浮かべて学園を見下ろした。



 

 その笑みの持つ意味は、一体何なのか____。



 

 夕陽に染まるこの学園に、何も識らない生徒達の笑

い声が響き合う。


 この学園の中、楽しげにはしゃぐ生徒達の姿は、能力を持たない普通の人間とさして変わらないように映る。


 そんな生徒達で溢れる学園内で、ただ静かに彼女が見下ろす視線の先には、仲良さげに帰路に就く回道達の姿があった。




 




















 

「ねえ、見えてる______?」


 

























 

 

 鈴のような声は、届かない誰かへと問いかけるように。




























 

「________みんな、楽しそうだよ」





























 

 その声は誰に気付かれることもなく消えた____




















 

 第五話「(まよ)(ねこ)」-完-

第五話『迷い猫』読んでいただいてありがとうございます。


 第五話の題名である『迷い猫』とは廻と不思議な少女、そしてこの学園で暮らす能力者達の事も指しています。誰もがみんな、迷い猫のようにふらふらと迷っている最中なのです。

 この五話では意図的に不穏さを全面に出しました。不思議な少女の名前を伏せたのも意図的です。彼女は敵なのか味方なのか、そこも楽しみに今後も読んでいただけると嬉しいです。


 また良ければ次回も読んでいただけると幸いです。

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